第174話4.37 雑魚処理

 話は少し遡り、ドラゴン討伐の朝の事である。

「くくく、俺はついてる。運良く外に出ているゴールドアントを見つけてテイムできたのだからな。これで、魔物の数は十分だ。数えてはいないが、通常ゴールドアントの巣には、数万からのアイアンアントがいるのだからな。十分だろう」

 シオジリの領域の深い森の中、陰気な男が似合わない笑い声を上げていた。

「さて、蜂よ、犬っころ、そして蟻よ。行くぞ。スワの町へ」

 そう言って進んで行く魔物の軍団。

 もちろん男は、シルバーウルフに跨っているだけであるが。


 それから数時間、魔物の軍団はシオジリの領域を抜け進んで行く。

 それを影から見られているとは気付かずに。

 いや、知っていて無視したのかもしれない。

 なにしろ、人が対応しようとするなら万を超える軍勢でないと対応できないような数の魔物が揃っているのだから。


 更に数時間進んだ所で、ようやくスワの町が遠望できる所で男は休憩していた。

「全く、蟻は動きが遅いな。蜂と犬っころだけなら1時間もあればスワの町に着くところを。だが、もう少しだ。魔物達は、先行させたからな。間も無く、仮作りの街など蹂躙されるだろう。くくく、これでもうここに来ることも無くなるな。早く帰って、あの鹿娘を……」

 陰気な顔でブツブツつぶやく男。新しく買った奴隷の事を思いニヤけた顔を晒した時に、突然、それは目の前で弾けた。


『ドオゴオオオオオーーーーーーーン』


 激しい光と共に聞こえてくる轟音に目と耳を潰された男は、その後飛散する大量の土砂に埋もれ、なす術もなく意識を失った。

 起こった事すら全く知ることも無いままに。

 

 轟音から数十分、ようやく土煙りが薄くなってきた頃に一つの人影が、ちょうど男が埋もれた辺りに姿を現した。クイナである。

「全く、恐ろしいほどの力ね。地形が完全に変わってるんだから、探し物をする身にもなってほしいわね。でも、なるほどね。これなら、こんな力があるなら強気に出れるわね。たった一撃で万の軍勢の9割を消滅出来る力があるんだから」

 そんな事をつぶやきながら、しばらく辺りをうろついたクイナ、ようやく目的のものを見つけたようだ。


「ああ、この下ね。あの男の魔素を感じられるわ」

 そう言って、穴を掘っていくクイナは、男を掘り当てる。

「ふーん、命に別状は無さそうね。まぁ、こいつの命が危ないのは、これからだけどね。情報を吐いても吐かなくてもね〜」

 掘り出した男を見ながら物騒な事を言うクイナ。

 男を縛り上げていく。

「ま、こんなもんでしょ。さて、ヤヨイ様の元に帰りますか」

 そのつぶやきと共にクイナと男は姿を消した。


---


「全く、まだまだね。父さん。もっと戦闘経験を積まないと。豊富なのは、魔素量と精力だけなの?」

 ドラゴンが動きを止めて、沈黙していた俺達を見ていたヤヨイが俺をディスり始めた。

「いや、俺も頑張ったんだぞ」

 そう言って反論するもヤヨイの目は冷たい。

 いや、本当に全力で頑張ったんだよ。

 確かにちょっと危なかったけど。

 そんな事を考えていると、アズキから声が上がった。


「魔物が近づいてきています。広域殲滅班出ます」

 そう言って、弓が射易いポジションに移動して弓を放ち出した。

 併せてカリン先生も少し見晴らしの良い所から魔法を打ちだしている。

 かなりの数がいるようだ。

 全容を掴むため俺は追跡魔法で魔物をフィルタリングしてみると、魔物の動きがおかしかった。


「数が多いな。でも、こっちに向かってくるやつと、逃げて行く奴がいるな」

「ふむ、恐らく、テイマー若くは、テイムされていた群の長が倒されたのでしょ。取り敢えず、向かってくる魔物だけ殲滅するわよ」

 そう言って、向かってくるジャイアントウルフに魔法を打ち出すヤヨイ。

 一撃で倒していた。

 向かってくる魔物を倒し出して数十分、魔物にアント系が加わり出した。

 追跡魔法で確認すると街の外から続々と魔物が入ってきている。


「どうやら、外からの増援も加わり出したらしいな。みんな魔素残量は問題ないか?」

「大丈夫です」

「まだまだ、行けます」

「私も行けるぞ」

「この程度、物の数ではないわ」

「にゃー」

 俺の問いかけに、アズキ、カリン先生、ツバメ師匠、ヤヨイ、はたまた、ルリまで返事をしてくれる。

 皆問題ないようだ。

 ツバメ師匠とルリなんて、近くまで来れる魔物が少ないものだから獲物の奪い合いをしているぐらいなのだから。


 返事の無かった、シンゴ王子やカーチャ王女、ヨリミツお義父さん達も問題無いようだ。

 ツバメ師匠以上に戦う相手がいないようだが。

 ちなみにコハクは、戻って来ていない。

 追跡魔法で見る限り、元気に動き回っている。

 きっと人型に戻って鎚矛でモグラ叩きならぬ、アリ叩きでもしているのだろう。

 心配するだけ無駄そうだ。


 それから、近寄ってくる魔物を潰しまくって数時間、ようやく魔物の数が落ち着いて来たので順番に休憩を入れることにする。

「まだまだ、終わりそうに無いですし、順番に休憩しましょう。取り敢えずアズキとカリン先生、休んで下さい。その間は、俺とミツナガさんで代わりを務めます」

 俺の言葉に、まだまだやれると意気込むカリン先生だったが、

「あんまりツバメ師匠を暇にさせると前線に突っ込みかねない」

 と言う俺の説得? が効いたのか、休憩する気になってくれた。

 生まれ故郷を早く解放するんだと意気込んでいるのは分かるのだが、無理はいけない。

 と言うよりも必要ない。

 何故ならドラゴンがいなくなった今、戦力は過剰にあるのだから。

 そして、休憩に入るアズキとカリン先生。休憩中にとお茶と軽食を渡しておいた。

 ついでにミツヨリお義父さんとツグミツさんには、撃ちもらしの討伐をお願いしておいた。

 必要ないと思うけど。


 そして、1時間後、今度は、魔素が無くなりそうになったミツナガさんとヤヨイを休憩に入れた。

「人族としては、魔素量多い方なのに、これだけしか持たないなんて……」

 そうつぶやきながら下がって行くミツナガさんが少し可哀想だったので

「すみません。人外クラスの魔素の持ち主が集まってるんです……」

 と謝っておいた。

 その言葉に苦笑いを浮かべるミツナガさん。

 全然慰めになっていない? 俺、余計なこと言ったかもしれない。

 そう思った瞬間だった。


 ちなみに近接戦闘員達の休憩タイミングは、ヨリミツお義父さんに一任した。

 ツバメ師匠が従ってくれるか、若干心配したけど蓋を開けてみれば、俺が言うより素直なのでは? と思うぐらいの動きを見せていた。

 実は、大人の男には弱いのかもしれないと思った一コマだった。


 そしてもう1人、忘れてはいけないのは、カーチャ王女だ。

 本来は俺から休憩に誘うべきなのだと思うのだが、あえて無視した。

 何だか危ない視線を感じたからだ。

 そのせいかは分からないが、若干顔が赤い。

 きっと「ここでも放置プレイ」とか言って楽しんでいるのだろう。

 シンゴ王子とは、「王女のことは任せておけ」的な約束したのだけど、いざとなると引いてしまう。

 もうしばらく時間がかかりそうだ。


 そんな事をしながら、その日は夕方まで魔物を狩り続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る