第175話4.38 後処理

 狩の終わり頃、俺達は、余力の余りまくっているツバメ師匠、ルリ、カリン先生を連れて街の中を移動している。

 おまけでアズキもついて来た。

 残りの魔素量は少なそうだが、俺の近くにいたいらしかったので許可した。

 目的は、ただコハクを迎えに行くだけなので。

 ついでに街の近くにいるアリ達を駆逐するつもりだけど、先の3人で戦力的には申し分ない。


 残りのメンバーは、街中の残党を片付けていた。

 手伝いに来ていた傭兵達も暇そうだったので、倒した魔物の解体等の処理をお願いした。

 集めた素材の販売代金から謝礼を出すと言えば、喜んで作業していた。

 数が数だけに結構な金額になるからだろう。

 ちなみにブルードラゴンやシルバーアントなど、上位個体だけは俺のアイテムボックスに収納しておいた。

 クイナさんから報告のあったクイーンビーやシルバーウルフの素材がなのが残念だが、街中に来ていないので仕方がない。

 恐らく、コハクの地形を変えるほどの一撃で蒸発してしまったのだろう。


「街中には、ほとんど残っていませんね。これなら、お義父さん達と傭兵達だけで余裕ですね」

 俺が追跡魔法で確認して伝えると、カリン先生はすごく嬉しそうな顔で答えてくれた。

「ありがとう。トモマサ君。これで、スワの町は復興に取りかかれます」

「まぁ、時間はかかりそうですけどね」

「でも、それでも、大きな一歩を進めたわ。本当にありがとう」

 歩きながらだと言うのに、俺の腕を抱きしめて体を預けてくるカリン先生。

 少し涙ぐんでいるようだ。

 そんな歩き辛い格好だが、ここで腕を振りほどく訳にはいかない。

 我慢しいて進んで行く。

 幸い魔物はほぼ出ず、出たとしても嬉々としてツバメ師匠とルリが飛び出して行くので問題無い。


 そして、30分程歩いたところで街の外が見える所までやって来た。

「ありゃ、街の外壁が壊されてますね」

 俺達がやって来たのは、どうやら魔物が大量に侵入したところのようだ。

 外壁があったはずの場所には、壁の残骸が散乱していた。

「これは、直しておいた方が良さそうですね。コハクと合流した後、俺が直しますね」

「え、私がやりますよ」

 俺の言葉に自分でやると言うカリン先生であったが、壊れているのはここだけでは無いはずだ。


「他の部分も見て回って直します。魔導車で移動しますので俺がやるのが効率的かと。ですので、カリン先生には、ツバメ師匠達の引率を頼みます。俺とカリン先生が抜けると何処までも突っ込んでいきそうなので……」

「分かりました。街の外壁はお任せします。ツバメさん達のことはまかして下さい」

 今も魔物を見つけては、屠って回っているツバメ師匠とルリを見ながら俺が言うと、カリン先生、渋々了承してくれたようだ。

 ツバメ師匠の方へと進んで行ってくれている。

 その間に俺は、土魔法で外壁を再構築する。

 材料があるので少しは楽なのだが、それでも高さが3m程、厚さが1mはある街の外壁である。

 直さないといけない長さを考えると少しゲンナリする。


「取り敢えず、ここを」

 そうつぶやいて土魔法を発動させて壁を再構築する。

 そしてカリン先生達を追いかけた。


 10分程歩いただろうか?

『ドッゴーン、ドッゴーン』

 地響きと共に音が聞こえ出したと思ったら、コハクの姿が見え出した。

 相変わらず、鎚矛でアリを潰して回っているようだ。

 ただ、かなりオーバーキルのようで、素材もろとも破壊されていたが。


「コハク、調子はどう?」

「楽しー」

 俺が声をかけると、ようやく存在に気付いたようだ。

 いつもの間延びした声を返してくる。

 少し無防備過ぎる気もするのだが、絶対的強者の白龍だし、のんびり屋さんのコハクだから仕方がないのかもしれない。

 それでも、一応釘を刺しておく。


「一応、もうちょっと周りに注意しろよ。また、捕まって操られるぞ」

「それはー、困るー。分かったー、気をつけるー」

 俺の忠告に素直に返事をするコハク。

 言葉が、間延びしているので何処まで理解しているかは不明だが。


 そして、コハクを加えた一行で残党狩りが進んで行く。

 気が付けば、何やら倒した数の対決まで始まっていた。

 コハクとツバメ師匠とルリ、個別に狩を進めて行く。

 審判は、カリン先生のようだ。

 範囲を決めているようなので、逸れるのの防止にもなっているようだ。


「これなら、安心ですね。カリン先生、俺は外壁の修理に向かいますね」

 そう言って魔導車を出して乗り込むと、アズキも乗って来た。

 どうやら、最後まで俺に同行するらしい。

 来てもする事無いと思うのだが、残ってもする事無さそうなので何も言わずに魔導車を飛ばした。


---


 一方、街の中に残った面々は、残党狩りと魔物の解体を進めていた。

「しかし、ヤヨイ様凄い数ですね。とても全ては解体出来ないかと」

「そうね。シンゴ王子、出来ない分は、魔石だけでも抜いて纏めて焼くしか無いわね」

 そう言いながら、アイテムボックスに魔物を詰めて行くヤヨイ。

 シンゴ王子は、護衛としてついていた。

 

 そんな2人の距離が若干近いのに気が付いているのは、その反対隣に立っているメイド長だけであった。

 しかし流石、メイド長である2人に全く意識されずに行動しているのだから。


 1時間ほど経っただろうか? アイテムボックスがほぼ満杯になった頃、元の場所に戻ると、そこに簀巻きにされた1人の男をぶら下げたクイナが待っていた。

 男は、まだ意識を取り戻していないようだった。


「ヤヨイ様、見つけましたよ。こやつが、例のテイマーです。土砂に埋まってるのを捕まえて来ましたよ」

「クイナ、ご苦労。しかし、あの攻撃で良く生き残っていたな」

「はい、運良く? 魔物の群れから外れて休んでいたみたいです」

 そう言いながら、男を放り投げるクイナ。

 その衝撃で目を覚ました男から変な声が漏れる。


「ぐぎゃ。……な、なんだ、体が動かん。俺は、一体どうなった?」

 突然の事で事態が飲み込めない男、パニクっている。

 その男を見た、ヤヨイが口角を上げながら怪しい言葉をつぶやいた。


「ほう、こやつがそうなのか。それなら、丁重にもてなさないとな」

 その言葉に頷くクイナ、こっちもこっちでなんだか悪い顔をしている。

「すまんがシンゴ王子、少しここを離れる。なに、この男をイチジマまで運んだら直ぐに戻るので大丈夫だ。尋問は、クイナに任せるしな」

 そして、男は連れ去られた。


---


 俺が、外壁を直し終えて領主の館に戻る頃には、全員が帰って来ているようだった。

「トモマサ君、お帰りなさい。アズキさんもね」

 降り立った魔導車から下車した俺を、カリン先生がとてもいい笑顔で出迎えてくれた。

「ただいま。カリン先生。ツバメ師匠達は、無茶しませんでしたか?」

「大丈夫よ。ちゃんとルールを守って競ってたから。時間が来たら戻って来てくれたし」

 俺の若干の不安を打ち消す回答をくれるカリン先生。

 皆、元気なようである。

 ちなみに、狩勝負はコハクの勝利で終わったそうだ。

 流石、白龍。

 人型でも半端ない能力を持っているようだ。

 話す口調からは全く想像できないけど。


 そんな事を話ししながら館の中へ進むと、中は、色取り取りの飾り付けがされた空間へと変貌していた。

 どうやら、街の解放を祝う祝賀会の準備がなされているようだ。

 その中をさらに進んでいくと、ヨリミツお義父さんが声をかけて来た。

「婿殿、お疲れ様。外壁の修理をして回ってくれたとか。頼ってしまって申し訳がない」

「気にしないで下さい。大した事はしてませんので」

 労いの言葉に恐縮してしまった俺が、控えめに返事をするとミツヨリお義父さんが苦笑して教えてくれた。

「いやいや、婿殿、外壁の修復でどれだけの時間が短縮できる事か」

 どうやら、ミツヨリお義父さん、これから一年ぐらいかけて外壁を修理するつもりだったようだ。

 もちろんその間にまた、魔物が紛れ込んでくるだろうから魔物の駆除も並行しながら。

 それを俺が、一時間程で直して来てしまったのだから礼をいくら言っても言い足りないという事だった。


「兎も角これで、外壁の内部では、魔物を気にせず復興に入れる。ドラゴン討伐と言い外壁といい、本当にありがとう」

 再度、頭を下げてくるミツヨリお義父さん。

 今度は俺が苦笑いを浮かべていた。

 するとそこにカリン先生が口を挟む。

「はい。お父様も、もうお終いにして、ご飯にしましょう」

 その言葉に返事するかのように、俺のお腹が『グゥー』っと鳴った。

「ははは、すまんな、婿殿。すっかり待たせてしまって。さあ、食べよう」

 朗らかに笑うヨリミツお義父さんの合図で、祝賀会は始まった。

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