第115話3.12 戦いの後2
「あれ、シンイチロウ王子?」
丹波連合王国第一王子のシンイチロウだった。
「おお、トモマサ君か。ああ、なるほどな、君達がドラゴンを討伐してくれたのだな」
俺の顔を見るなり、にやりと笑い口を開いたシンイチロウ王子。
その横に隣に座る筋骨隆々のおっさん――多分ギルドマスター――が、王子に不思議そうな顔をした。
「シンイチロウ王子、この少年をご存知なのですか?」
「ああ、ヤクロウ殿。トモマサ君は、ヤヨイ様の養子でな。春に復元魔法を復活させて勲章をもらった教授がいただろう? その元になった文書を見つけた少年だよ。彼も勲章もらってたな」
あの文書、見つけたと言うよりも書いたんだけどね。と突っ込みを入れたいのを我慢していると。
ギルドマスターとスバルさんが目を見開いて驚いていた。
「そ、そんなに偉い人だったんですね。全く気付きませんで……これまでの無礼お許し下さい」
スバルさんが突然敬語で謝ってきた。
すっかり恐縮してしまっている。
「スバルさん、何も無礼な事なんて無いですよ。気にせず、これまで通りでお願いします」
「分かりました。い、いや、分かったよ。しかし、そんな偉い人だったんだな。なんだか調子狂うなぁ」
敬語になるのも早いけど戻るのも早いスバルさんだった。
あまりのコミュ力に関心してしまった。
「それでは、私も君を1ギルド員と見なして接しさせてもらうとしよう。よろしいかな?」
「よろしくお願いします。ギルドマスター」
ギルドマスターもタメ口で来るらしい。
その方がやり易いから良いけどね。
「それではトモマサ君、早速だが、どうやってドラゴンを倒したのかね? 町からの観測によると、かなり大きな下級ドラゴンだと聞いているのだが」
「えーっと、重力魔法で引っ張り落として、刀で首を落としました」
俺の余りに短い説明にびっくりしたギルドマスターだったが、俺の代わりに説明を始めたスバルさんの言葉を聞いて納得したようだった。
「しかし、重力魔法ですか? 私、魔法にはあまり詳しく無いのですが、シンイチロウ王子は、この魔法をご存知ですか?」
「いや、私も魔法は得意では無いからな。どちらも知らないな。まぁ、ともかくドラゴンは片付いたのだな。私が出張るまでもなかったな」
突っ込まれて俺の正体がばれるのを嫌がったのだろう。
シンイチロウ王子が、即座に話題を変える。
「はっ、シンイチロウ王子、ご足労ありがとうございました。後は、傭兵ギルドで片付けます」
「あの、ギルドマスター、今回の討伐、褒賞金とか出たりしないのでしょうか? トモマサ君は、未成年だから依頼の報酬が何も無いのですが」
シンイチロウ王子が、立ち上がろうとする所で、スバルさんが口を挟んできた。
「褒賞金は当然出すのだが、問題は金額だ。なにしろ、2パーティーで討伐してしまったのは前代未聞でな。シンイチロウ王子はどう思いますか?」
「それは、傭兵ギルドの問題だ。私が口出しすることは止めておこう。トモマサ君のパーティーには私の家族もいる事だしな」
家族と聞いてギルドマスターが戸惑っているので、シンゴ王子とカーチャ王女について説明してあげた。
その説明に一番びっくりしたのは、スバルさんだった。
「あの2人、王子と王女なのか。本当、そういう事は早く言ってくれよ。無礼を謝っておかないと」
早口で呟くスバルさん。
俺は、あの2人、そんな事言いませんよ。逆に助けてくれた事に礼を言ってくるかもしれませんけどね。と苦笑を浮かべていた。
そこに、同じく苦笑していたギルドマスターが口を開く。
「褒賞金については、後日で構わんかな? 私1人で決めるには、金額が多くなり過ぎそうなのでな」
「俺は構いませんよ。スバルさんは、どうですか?」
幸いにも俺は、お金には余裕があるけど、スバルさん達は、どうかな? と話を振る。
すると
「え、俺たちも貰えるのか? 倒したのは、トモマサ君達だろう?」
帰ってきた答えに俺は、また、苦笑した。
この人、かなりのお人好しだな。装備がボロボロになるまで戦っといて何もなしって事は無いだろう。と。
「何言ってんだ、スバルよ。お前、共闘したんだろう? 同じ額とは言わないが、出ないっては無いだろう。いつも言ってるだろう。貰う時は、ちゃんと貰えと」
ギルドマスターも即座に突っ込む。どうやらいつもの事らしい。
シンイチロウ王子も
「欲の無い傭兵とは珍しい」
とか感心しているほどだった。
「まあ、良い。とりあえず結果が出るのは、早くて4日後ぐらいだ。トモマサ君達の今後の予定は?」
「俺たちは、明日町を出てアリマの町を目指しいます」
「何、アリマに向かうのか?」
「はい、ヤヨイ様から書状を預かってまして、アリマの町の領主様に届けないといけないのです。あの、アリマの町に何かあるのでしょうか?」
ギルドマスターの驚きの声に何事かと思い聞いてみた。
「ふーむ、隠しても仕方があるまい。そろそろ、情報も漏れてくる頃だろうしな。実は今、あの町は危機的状況にあってな、日夜、魔物の襲撃に晒されている。幸い、強い魔物はいないようで何とか持ちこたえているのだが、連日の襲撃に兵士達もかなり疲弊していると聞いている。行くなら、急いでやって欲しい。君達ほどの手練れが向かうのであれば、町も歓迎してくれるだろうしな」
危険な状況のようだった。
ヤヨイのやつめ、何も言わずに書状だけ渡しやがって。助けて欲しいなら、助けて欲しいと言えば良いのに、まったくあいつは。
内心ため息をつく俺。だが、対外的には偉い人のヤヨイへ向けて、そんな態度を取るわけにいかず、一呼吸おいて話を進めた。
「情報ありがとうございます。明日から、大急ぎで向かう事にします。書状を渡す相手がいなくなっては、困ってしまいますからね」
「わかった。褒賞金は、帰りにでも寄ってくれ。準備しておこう。必ず寄ってくれよ。これも渡す相手がいなくなると困ってしまうからな」
「はい、必ず」
ギルドマスター、暗に生きて帰れと言っているようだった。
別れ際に右手を差し出してきたので、堅い握手をし、部屋を出た。
その夜。
宿屋の食堂で、今後の予定を立てるため打ち合わせを行うことにした。
「まずは、装備の修理だよな。シンゴ王子とアズキの防具が酷いな。クニサダさんに頼むのがベストだと思うんだが。どうだろう?」
「僕の鎧は、恐らく治らないですね。どこかで新調するしか無いです」
「王家には、どこか伝はあるのか?」
「今の鎧は、イクノの町のドワーフに特注で作って貰ったと聞いています」
イクノか。確かドワーフの町で、鍛冶が盛んだと本で読んだな。
でもアリマとは、方向的に逆なんだ。どうしよう。
今の装備ではとても向かえないし――悩ましい問題だった。
「トモマサ君、王都のクニサダさんの所、イクノの町、そして、アリマの町の順に行くのが最適だと思いますよ」
悩んでる俺にカリン先生が、可愛く首を傾げながら提案してきた。
「やっぱりそうなりますか。仕方が無いですね。明日は、一度、王都に戻ってからイクノの町に向かいましょう」
アリマの町に早く行ってやりたいのだけど、仕方がない。
皆を守る為には装備が必要だった。
打ち合わせで明日からの方針も決まったので、とっとと寝る事にした。
朝早く出るために。
今日の部屋割りは、ツバメ師匠とカリン先生がチェンジした形となった。
部屋に入り、寝る準備をしているとアズキも訪ねて来た。
どうやら、カリン先生と話はついていたらしい。
すっかり仲良しになったものだ。
ツバメ師匠は、と聞いたらベッドに入ってすぐに寝てしまったそうだ。
流石幼女である。夜が早い。
狭いベットに3人で入る。
2人とも昼間心配させたお詫びが欲しいと言って、物凄くおねだりしてきたおかげで深夜までナニしてしまった。
強く死を認識した彼女達、種の保存的な本能に火が付いてしまったのだろうか。
おかげで、疲れてるんだから早く寝かせて欲しかったとは言えなかった。
気持ちとしてはとても嬉しく、また、いつもと違い肉食系に変身した彼女たちに随分と興奮してしまったけど。
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