第114話3.11 戦いの後

「カリン……先生?」

 目を覚ましたアズキが見たのは、自らの顔を覗き込んでいるカリンの笑顔だった。


「ああ、アズキさん、目が覚めたのね。それは、良いのだけど、そこは、『姉さん』では無いの?」

 ボーっとする頭に投げかけられた突然の揶揄いにアズキは、恥ずかしそうに答えつつ気になる事を口にする。

「いえ、あのあれは、気分が乗っていたというかなんて言うか、それより、私達は死んだのですか?」

「いいえ、生きているわ。私達もトモマサ君もツバメさんもね」

 

 トモマサが生きている。

 その言葉に、衝撃を受けるアズキが懸命に首を動かす。

 すると、少し向こうでルリを従えドラゴンをアイテムボックスに格納しているトモマサの姿を見つけた。


「い、生きていたんですね。トモマサ様」

「はい。私たちの早とちりだったみたいです。それより、行きましょうか。彼の元に。アズキさんの傷も全て治ってますから」

 頷くアズキは、カリン先生と手を繋いでトモマサの元に歩き出す。

 それに気づいたトモマサが二人の方へと振り向いた。


「アズキ、怪我はどうだい? 一応、回復魔法はかけたけど、もしどこか痛かったら言ってよ。すぐに治すからね」

 死んだと思ったトモマサが、生きている。今目の前で。

 そう思うだけで、自然と涙が流れてきて視界が揺れるアズキ。

 もっとトモマサを見たいのに、よく見えないと目をゴシゴシこすっているところで、トモマサに抱きしめられた。


「ごめんね、アズキ。心配かけて」

「いい”え、い”い”え”、良いんです。トモマサ様が、いぎでいてくれればそれで。それだけで」

 泣き崩れそうになるアズキを支えるトモマサ。

 逆の手ではカリンも抱きしめていた。

 

 しばらく3人で抱き合ってるとツバメも目を覚ましてきたので、加えて抱き締め――

 起きだしていたルリも含めて、町へと返るため歩き出した。


 歩き出してすぐ、ツバメがドラゴンとの戦いについて聞きたそうにした。

 だが、トモマサは

「俺が倒しました」

 と端的に答えただけで話を終わらせた。

 

 ツバメもっと細かく聞くのかと思いきや。

「次は、私が倒す!」

 と息巻いているだけだった。

 ツバメとしても自らの力不足を理解していたようだ。


 4人で町に向かって歩く。

 トモマサは心の中で、行きは馬車で30分ほどかかったから、歩くと2時間ぐらいか。結構遠いな。と思いながら歩いてると前から馬車が見えてきた。

 迎えの馬車がトモマサたちを探しているようだった。

「トモマサ君、ドラゴンはどうなった? 逃がしたのなら、また戻ってくるかもしれない。討伐隊を組まないといけないんだ。教えてくれ」

 トモマサたち一行を見つけたスバルが、いの一番に聞く。

「スバルさん、倒しましたよ」

「そ、そうか、倒せたのか。……それなら良いんだ。とりあえず、馬車に乗ってくれ。町に帰ろう」


 止まった馬車に乗り込むトモマサたち、中にはシンゴ王子とカーチャ王女も乗っていた。

 2人とも小さな傷は残っているが、命に別状のない状態だった。

 シンゴ王子もカーチャ王女の回復魔法で命を取り留めたようだった。

 まだ魔素に余裕のあるトモマサが、追加で2人の傷を治していく。

 さらには、ついでとばかりに馬車に乗っていた『明けの明星』のメンバーの傷も治してあげる。


「今回は、本当に助かった。君達がいなければ、我々は誰1人生き残れなかっただろう。本当に感謝する」

 頭を下げるスバルに首を横にするトモマサ。

「いえ、俺もご迷惑をお掛けしました。もっと上手くやれば、皆がこんなに傷つくことなく戦いが終わったはずでしたから」


 皆の装備を見ると傷だらけだった。体の傷は治っても装備は治らない。

 特にシンゴ王子やアズキの装備を見てトモマサは自分の甘さを恥じた。


~~~


 町にもどると、大騒ぎだった。

 町の櫓から森の上空を飛び回るドラゴンが観測出来たらしく、王都イチジマの町からも沢山の腕に覚えのある傭兵達が集まっていたからだ。

 イソウの町の傭兵ギルドもそう言った人々でごった返していた。

 俺は疲れたのでそのまま宿屋に帰ろうと思ったのだが、スバルさんにトモマサ君は来てもらわないと困ると懇願されたので仕方なく付いていった。

 傭兵ギルドに森から帰った俺たちが到着すると、それまでの喧騒が嘘のように静まり帰った。

 俺たちのあまりに傷の多い装備を見て、生々しさを肌で感じてしまったのだろう。


 ギルドの受付にスバルさんが行く。

 そして、場の雰囲気に飲まれてか、挨拶の声すら出せない受付嬢へと告げる。


「今日の依頼の報告に来た。ドラゴンは討伐された。もう心配いらない」


 その報告に、今度はギルド中から大歓声が上がる。


「うぉー! 町の安全は守られたぞー!」

「こうしてはおれん。すぐに皆に知らせに行かないと!」


 中には、

「俺が倒そうと思ったのに」

 とか言ってる馬鹿もいた。


 そんな声はどんどん広がっていき、ギルドの中も外も大騒ぎとなった。


「ギルドマスターと話がしたいんだが、今いるかな? 討伐されたドラゴンについて報告したいことがあるんだ」

「はい! 少々お待ちください。ただいま来客中ですが、聞いてまいります」

 騒ぎ立てるギルドの中で、再度、受付嬢に声を掛けたスバルさん。

 受付嬢は即座にギルドマスターの部屋へと駆けていった。


 その様子を、微笑ましく見ていた俺。


「トモマサ君、すまないがギルドマスターとの話にも付き合ってくれないか?」

「え! うーん、まぁ、構いませんが」

 スバルさんの頼みに一瞬躊躇したが、同行する事にした。

 ここまで来たら最後まで付き合うのが筋かと思って。


「いやいや悪い話では無い。俺が、保証しよう。俺たちが逃げた後の事を、話して欲しいんだ。カリンさんから聞いたんだけど、うまく説明できる自信が無くてね。それに、討伐が証明されれば、褒賞金も出るだろうし。ボロボロになった装備を直すにも金は必要だろう?」

 俺がいやいや、同行すると思ったのだろう必死にフォローに入るスバルさん。

 確かに装備はボロボロだし金はあっても困らないけど、ギルドマスターに会うってラノベのテンプレだと碌な事にならない気がするんだよな、と考えていると受付嬢が返ってきた。


「ギルドマスターが、お会いになられるそうです。こちらにお越し下さい」

 受付嬢の案内で、スバルさんと俺は応接室に向かう。なんとなく連行されてる気分だ。


「ギルドマスター、お連れしました」

 受付嬢に促され奥――恐らくギルドマスター――の部屋に入ると、中には、知っている人がいた。

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