第173話4.36 対ブルードラゴン

 元の場所に戻った俺達は、ヤヨイに経緯を聞いていた。

「何てこった。既に魔物の大群が向かっているのか。それで数は?」

 俺の問いにクイナさんが答えてくれる

「ジャイアントウルフが800匹ほど。クイーンビーが一匹にジャイアントビーが1000匹ほど、それにグレートビーも600匹ほど。そしてそれに合わせて、アイアンアントの軍団がいたわね。あの数ならブロンズアントやシルバーアントもいると思うわ。草葉に隠れてたので数は不明。少なくても5000匹は超えてると思うけど……」

「アイアンアントだと。これまでこの街に来なかった魔物ではないか。何でこのタイミングで」

 ミツヨリお義父さんが、苦しげな声を上げて問うと、ヤヨイが重々しく口を開いた。


「スワ家当主のスワ ミツヨリ殿だな。話をするのは、これが初めてかな。アシダ ヤヨイだ。父がお世話になっておる」

 そう前置きをして、今回の事件のあらましを初めから説明し始めた。

 元々の魔物の暴走から今回の魔物の襲撃まで全てが関東貴族の陰謀であると。

「な、何と言うことだ。そうだったのか」

「お父様、ごめんなさい。私のせいで……」

 悔しげな顔をしていたミツヨリお義父さんであったが、カリン先生が謝って来たことで大きく首を横に振った。

「いや、カリンが謝る事ではない。悪いのは全てあの関東のオバタ伯爵だ。それに今回の事を聞いて、私は自分を誇らしく思ったよ。カリンを守ることが出来たと。好きな男を射止めて結婚出来るような良い女性に育てることが出来たと。寂しくなかったかと言われてば嘘になるがな」


 カリン先生の肩に手をおいて優しく語るミツヨリお義父さん。

 本当に素晴らしい父親だった。

 カリン先生も涙ぐんでいる。

 俺が良い話だなぁと思ってると、その横でヤヨイがつぶやいてる言葉に俺の顔は引き攣ってしまった。

「へぇ、良いお父さんねぇ。うちの父親とは、大違いね。あ、でも父さんとカリン先生が結婚したら、私のお祖父さんになるのか。何か、妹弟にばかり気を取られてたけど、お祖父さんも良いわね。父さんよりお祖父さん甘えさせてくれそうだし」


「おい、ヤヨイ。俺をディスるのは良いけど。ヨリミツお義父さんに迷惑をかけるなよ」

「へぇ、もうお義父さんって呼んでるのね。私もお祖父ちゃんって呼ぼうかしら?」

 俺のツッコミも受け流して更に危なそうなことを言うヤヨイ。

 やめろよ。

 『お祖父ちゃん』ってそんな悪い顔で言う言葉ではないだろう。

 そんな俺達の話し声が聞こえたのだろう、ヨリミツお義父さんも引き攣た顔で

「ヤヨイ様が孫になるのか……」

 ってつぶやいていた。


 すみません。お義父さん。

 ヤヨイが迷惑かけないように俺が頑張りますから、結婚取り消しとか言わないで下さいね。

 そんな俺の心の願いを口に出そうとしたところで、クイナさんから真面目な話が出て来た。

「それで、どうしますか? 恐らく奴らは、ドラゴンと行動を合わせてスワの町を完全に破壊するつもりだと思いますよ。時間も無いですし、撃破なり撤退なりを決めてもらいたい」

 実に真っ当な意見だった。

 遊んでいる暇はない。

 俺は即答した。


「もちろん、撃破します!」

「出来るのか。婿殿?」

 そこにヨリミツお義父さんが疑問を呈する。

 俺の即断に危うさを感じたのかもしれない。

 だが俺には、秘策があった。

 いや、そんな大層な物では無いのだが、街の外ならやりようがある。


「やります。やらせてください」

 俺はミツヨリお義父さんに断りを入れて、対応を仲間にお願いする。

「コハク、街に向かってくる魔物の一掃を頼んで良いか? コハクもスワの町、守りたいだろう? 街の外なら思いっきりブレス吐いて良いから。後、ツバメ師匠、『ドラゴンごろし』使って下さい。ドラゴンも一気に潰したいです。その後は、皆で雑魚一掃です」


「分かったー」

「むぅ、分かったのだ。これ以上、この街が潰されるのも見たくないからの」

 ツバメ師匠は渋々であったが、2人の了承の言葉を聞いた俺は、直ぐにコハクに行動を開始してもらうためにコハクを連れて街の外へと飛んで行った。

 あの場では周りに傭兵達もいるので、コハクが白龍だとバレないように人気のないところに移動したのだ。

 街の外に行くと、何故かクイナさんもついて来ていた。

「あれ、クイナさん、どうしたんですか? ヤヨイの護衛では無いんですか?」

「護衛は、メイド長だけで十分だ。あの体は、全盛期の頃の体なんだろう? そこに1000年分の知識と経験まで詰まってる。今のヤヨイ様を害する事は、誰にも出来ないだろうな。出来るとすれば、君ぐらいかな。だから護衛なんて必要ない。私は任務を優先させてもらうよ。あの魔物の大群の中にテイマーの男を捕らえたくてね。何、心配いらない。私は影に潜んで行動するから」

 クイナさん、相変わらず言う事が男前だ。

 でも流石に白龍のブレスは心配だ。

 一応、コハクにも釘を刺しておかないと。


「コハク、この人殺さないようにね」

「分かったー。気をつけるー」

 相変わらず呑気な声を上げるコハク。

 大丈夫だろうかとクイナさんを見ると肯いてくれた。

 まぁ、あそこまで自信たっぷりなら大丈夫か。そう思った俺は、コハクにGOを出した。


 その瞬間、頭上にジェット機並みの大きさの白龍が姿を現した。


「うぉ‼‼」

 大声を上げるクイナさん。

 流石にビビったのかと思って顔を見たら、物凄いキラキラした笑顔を見せていた。

 この人、あれだ、男前と言うより少年のような心の持ち主だな。

 流石、長年ヤヨイの部下を出来る人だ。

 普通の人ではないようだ。

 そんな事を思っているうちにクイナさんは俺の前から姿を消した。


『ドオゴオオオオオーーーーーーーン』


  クイナさんがいなくなった後、俺が転移で元の場所に戻ってまず聞こえて来たものは、物凄い轟音であった。そして、その音の方向から物凄い光が放たれている。

「ははは、あれがコハクのブレスか。コウベの領域でくらわなくて良かった……」

 音と光を感じながら俺がつぶやくと、あの時コウベにいたであろうメンバー全員が肯いていた。

 うん、アレは強力すぎる。これからも使い所は見極めていこう。

 密かに心に誓った俺であった。

 ちなみに、後に豊富な水をたたえ魔物を寄せ付けない第2のスワ湖、又の名をハクリュウ湖と呼ばれる湖(クレーター)が出来たのはこの時である。


 その激しい轟音が収まった頃、俺の耳に『ピコーン』とアラームが鳴った。追跡魔法によるドラゴン接近の合図だ。

「近いよ」

 皆に告げて、戦闘態勢に入る俺達。その視界に入ったブルー水属性ドラゴンの見た目は、完全に太古に滅んだはずの首長竜だった。

「レッドドラゴンと全然形が違うんだな」

「そうですよ。ドラゴンは、属性によって形が大きく変わります。でもどのドラゴンも小さな翼を持って空を飛ぶのだけは同じです。あいつも、背中にあるでしょう?」

 俺の疑問に答えてくれたのは、当然、カリン先生だ。

 本当に何でもよく知っている。

 そしてドラゴンの背中を見ると確かに小さな翼があり、足元を見ると少し浮いているようだった。


「成る程。あのヒレでどうやって歩くのかと思ったら浮いてたのか。それなら、話は早い。重力魔法で叩き落せば機動力は激減だな」

 俺の話に頷くカリン先生。

 そうこうしているうちにドラゴンは近付いて来て、所定の場所に到達した。

「それじゃ、行きます。『重力上昇グラビティ・アップ』」

 事前の計画通り重力魔法を発動させた俺だったが、少し困惑していた。


「何だ? 抵抗されている? 以前のレッドドラゴンと同じぐらいの魔素を込めたのに? 力が足りない? 仕方ない。もっと強力に『重力上昇グラビティ・アップ』」

レッドドラゴンの5倍ぐらい魔素を込めて重力魔法を発動すると、ようやくブルードラゴンは動きを止めた。

「ツバメ師匠、気を付けてください。まだ、抵抗を感じます。前回のレッドドラゴンより強いです」

 ツバメ師匠、「分かった」と言い残して、ドラゴンに斬りかかる……が、ドラゴンは首を動かしてツバメ師匠を威嚇した。

 どうやら、まだ、完全には動きを封じていないらしい。

 威嚇を避けるためにバックステップで下がったツバメ師匠にドラゴンがブレスを吐こうとする。


「師匠、危ない!」

 俺は咄嗟に叫ぶが、重力魔法で手を取られてるので魔法の発動が間に合わない。

「前回と同じ轍を踏むのか!」

 と思ったところに研ぎ澄まされた氷の弾丸がドラゴンを襲った。

「GUGYAーーーーーA」

 突如、飛来した氷の弾丸に左目玉を貫かれたドラゴンが叫び声を上げていた。

 誰が? と思って見ると、なんとヤヨイだった。


「ツバメさん、今よ!」

 ヤヨイの声でツバメ師匠が斬りかかる。

 そして一刀の元に首を切り裂かれるドラゴン……そして、ドラゴンは、活動を止めた。

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