第123話3.20 前準備
模擬戦の後、俺たちは少し早い昼食を取ってから、商人ギルドを訪ねていた。
アイテムボックスにため込んだ、食料を売る為に。
「おはようございます。食料品を売りたいのですが」
俺は、受付に座っている、制服を着た綺麗なお姉さんに声を掛ける。
「それでは、こちらの用紙にご記入をお願いします。品物は、どちらに御座いますか? 馬車でしょうか?」
「はい、品物は、アイテムボックスに入っています。どこに出しますか?」
「お客様、少量でも買取は致しますが、直接飲食店などに販売した方が高いと存じますが」
アイテムボックスと聞いて、量が少ないと判断した受付嬢が提案してくれる。
まぁ、普通の人のアイテムボックスなら量はあんまり入らないからな。
商人ギルドとしても手間を考えると割りに合わないと踏んだのだろう。
「えっと、米、麦、味噌、塩など、トン単位で持ってますが」
「え、アイテムボックスですよね?」
受付嬢が疑いの目を向けてくる。
「まぁ、出しますから場所を決めて下さい」
俺の催促に受付嬢が仕方なく横の倉庫に案内してくれた。
アイテムボックスから食糧を出していく俺。
受付嬢は、目を白黒させて驚いていた。
「これで、全部です。買取お願いします」
出し終えた食糧の山を見て呆然としていた受付嬢にお願いすると
「査定員を呼んできます」
と、慌てて戻って行った。よっぽど驚いたようだ。
「それでは、査定しますので、受付の横のブースでお待ち下さい」
「分かりました」
査定員と共に戻ってきても、未だ驚愕の目を向ける受付嬢の前を歩いて指定のブースに行く。
30分ほどで査定員がやって来た。
見積もりが出来たのだろう。
「米、小麦粉、味噌、塩、合わせて、白金貨2枚で如何でしょうか? 明細はこちらになります」
各重量と単価が書かれた見積書を見せてくれる。
俺が商人から買った値の2倍の価格だな。特に塩の単価が高かった。
「その価格で構いません」
「ありがとうございます。助かります。最近、行商人の方があまり来られなくて在庫が減るばかりで困ってたんですよ。これで、一息つけます。またあったら持って来て下さい。いくらでも買取りますよ」
やはり、それなりに困っているようだ。
「分かりました。1番足りないのは塩ですか? 価格が高いようですが」
「ええ、そうなんです。穀物は、この辺りでも栽培していますから、ある程度は余裕があるのです。ですが、塩は、どうしても取り寄せになりますので行商人が頼りなんです。よろしく頼みます。ああ、申し遅れましたが、私、当商人ギルドの副ギルド長しております、タナカ タイチです。次回は、直接私を呼んでもらえると話が早いと思います。あの量がアイテムボックスから出てくるなんて、普通の人なら怪しむだけですから」
そうか、確かに普通の人のアイテムボックスなら、魔素量から言って米100kgも入ったら満杯なのだろう。
俺なら、まだまだ余裕があるけどね。
「また、来ます」
代金を受け取った俺たちは、商人ギルドを後にした。
次は、シンカイさんの所だと、皆を集めて転移魔法でイクノの町へ飛んだ。
「シンカイさん、こんにちは。刀出来てますか?」
店の中に突然転移して来た俺たちに驚いていたシンカイさんだったが、一つ頷くと奥から色々と持って来た。
急いでたので出る場所、間違えたのだ。
「ちっちゃい剣士の刀以外にも幾つか作っておいたぜ」
ドラゴンの革のマントに靴に帽子に他にも牙から作った短剣や髭から作った弓なんかもある。
いったいどれだけ作ってるんだ?
「これみんな、シンカイさんか作ったんですか?」
「ああ、革の鞣しは、知り合いに頼んだがな。それ以外は、全部自分でやったぜ。いやー、これほどの素材だ。楽しいのなんの」
とっても、いい笑顔のシンカイさんだが、よく見ると目の下に大きな隈がある。
ほとんど寝てないのだろう。
でも、これだけあれば、皆に装備が行き渡るな。
「ありがとうございます、シンカイさん。これで、明日からの探索も安心です。しばらく領域に籠りますので、シンカイさんは少し休んで下さい」
自分がやりたくてやってたシンカイさんのようだが、これ以上頑張られて倒れられても困るので、しばらく休むようにお願いする。言う事を聞いてくれるといいのだが。
代金を聞くと、今まで貰ってる素材でお釣りが来るそうで、要らないと言われた。
どれだけ高いんだ、ドラゴン素材。
皆に、装備を分けて行く。
前に貰った魔水晶の指輪は、カリン先生に。刀は、ツバメ師匠に。弓はアズキに。
それぞれ渡し、短剣は、俺が持つことにした。他の帽子やマントなんかは数が十分にあるので、カーチャ王女にも渡しておいた。
下手に渡すと、また奴隷にとか言って来るかと心配したが、優雅に礼を言われただけで物凄く普通だったのが逆に怖かった。
その後はツバメ師匠から少し慣らしたいとの要望があり、近くの領域に向かう。
明日から領域に籠るのにツバメ師匠は、相変わらずの戦闘狂のようだ。
「うむ、トモマサの刀には劣るが見事な斬れ味だ。流石、シンカイ殿の刀だ」
出て来たワイルドボアを一刀の元に切り裂いたツバメ師匠が、感動していた。
いや、俺の刀と比べないで欲しいな。
また落ち着いて魔素に余裕が出来たら作ってあげますから。
「私は、もう少し、調整が必要なようです。魔法の威力がこんなに上がるなんて。恐ろしい道具ですね。魔水晶は」
ホーンラビットに『風刃(ウィンドカッター)』を放ったカリン先生が、困り顔だ。
軽くはなったつもりの魔法が魔物を切り裂いた後、20m程先の大木まで切り倒したものだから、威力調整に梃子摺っているようだ。
そんなカリン先生も何度かの戦いだけで調整してしまうのだから、流石100年に一度の天才と言ったところか。
他の皆も新しい装備での動きの確認を終えたようなので、少し早い時間だけどアリマの町に帰ることにした。
宿に帰って温泉に入る。
また、家族風呂にとも思ったが止めておいた。しばらく風呂に入れない環境になるんだ。
皆ゆっくり入りたいだろうと思って。
それでも生活魔法があるので、21世紀みたいに汗だくで臭いまま過ごす必要がない。
登山を終えた時のあの臭いを知ってる俺としては、とても有難いことである。
まぁ、汗臭いアズキやカリン先生も大好きだったりする。
特に、おいに敏感なアズキは、反応が全く異なって――非常に燃えるから
そんな事を思い出しながら、一人、温泉を堪能した。
温泉の後は夕飯を食べ、少し翌日の打ち合わせをして早めにベッドに入った。
明日は、夜明けと共に出発だから。
1人先に寝ようと目を閉じたのだがアズキがベッドに入って来たので、仕方なく少しナニしてから眠った。
本当に本当に今日はするつもりは無かったのだけど、アズキの胸に負けた。
あんな凶悪な物体を押し付けられては、若い体が我慢できなかった。
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