第24話1.24 秋祭り

 時間は流れ10月の中頃、秋祭りの日となった。

 街には多くの人と出店が出て賑わっている。

 その祭の中を、アズキと2人で歩いて行く。


「賑わっているな」

「すごい人ですね」

 キョロキョロしながら歩く俺の後ろを少し遅れて付いてくるアズキ。

 今日はいつもと同じメイド服だ。

 以前のように私服が見たかったのだが、奴隷になってしまった今では難しいそうだ。

 人混みの中では奴隷らしくしていないと大騒ぎになるとの事で断念した。


 普通にデートも出来ないなんて不自由なものだ。

 手も繋げないので少し寂しい。

 早く何とかしたいのだが、今の俺ではどうしようもない。

 そんなことを思いながら俺達は、人混みの中を近くの神社に向けて歩く。

 事前に配られていたチラシで知った近くの村々から神輿が集まって来ると言う神社に向けて。

 しばらく進み、角を曲がると一台の神輿が前にいるのが目に入った。

 

 大きな幟を先頭に進む神輿。

 周りにはたくさんの回し姿の男達がいる。

 担ぎ手のようだ。

 男達に押されて神輿が進んでいく。

 どうやら今は車輪がついているらしい。

 しばらく進むと休憩場所なのか神輿が止まり男達は座って休みだした。


「せっかくだから近くで見よう」

 アズキを誘って神輿に近く俺。

 近くで見た神輿は、高さ4m、幅2m程だろうか神殿に担ぎ棒と21世紀でもよく見られた姿形をしている物だった。

 さらには神殿部分に金銀を使った装飾がされており、見た目にも非常に煌びやかだ。

 魔法文明になっても神輿の形は変わらなかったようだ。

 ただ祭られている神様がよく分からない。

 神輿側面にかけられている布に何か――恐らく名前――が書かれているが、かなり崩された文字なので読み取れない。

 首を傾げて見ていると立派な法被を来たオッさんが、声をかけて来た。


「お、神輿が珍しいのかい? 綺麗なものだろう。昨年新調したばかりの神輿だ。じっくり見てってくれ」

「ありがとうございます。どうりで綺麗な神輿だと思いました。ところで、この神輿は何の神様を祭っているのですか?」

「おお、この神輿はな、芦の宮神社の神輿でな、祭っているのは『芦友大明神』様だ。アシダ トモマサ様を神格化して祭っているんだぜ。この芦友様を祭っている神社はな、イチジマに数社あるのだが、その中でも芦友神社は最大の神社だ。当然神輿も――」

 おっさんの話は続いているが、俺は完全に興味をなくしていた。

 なにしろ俺が祭られている神輿なんてあまり近くにいたくない。

 むしろ早く離れたいのだが、おっさんの話は終わらない。

 その上、アズキが物凄く真剣に聞いている。

 合間、合間で質問を入れるほどだ。

 そのうち他のおっさん達もやって来て、アズキに話を聞かせている。

 美少女が真剣に話を聞いてくれるものだから嬉しいのだろう。

 神社の由来から神輿の装飾の一つ一つの由来まで語っている。

「トモマサ様の鍬の形を模している」

 とか

「トモマサ様が好んだ色だ」

 とか、誰だよ? 適当な設定作った奴は。

 本当に勘弁してほしい。

 俺に祈っても健康にも豊作にはならないから。

 結局、動きだした神輿と一緒に歩いて1時間ほど話し込んでいた。


「トモマサ様の素晴らしい逸話を聞くことが出来ました」

 おっさん達との話に、アズキはご満悦の様子だ。

「アズキ、あの話は後から作られた話だから。俺が聞いて納得できるような話はほとんど無いからな。俺とは全く別物だと思ってくれた方がいい」

「そうなのですか? 残念です。昔のトモマサ様の話が聞けて嬉しかったのですが」

 なんだか悲しませてしまったようだ。また今度、昔話を聞かせてあげるとしよう。


 しばらく歩くと商業街にたどり着いた。普段は服飾店や装飾店が並ぶ区域だが、今日はほどんどの店が休んでいた。代わりに、店の前に出店が並んでいる。串焼き、焼きそば、汁物、ベビーカステラなどが並んでいる。金魚すくいやクジ引き屋まであり、21世紀の縁日を思い出させる並びだ。ただ、クジ引き屋の景品は、塩漬け肉とか砂糖とかでハズレると薄い煎餅一枚だった。当然、ゲーム機の箱などは並んでいない。

 それでも、一回に銅貨1枚とかなり安いので小遣いを握りしめた子供達には人気のようだったが。


 ベビーカステラを食べながらゆっくり歩く。甘い香りに耐えられずに買ってしまったのだ。ふと脇道を見ると、何とも言えない露店があった。

「卵屋か? 大きな卵を売っているな?」

 様々な卵を並べた店だった。1番大きな卵は、ダチョウの数倍はあろうかと言う大きさだ。

「これはこれは、若様。ようこそ。おひとつ如何でしょうか? フォフォフォフォフォ」

 日当たりの悪い人目につかない露店から、見るからに怪しい笑うセー◯スマンみたいなおっさんが声を掛けてくる。笑いかたが微妙に違うので違和感が半端ない。

 怪しいのであまり関わりたくないが、何の店か気になったので一応聞いてみた。

「えーっと、ここは卵屋ですか?」

「はいはい、わたくしは魔獣の卵を売っている者です。普段は、この奥で店を構えているのですが、祭りの間だけこちらで出張販売しております。フォフォフォフォフォ」

 話の終わりに一々笑わないでほしい。

 かなり鬱陶しい。

 それより魔獣だが調教した魔物の事を魔獣と呼び、荷車を引かせたり人を乗せて馬の代わりにしたり出来るらしい。

 図書館の本で読んだ知識だ。

「へぇ、魔獣の卵か。初めて見るな。ちなみに、どんな種類の魔獣を取り扱っている?」

「フォーフォフォフォ、よく聞いてくれました。今日の目玉は、飛竜で御座いますよ。こちらの大きな卵がそうで御座います。フォーフォフォフォ」

 本当にその笑い、鬱陶しいのだけど。


「た、だ、し、今日は年に一度の秋祭りで御座います。普通に卵の販売はしておりません。今日のわたくしは、くじ引き屋で御座います。白金貨程する飛竜の卵が特等のクジを金貨一枚で販売しております。如何ですか? 若様。フォーフォフォフォ、フォーフォフォフォ」

 あー、鬱陶しい。聞きたいことも聞けたので、「それじゃ」と言って歩き出そうとすると、大きな声で呼び止められた。

「お待ちください。若様。飛竜の卵ですぞ。白金貨の価値がある卵ですぞ。もう少し興味を持たれても良いのではないですか? フォフォフォフォフォ」

「珍しいものねぇ。確かにそうかもしれないけど、大体の露店のくじ引きは当たらないのが普通だから、やらないよ」

「そんな事は御座いません。当店では、公正なクジを行なっております。他のクジは知りませんがね。フォフォフォフォフォ」

「本当に〜? それなら、証明してよ。ちゃんと当たりくじを見せてよ」

「構いませんよ。存分にご確認ください」

 おっさんが、箱の中を見せてくれる。赤、青、黄色、白、黒色々な玉が入っている。その中に、一つ金に輝く玉を見つけた。


「疑ってすみません」

 素直に謝っておいた。

「フォーフォフォフォよろしいのですよ。若様。確かに、騙すくじ引き屋は多いですからな。フォーフォフォフォ、フォーフォフォフォ」

 調子に乗ったおっさんが更に鬱陶しい。

 でも俺が悪いのだから仕方がない。

「お詫びに、一つ引かせてもらおう」

 アズキから金貨を貰いおっさんに渡す。

 おっさんはクジをかき混ぜて渡して来た。

 一枚引く。黄色の石だった。

「フォーフォフォフォ、4等で御座いますね。こちらの卵より選んでください。それとも引き直しますか? 4等の卵なら銀貨1枚で買い取りますよ」

 なるほど。そうやって、差額を稼ぐ商売の様だ。

 だが、俺は別になんの卵でも良いので4等と書かれた箱から卵を選ぶ。とは言っても何の卵だかさっぱり分からない。

 選ぶときに分からない様に魔法をかけて有る様なので当然と言えば当然なのだが。

 適当に選んで差し出す。

「フォフォフォこちらでよろしいですね。それでは、登録いたしましょう。そのまま、持っていて下さい」

 おっさんが何かの魔法を使った様だ。俺にはさっぱり分からなかったが。


 その後、卵の説明を聞く。

 卵は2〜3ヶ月で孵るらしい。孵化後、幼生体の間は主人から魔素を貰って成長する為、食事も特に必要ないらしい。

 その為、なるべく長い事一緒にいてあげる事が必要なようだ。

 ちなみに何の卵かは教えてくれなかった。

「生まれた時のお楽しみ。フォーフォフォフォ」

 だそうだ。本当にイラっとする。


「フォーフォフォフォ、よろしいでしょうか? また、分からない事などありましたら、店の方までお越し下さい。この奥で、魔獣の店をしておりますから。フォーフォフォフォ、フォーフォフォフォ」

 最後まで煩い魔獣屋のおっさんを置いて、店を後にした。

 その後も祭を見て回ろうとしたのだが、意外と魔獣の卵が邪魔であまり楽しめずに屋敷に帰った。


屋敷で夕食を食べている。

 魔獣の卵を膝の上に乗せて。

「父さん、それなにしているの?」

 少し遅れてやって来たヤヨイが変な顔して聞いて来た。

「いや、祭の露店で買った。なるべく一緒にいた方がいいらしいので連れて来たのだよ」

「はぁー、父さん。それ魔獣の卵でしょ? 一緒にいないといけないのは、幼生体の間だけよ。卵のうちは、置いといても問題無いわ」

「え、そうなのか? 確かに魔獣屋のおっさんは、そんな事言っていた気がするが、それにしてもあっためたりしなくて良いのか?」

 話聞いとけよ的な事なのだが、呆れた顔したヤヨイが教えてくれた。

 卵は登録すれば何もしなくても産まれるらしい。

 しかも産まれる少し前には主人に何らかの信号を発してくれるので、存在を忘れていても良いぐらいだとか。

「そんな、放ったらかしは可哀想だ。俺は、しっかり面倒見る」

「そう。父さん、昔からペット可愛がっていたものね。魔獣の卵可愛がっても何もならないけど好きにすれば良いと思うわ」

 ヤヨイに諦め顔で言われてしまった。

 良いじゃ無いか。今日ずっと抱えていたら、何となく子供達が小さかった頃を思い出したから。あの頃は、ヤヨイも可愛かったけどなぁ。すっかり生意気になってしまって。ねぇ、卵ちゃん。

 その日から、卵と一緒の生活が始まった。

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