第116話3.13 イクノの町

 ドラゴンを討伐した翌日、早朝から王都イチジマの町に向かって馬車を走らせていた。

 本当は転移魔法で行きたいところだが、馬車もあり出現場所に困るのだ。

 イクノの町やアリマの町に転移できるならしたいのだが、現代31世紀になってからは行ったことがないので転移魔法が使えない。

 もっとも帰りは転移で帰るつもりだが。


 大急ぎで帰ったので昼前には王都に到着した。

 そのまま馬車でクニサダさんの武器屋へ向かう。


「クニサダさん、こんにちは」

「おう、坊主か。今日はどうした。刀でも折っちまったか」

「いえ、刀は大丈夫なのですが、実はこれを直して欲しいのです」

 アイテムボックスから、シンゴ王子の鎧を出しながらクニサダさんに聞いてみる。

 刀も見て欲しいところだが、魔改造してるので見せ辛い。

 ツバメ師匠曰く、「こんな業物見たことない」との事なので、作り方とか聞かれて時間を取られたくないので。


「これは、また業物が出てきたな。これは、師匠の紋か。うーん、こいつを直すのは無理だな。作ったのは俺の師匠なのでよく分かるが、これは直らんよ。見かけだけなら元に戻るかもしれないが、性能は戻らないな。作り直すしかない」

「やはり新調するしか無いのか。クニサダさん作れますか?」

「同じレベルを求めるなら、厳しいな。この鎧を見るとよく分かる。まだ、俺は師匠の域には達して無いってな」

 そうか、そんなに凄い鎧だったのか。

 流石、王子が着ける品物といったところか。


「やはりイクノの町に行くか」

「坊主、イクノの町に行くのか? それなら、師匠に紹介状を書いてやろう。もっとも師匠は、俺以上に偏屈だから、俺の紹介状など相手にされないかもしれないけどな」

 ああ、クニサダさんの上を行く頑固親父系の職人なのか。大丈夫なのだろうか。

 行ったは良いけど作ってくれないとか時間の無駄だぞ事になるぞ。


「その師匠さんは、どうすればやる気を出してくれるんですか?」

「1番は、珍しい素材だな。坊主、狩に行くんだろう? 何か珍しい魔物狩ってないのか?」

「珍しいと言えば、昨日、下級ドラゴン狩りましたね。それで、作ってくれますかね」


 睦月は上級ドラゴンとか言ってたけど、情報源も曖昧だし伏せておいた方がいいと思って伏せている。


「なんだと。ドラゴン狩っただと。あれか、昨日、カイバラの領域で出たドラゴンか?」


 クニサダさん、世間の流行には疎いのに、素材の話となると情報が早いな。

 俺が死にそうになって狩ったと教えてあげると、鱗を何枚かで良いから譲って欲しいと懇願してきた。

 粉にして鎧に塗ると強度が上がったり魔法耐性がついたりするらしい。

 紹介状のお礼だと言って何枚か渡したのだが、そんなのでは釣り合わないというので、アズキの装備と他の皆の予備装備を色々と貰う事にした。

 今回の事で、装備にも予備が必要な事を痛感したからだ。


「沢山ありがとうございます。これから、イクノの町に旅立ちます」

「おう、師匠によろしく言っといてくれ」


 鱗をもらってホクホク顔のクニサダさんに見送られ、俺たちはイチジマの町を後にした。


 夕方ごろ、俺達は、イクノの町に到着していた。

「信じられません。こんなに早く着くなんて。普通なら3日の行程ですのに」

「ああ、全くだね。トモマサ君、なんて物を作っているんだい」

「前よりグレードアップしています」

「流石、トモマサ様です」

「すごいなこの馬車。今度運転せれてくれ」


 驚く皆。

 ツバメ師匠に至っては、何度か馬車ではないと言ったのだが理解していないようだった。


 そう俺はイチジマの町から魔導車の試作機で移動してきたのだ。


 以前は正体がバレる事を恐れていたため、あまり目立つような行動は避けてきていた俺だけど、睦月に夢で「遠慮してる場合か!」と叱られた事もあり、堂々と最善の行動をとる事にしたのだ。

 21世紀の平和な日本と異なり、魔物とか盗賊とか危険の多い31世紀、遠慮してて殺されてしまいました。では、目も当てられないので。


「それでも、4時間もかかってますね。21世紀なら、イチジマからイクノまで2時間もあれば着いた事を考えると、時間はかかった方ですよ。まぁ、道路事情が悪いので同列には考えられませんが」

「トモマサ君、これが量産されたら国の形が変わるよ。これは、早急に父様に知らせないと」


 なるほど確かに、動力が出来て産業革命が起こったんだよな。

 そう考えると、シンゴ王子の危惧も分からなくはない。

 だけど、その危惧は早計だと思うな。

 なぜなら、魔導車には致命的な問題があるのだから。


 それは燃費の悪さだ。

 その辺りを、今日の走行距離を例にシンゴ王子に説明していく。

 説明は、大体こんな感じだ。


 イチジマからイクノまで道なりで大体100kmぐらいかな? その距離を走るのに要したな魔素量が10万、1km走るのに魔素を1000も使っている。人族の平均魔素量が100だと考えると、これだけでも、とても普通には使えない事がわかる。

 その上、この魔導車、試作機から更に魔改造を施している。

 いつの間に? と思ったかもしれないけど、今朝、馬車に揺られてる間に、とっとと改造してしまった。

 脳への身体強化魔法で思考が加速した俺にとっては、移動の1時間なんて無限に近い時間が得られるのだ。

 車体(ハード)の改造は、無理としても魔法術(ソフト)の改造ならすぐに出来る。

 そんな訳で、燃費重視から速度重視の方に設定を変更しているのだ。


「という訳で、早々には実用化しないよ。現状は、俺専用だね」

 うん、専用車。男心をくすぐる言葉だ。

 なんなら、赤に塗っても良いぐらいに。

 馬車の3倍の速度で走れます……ってか? いや、もっと早いけどね。


 説明を聞いたシンゴ王子もどうやら納得したようだ。

「そうか。それなら、急ぐ必要はないか。それでも、今度時間がある時に、報告に付き合ってくれ」

「分かったよ。シンゴ王子。それじゃ、宿屋に行くか? 座りっぱなしも疲れたし」

 俺の提案に、皆、了承の意思を示してくれたので、俺は町の中に魔導車を進めるのであった。


 イクノの町に入るにあたって、門番がいたので町の情報を聞いておいたのだ。

 ツバメ師匠の意見に従って。


 姿は、幼女だが修行で旅慣れしているツバメ師匠、たまに良い事を言う。

 普段は、戦いのことしか言わないのだが。

 

 近づいてきた魔導車に驚愕の表情を浮かべていた門番だったが、宿の情報やクニサダさんの師匠の工房の場所などを丁寧に教えてくれた。

 なかなか良い人だった。

 イクノの町は意外と大きく、中央の大通りは馬車がすれ違えるほどの大きさだ。

 建物も瓦屋根の物が多く、中には3階立ての建物まである程だ。

 その道を進んで行くと目的の宿が見えてくる。

 宿の名前は、『銀狼亭』。銀で作られた狼を入り口に飾った中々大きな宿だった。

 皆が降りた魔導車をアイテムボックスに片付けて、宿の中に入ると、恰幅の良い女将さんがカウンターに座っていた。


「いらっしゃい。お泊まりですか?」

「はい。一泊、6名プラス魔獣です」

 部屋は空いてるようで、いつものように3部屋取り部屋に行く。

 ちなみに今日は、俺とアズキが相部屋だった。

 順番が決まっているらしい。

 ただ、ツバメ師匠と相部屋でもすぐに寝てしまうので、寝た後、アズキとカリン先生の部屋に行ってナニしてたりするので部屋割りにあまり意味は無いのだが。


「それじゃ、お風呂に入ってから夕食にしますか。皆、さっぱりしたいでしょうし」

「了解した」

「分かりましたわ」

「分かったわ」

「うむ」

「了解しました」

 それぞれに、返事をしながら部屋に散っていった。


 俺もアズキとルリと共に準備して風呂に行く。

 一緒に行くだけで、一緒には入らないのだが。

 宿の風呂は、普通に男女別だから。


 風呂の後は、夕食である。

 メニューは、タジマキャトルのすき焼きだった。

 この地方特産の岩津ねぎの入ったすき焼き最高でした。

 甘辛の出汁で炊かれたタジマキャトルの肉に生卵を絡めて食べる。

 噛むたびに旨味が溢れる。

 合間に食べる岩津ねぎも甘みが溢れ舌がとろけそうになった。

 

 すき焼きは3回も追加注文したのだけどあっという間に無くなった。

 食べ盛りが6人も集まったのだから仕方がない。

 でも、おかげで皆満足したようだ。

 ツバメ師匠などパンパンにお腹が膨らんでいるのがわかるほどだ。

 幼児体型だからよくわかるのだ。

 俺が呆れ顔で見ていると、睨まれてしまった。

 恥ずかしかったらしい。

 それなら、食べなければ良いと思うのだが、言ったら怒られそうなのでそっと視線を外すだけにしておいた。


 満足の夕食後は翌日の時間だけを決めると、皆、早々に部屋に戻って行った。

 俺も部屋に戻る。

 運転で疲れてたのですぐ寝たかったけど、アズキが「マッサージします」と色々揉んできたので、思わずアズキの体も揉みほぐしつつナニしてしまった。

 それでも1回戦だけで寝たので睡眠時間は十分取れたけど。

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