第117話3.14 ドラゴン装備

「ここが、クニサダさんの師匠、シンカイさんの工房か」

 翌朝は少し遅めに朝食を取った。

 皆疲れているだろうしと思って、時間を遅めにしたのだ。

 

 今は、宿を出てシンカイさんの工房の前にやってきている。

 見た目は、普通の工房である。

 辺り一帯が工房なのか、同じような建物が並んでいたのだが、それぞれ屋号があるようで看板を掲げている。

 シンカイさんの工房には、『真改』の文字が掲げられていた。

 

 看板横手の扉から入った店内は、中はクニサダさんの店以上に刀が並んだ空間だった。

「わぉ、凄い数の刀だな。流石、クニサダさんの師匠と言うべきか」

 刀をずっと見回してみる。

 中には、特殊な鉱石をはめ込んだ物や魔素量の多い物も見受けられた。

 それからしばらく刀を見ていたのだが、誰も出てこない。

 無用心だなと思いつつ呼び掛けてみた。


「おはようございまーす」

「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんか~?」

「今日はお休みですか~」

 呼んでも呼んでも出てくる気配が無い。


「どうしよう? 本当にいないのかな?」

 俺が考えこんでいると、ツバメ師匠が悪い顔で口を開いた。

「いや、奥に人がいる気配はあるぞ。ちょっと、誘ってみるか」


「え、誘うってどうするの?」

「まあ、見ておれ。――お、この刀、凄い出来だな。このレベルの刀は他で見た事が無いぞ。いや~、欲しいけど、誰もいないんじゃしょうがない他の所で買うとしよう」


 ツバメ師匠が大声で刀を褒めると、聞こえてきた。奥から慌てた足音が。


「そ、そうだろう。俺の打った刀は、何処よりも出来が良いんだ。他の所なんて行かずに買って行けよ」

 出て来たのは、厳つい顔のドワーフだった。


「ほうら来た。流石師弟だな動きがクニサダと一緒だ。あいつも冷やかし客だと思ったら店に出て来やしない」

 笑いながら指さすツバメ師匠。

 俺は首をひねっていた。

 店員としては失格だと思うのだが、それで商売成り立つのだろうか? 不思議だ、と。


「おはようございます、イノウエ シンカイさんですか? イチジマの町のクニサダさんの紹介で参りました。こちら紹介状です」

 ドワーフのおっさんに挨拶しつつ紹介状を渡す。

 おっさんは渡された紹介状、中身を見もせず裏面をちらっと見ただけで放り投げてしまった。


「あ”、あの馬鹿の紹介か。ち、出て来て損しだぜ。まぁ、いい。それで何の用だ? あいつの紹介なら刀買いに来たわけでは無いだろう?」

 酷い言い様だ。流石クニサダさんの師匠だけのことはある。


「ええ、この鎧作られたのは、シンカイさんですよね」

 アイテムボックスからシンゴ王子の鎧を出すと、シンカイさんが確認して行く。


「おお、確かにこいつは、俺の作った鎧だ。しっかし、派手に壊したな。こりゃ直らんぞ。何と戦ったらここまで壊れるんだ?」

「やっぱり直らないんですね」


 俺は壊れた経緯を説明していき、同程度の鎧が欲しいのだが無いかと聞いてみた。


「そうか、ドラゴンとやり合ったか。それなら納得だ。しかし、これと同程度の鎧か。今は無理だな」

「どうしてですか? シンカイさんが作られたんですよね?」

「そうだ、作ったのは俺だ。それは間違いない。だがな、これに使われてる素材を取ってきたのは俺では無い。このレベルの鎧となると生半可な素材では作れない。だから無理だ。最も、お前さんたちが、珍しい素材でも持ってるなら別だがな。それこそ、ドラゴンとかな」

「ありますよ」


 俺はアイテムボックスから、切り落としたドラゴンの首を取り出した。そこそこ広い店内に巨大なドラゴンの首が横たわる。


「な、なんだと! 討伐したのか。このサイズのドラゴンを。こいつはすげえ。あの鎧の傷だからてっきり逃げ出してきたのだと思ってたのにな。ちなみに、胴体もあるのか?」

「もちろん。ここでは出せませんけどね」

「あ、ああ、分かってる。首でこの大きさだ。胴体なんて出されたら、店が崩壊しちまうな」


 ドラゴンの首を見て大興奮のシンカイさんだが、一応理性は残っているようだ。角に牙に鱗などを検分していくシンカイさん。


「ふ、ふ、ふ、は、はは、ははははぁ。出来る。出来るぞ。このドラゴンの素材を使わせてくれるなら、武器でも鎧でも何でも望みのままに作ってやるぜ。ふははははははぁ」

 残っていた理性も壊れてきたようだ。あまりのテンションにちょっと? いや、かなり怖い。


「あ、あの、シンカイさん? 大丈夫ですか?」

「いや、すまんすまん。あまりに素晴らしい素材なものでつい興奮してしまってな」


 10分ほどしただろうか、落ち着いてきたシンカイさんに作って欲しいものを伝えていく。


「先ずは、先ほど見せた重戦士の鎧ですね。それから、柔術家の道着。その二つが最優先です。他にも剣士の装備や魔法使いの装備なんかも欲しいですが、それは、また後で構いません。ちなみに、鎧と道着でどれぐらい時間がかかりますか?」

「鎧と道着ね。そうだな、鎧は、ドラゴンの革と鱗で作るから、2日ぐらいか。道着は、ドラゴンの髭を織って布を作ってからだから3日はかかるな。まぁ、布は俺が織るわけじゃ無いから2つとも4日以内には出来るぞ」


 3日で出来るのか? かなり早いな。それなら、アリマの町で騒動に巻き込まれる前に取りに来られるかな? 何させられるか分からないので、微妙ではあるが。

 それでも先にアリマに移動して、3日後に転移魔法でちょっとイクノの町に寄って行けば大丈夫だろう。


「分かりました。それで、お願いします」


 俺が了承した途端、シンカイさんは素材が取りたいからドラゴンの胴体を出して欲しいと言い出した。

 出したいのだが、出せる場所が無い。

 裏庭も見せて貰ったが、無理だし、色々見て回った結果、傭兵ギルド イクノ支部の解体場で出す事になった。

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