第22話1.22 王城図書室2
自己紹介の済んだところでお茶が運ばれてきたのだが、俺はとても居心地が悪かった。
なぜならアズキがずっと俺の後ろに立ったままであったからだ。
「アズキ、座ろうか」
「いえ、とても座れません」
俺のお願いにも肯かないアズキ。
奴隷という立場上、座るわけにはいかない。
それは分かるのだが、俺としては全く寛げない。
仕方なく――
「それなら、命令だ。座れ」
「……分かりました」
と座ってくれた。
ふりのはずの奴隷が初日からこの調子では、と頭を悩ませる行動だった。
でも、座ってしまうと――口調は堅いままだが――カーチャ王女と楽しげに話しをしていた。
俺としては普通にしてほしいのだが、無理なのだろうか? 帰ったら話し合わないとな。と心に決めて、俺も会話に加わった。
シンゴ王子には来年受験する魔法学園のことを教えてもらった。
この魔法学園、名をベタに『イチジマ魔法中等学校』と言い丹波連合王国一の魔法学校で全国から受験生が来るらしい。
受験は12歳から15歳まで出来て、通常カリキュラムなら3年で卒業できるようだ。
横には高等学校も併設され、進学も可能だとか。
加えて飛び級のシステムもあり、過去数名、1年程で卒業した人もいるようだ。
また逆に試験に落ち進級できず何年も学園に残る人もいるらしい。
「世の中には、天才がいるのですね」
「そうだね。その1年で卒業した人は、帰挟者だったようですよ。トモマサ君も1年で卒業出来るんじゃないかな?」
サラリと嫌味なく告げるシンゴ王子。
俺とは違って本当にイケメンだと思う。
王子だし、きっと頭もいいのだろう。
でも俺は自分を良く知っている。凡人だと。
だから。
「俺は、田舎でのんびり農業していただけだから、飛び級なんて難しいと思うよ。同じ帰狭者でも、頭の出来が違う人だよきっと」
「またまた、謙遜して。伝承では、賢人って伝えられているからね〜。信じられないよ」
全く伝わらなかった。
またしても伝承が邪魔をする。
しかし賢人って、どんな伝承残しているんだ。
俺は考えれば考えるほど浮かんで来るヤヨイのにやにや顔に辟易しながら。
「シンゴ王子、俺は本当に21世紀では普通の人だから、伝承は、きっとヤヨイあたりが誇張に誇張を重ねて作っただけだからきっと――」
必死に説明した。
来年から一緒に学校に通うのに変に期待されても困るから。
「なるほど、分かったよ。伝承は別物だと思っておくことにするよ。素のトモマサ君と友達になりたいしね」
流石イケメン王子。
またしてもサラリと受け入れてくれた。
一安心である。
その後も話題転々と変わり、海外の事情へと移っていった。
ハーフなら図書館にはない生の情報が得られるかと思って俺が聞いたのだ。
交易がほとんどなくシンゴ王子もそれほど詳しくは無いと前置きをした上だったけど、教えてくれた。
大陸には、たくさんの国が乱立していて領土争いの小競り合いばかりしていると。
あの民族は、1000年経っても変わっていないようだった。
「ところで、海外って行けるの?」
「近くの国は、船でいけるよ。あと、転送魔法かな。でも、遠くの国に行けるほどの魔素を持った人は少ないので外交官以外が行く事は滅多にないけど。トモマサ君は、どこかの国に行きたいのかい?」
「いつか行けたらいいなぁとは思う。けど、まずは国内を見て回りたいかな。きっと色々変わっているだろうし」
でもその前に、自分の身の振り方を考えないとね。
このままじゃ、ヤヨイのヒモだから。
旅行が出来るぐらい稼げるように頑張って勉強しよう。
後は街の流行など、たわいない話をして屋敷に帰った。
翌日も朝からアズキの匂い嗅ぎで目がさめるが、まだまだ眠かった。
昨晩はアズキと部屋で話をしていたら寝るのが遅くなったためだ。
誤解のないように言っておくが、本当に話していただけだナニもしていない。匂いはかがれたが。
でもおかげで、なるべく奴隷を意識せずに生活してほしいという、俺の要望を受け入れてくれた。
たったそれだけのことなのに長い長い話になったのは、ただただアズキが頑固だったからだ。
「罪を償わないといけません」
と言ってなかなか譲らなかったけど、最後は俺の、主人の心からのお願いとして頼み込んでようやくなのだから、頑固すぎるだろう。
「アズキ、もういいか?」
「おはようございます。トモマサ様。今日も朝の元気頂きました」
昨晩遅くにかなり匂いを嗅いだはずなのに、朝からフルコースで嗅いでいるアズキ。
ちゃんと寝ているのか心配になる行動だった。
俺は着替えて朝食に向かう。
今日は珍しく洋風朝食だった。
パンにポタージュスープにベーコン目玉焼きに野菜サラダ。
美味そうだった。
俺が手を合わせているところで、ヤヨイも来たので一緒に食べ始めた。
そして昨日の王城の図書室の感想や、その後出会ったカーチャ王女のことなどを話していく。
「カーチャ王女は回復魔法が上手なのよ。来年から魔法学園に通うから仲良くしてあげてね。……嫁候補だし」
最後だけ、ぼそっと話すヤヨイ。
食べるのに夢中で例によって良く聞こえなかったが、それよりもカーチャ王女が来ることの方が嬉しかった。
「そうか学園で一緒か。アズキとも仲良さそうだし、楽しみだな」
俺とずっと一緒にいるアズキだけど、それだけでは疲れてしまうだろう。
あの街の図書館の書士さんみたいに女子だけでの話も必要だと思う。
俺も一人の時間が欲しいしと思ったところである事を思い出した。
「そうだヤヨイ。俺、体鍛えようかと思うのだけど、何処かにいいランニングコース無い?」
アズキに負けないよう体力付けたいと言う俺の希望に対するヤヨイの返事は、想定外の言葉だった。
「父さん、21世紀じゃないのだから、ランニングなんてしている人いないわよ。やるなら剣術か体術ね。だけど、貴族なら剣術かな? 昔、剣道やっていたし得意じゃないの剣術」
「剣道は、高校の授業でやっていただけだから、得意ってほどじゃないよ。でも、剣術か。魔物のいる世界なら、武器の扱いを知ることも必要か。やってみるか。ヤヨイの警護の人で誰か得意な人紹介してよ」
「分かったわ。(嫁)候補を探しておくわ。ちなみに、体術ならアズキに習いなさいな。あの子、かなりの柔術士よ」
成る程、それでベッドの上であんなに見事な押さえ込みが出来るのか、と一人感心しながら朝食を平らげた。
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