第40話1.40 アズキの誕生日4
目を開けると懐かしい天井が見えて来た。
「あれ、ここは……」
俺の家だった。
生まれて育って、大学行くとき一回出たけど結婚してまた帰って来た俺の家。
懐かしい築100年近い古民家。
「そうか、あれは夢だったのか。そうだよな。荒唐無稽だものな。31世紀は、剣と魔法の世界なんて。その上、美女獣人とラブラブなんて、溜まっているのだろうか? 俺」
1人考え込む俺は、何と無く視線を感じて横を見る。
「うぉ。睦月いたのか」
妻の睦月が、座って俺のことをじっと見ていた。
「あなた、早いわね」
「ん? 今日はまだ起きる時間じゃないのか?」
「違うわよ。アズキに手を出すのがよ。数ヶ月でプロポーズ、半年経たずにエッチだものね。しかも13歳の子に何度も。信じられないわ!」
「え”? な、何で俺の夢の中身を知っている?」
身体中から冷や汗が流れ出す。
何故だ、何故バレた。
ただの夢のはずなのに。
いや、夢でもダメか。40過ぎのおっさんが、13歳の子に手を出すのだから。
改めて睦月を見ると、まるで変態を見るかの様な顔をしている。
「うわ言で何か言っていたのを聞いたのか?」
「何言っているの。全部見ていたわよ。上から」
上? 何だ? 夢を解析する人工衛星でも打ち上げたのか? 意味が分からない。
全く意味が分からないが、とりあえず謝ることにした。
「ごめんなさい。夢とは言え浮気してしましました。でも信じて欲しい。本当は、睦月一筋だ」
「……」
布団の上で土下座して謝るが、返事がない。
「ごめん。許してくれ。本当に夢だけだ」
「……」
再度謝るがダメなのかな。それでも俺には、謝ることしかできない。
「ごめ「もういいわよ」……え?」
「あなた、本当にあれが夢だと思っているの?」
「ええ?」
「まだ気づかないの? 全く困った人ね。今はね、この世界が夢なのよ。あなたは、21世紀の夢を見ているのよ」
「えええーーー。それじゃ睦月は、幽霊か何かか? 枕元に立つと言う」
俺の言葉に、睦月は呆れ顔だ。
「違うわよ。残念ながら幽霊では無いわ。私は、あなたの中に残っていた残留思念のようなものよ。守護霊とでも言った方が分かりやすいかしら? 何の力もないけどね。それよりも、さっきから謝り倒しているけど、あなた、アズキのこと本当に大事に思っているの? 本当に守ってあげられるの?」
なんだかよく分からないが、俺の心の中の睦月ってことか? そんなことより質問に答えないと。
「もちろんだ。必ず守るよ。一生をかけて。そう思ってプロポーズした」
俺の宣言に、睦月は寂しそうに笑った。
「私の事は、置いてけぼりにしたのにね」
「ご、ごめん。そうだよな。睦月にしてみたら、勝手にいなくなった身勝手な男だよな。本当に、ゴメン」
「いいわ、許してあげる」
「え!」
「その代わり、アズキの事はちゃんと助けてあげて! それに、ヤヨイや今後、関係を持つ人達もよ。約束よ、分かった!」
睦月が言い放つ言葉に、俺は罪悪感を覚えていた。
「本当にそれで良いのか? 俺は、お前を置いてけぼりにしたのだぞ。そんな俺を許してくれるのか?」
「もう良いって言っているでしょ? それにね、私は幸せな人生を送れたわ。あなたがたくさんのものを残してくれたおかげでね。もちろん大変な時代だったし、辛い時や寂しい時もあったけど、孫、曾孫まで見られたし、何も思い残す事ない人生だったわ。だからね、あなた。あなたは、あなたの人生を歩んで欲しいの。分かった?」
俺は、涙が溢れて来た。こっちに来てからずっと伸し掛かっていた重石が取れた気がしたからだ。
泣いている俺にふわりと温かいものが覆いかぶさる。
睦月に抱きしめられていた。俺も、目を閉じて睦月を抱きしめる。
「俺、今度は、悔いのない人生を送るよ。ずっと見ていてくれるのか? それなら嬉しいのだけど」
「ずっとかどうかは分からないけど見ているわよ。それにしても、死んだ妻に別の女とのナニを見せつける宣言ってどうなの?」
「いや俺はそんなつもりでは……」
俺の弁明を聞きながら笑顔を浮かべる妻を見たのを最後に、俺の意識は遠のいて行った。
再び、目を開けると温かいものに包まれていた。まだ外は暗くかなり早い時間のようだ。
「睦月?」
「トモマサ様。おはようございます」
アズキだった。
「あ、アズキ、ごめん」
朝起きて、前の妻と間違えるって最悪だな。
フラれる男の典型だな。
アズキも怒るだろうかと思って、おそるおそる顔を見る。
するとアズキ、満面の笑みだった。
「トモマサ様、謝らないでください。ムツキ様と間違えていただけるなんて光栄です」
なんて健気な子だ。俺は、嬉しくなってさらに抱きついてしまう。
「それより、トモマサ様、大丈夫ですか。涙を流してうなされていましたが」
「ああ、夢に睦月が出て来た。それで、ちゃんとアズキを守れって叱咤激励されたよ」
「そうでしたか。ムツキ様にまで気を使っていただいて嬉しいです」
本当に優しい子だ。
俺はアズキに優しくキスをして再び目を閉じた。
本来の目覚めの時間まで、アズキの体温を感じながら。
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