第134話3.31 祝勝パーティ

 会議の後は、パーティーだった。

 パーティーと言っても、コウベの領域に共に行った兵士達や傭兵達がメインだったので、かなり砕けたものだったが。


「トモマサちゃん~。いい挨拶だったわ~。私、感動しちゃたわ~」

 俺は今、酔ったカオルさんに絡まれている。

 挨拶は嫌だと言ったのに結局、ヒデヨリさんの策略? に引っかかり皆の前で話をする羽目になってしまった。

 大した事は言ってないのだが何故かカオルさんが大絶賛だ。

 その上、距離か近い。

 さっきから太ももに置かれている手が、少しずつ上に上がってきているがする。

 寒気がする動きだ。


 その手を払いながら周りを見るとアズキの周りには若い男の兵士や傭兵達が集まっていた。

 懲りずに口説こうとしているようだがアズキににべもなく断られている。

 隣のテーブルではシンゴ王子の周りに女性の兵士や傭兵達が集まっていた。

 こっちは楽しく談笑しているようだ。

 女性の方は何とか王子に取り入ろうとしているのだが、流石イケメン王子、女性の扱いがとても上手い。

 見事に躱している。


 ツバメ師匠はコハクと共に一心不乱に食事をしてる。

 どうやら大食い対決が始まったようだ。

 こちらにも幾人かの男達が視線を向けている。

 恐らくコハクにだと思う。

 ツバメ師匠を狙うロリコンは、いないと思いたい。

 娘だと思って暖かい目を向けている人はいるかもしれないけど。


 カリン先生とカーチャ王女はヒデヨリさんの娘さんと恋愛話で盛り上がってるようだ。

 たまに、こちらに視線が向けられてる気がするが、気付かないふりをしておいた。

 フラグを立てるつもりはないので。


 気を逸らしている間に、また、カオルさんの手が股間に迫って来ていた。

 このままでは不味い。

 危機を感じた俺はトイレに行くふりをしてカオルさんのセクハラを断ち切った。

 後ろで、「もう少しで落ちる所だったのに」とか声がする。

 いや、俺、ノーマルだから。

 落ちるのは巨乳だけだから。あ、美乳でも行くかも? などと首を傾げながらパーティー会場を抜け出た俺は、庭を1人散策していた。

 満月が近いのか、夜でも外は明るい。


「トモマサ様、散歩ですか?」

 気づくとアズキが付いて来ていた。

「ああ、十分食べたからな。少し腹ごなしに」


 そこからは2人でゆっくり散歩した。

 パーティー会場からは笑い声が聞こえてくる中、ほとんど話もせずに。

 まったりと。

 出会ってから、そろそろ1年。

 最近は、あまり話をしなくなった。

 別に距離が開いた訳ではない。

 逆に近くなった気がする。

 気分は熟練夫婦のようだ。


「少し早いけど、宿に帰ろうか? ゆっくり温泉にも入りたいし」

「お任せします」

 皆に伝えに会場に戻るとちょうど大食い対決が終わった所だった。

 ツバメ師匠が勝ったらしい。

 近づくとお腹が、ぷっくりと膨れていた。

 絶対、食べ過ぎだろうと苦笑いが浮かぶほど。


 先に帰る旨を伝えると、2人も帰りたいという事だった。

 シンゴ王子やカリン先生など他の人にも伝えると皆帰るという事だったので、全員で帰る事にする。

 退出前にホストであるヒデヨリさんに挨拶に行く。


「今日は呼んで頂きありがとうございました。少し早いですが、俺たちは宿に帰ります。未成年もたくさんいますし」

「そうか、礼を言うのはこちらだ。この町が守れたのは、トモマサ殿が来てくれたおかげだ。本当に助かった。ありがとう」

「いえ、皆のおかげですよ」

「まぁ、そう言う事にしておこうか。明日旅立つのだろう? 気を付けてな。また、アリマの町にきた時は顔を見せてくれ。歓迎する」

「ありがとうございます」

 皆で礼を言ってパーティー会場を出る。


 今日は温泉を楽しんで、明日にはイチジマに帰ろう。そう予定を考えながら、馬車に揺られていった。



 昨晩は、カリン先生と2人で眠った。

 もちろん2人で家族風呂に入ったりして十分に楽しんだ後だが。

 コハクが付いてくるのではないかと思ったが料理を食べ過ぎたのか帰って早々に眠ってしまったそうだ。


 今は出発前に朝風呂を楽しんでいる。

「転移魔法で一気に帰るのかい?」

 後から入ってきたシンゴ王子が湯船に浸かりながら聞いてきた。

「うーん、魔導車でゆっくり帰ろうかと思ってるんだけど、どうかな? イソウの町にも寄りたいし」

 魔導車でゆっくりってのは語弊があるかもしれないけど。


「この後、ノリクラ岳に行くのだろう? 急がなくて良いのかい? 夏休みは、まだまだあると言っても時間は有限なのだから」

「ああ、ノリクラ岳の方を転移魔法で行こうかと思うんだ」

「トモマサ君は、ノリクラ岳に行った事があるのかい?」

「ああ、昔登ったけど、俺の転移魔法では行けないから近くの町まで他の転移魔法使いに運んで貰えないかと思ってる。良い人が見つかるといいのだけどね」

 見つからなければ、最悪、魔導車で爆走だな。

 疲れそうだ。


「それならオクヒダの町かハダの町だね。イチジマに帰ったら転移できる人を探してみるよ」

 頼んでもいないのに請け負ってくれるシンゴ王子、素敵である。

 俺が女ならきっと抱き付いているであろう。

 男なので当然しないが。

 カオルさんとは違うので。


 部屋に戻るとカリン先生はすっかり出発準備が整っているようだった。

 俺と朝食に行くのを待っていたらしい。

 アズキ達とシンゴ王子達を呼んで皆で朝食をとる。

 ツバメ師匠とコハクは朝からまた、大量に食べていた。

 昨晩あれだけ食べたのによく入るものだ。


 朝食後、少しゆっくりしてからイチジマに向けて旅立つ事にした。

 旅館のロビーでは、土産物が売ってたので思わず買ってしまった。

 アリマ名物天然炭酸泉サイダーだ。

 昨晩のパーティーでも俺は、ずっと飲んでいたのもサイダーだった。

 まだ酒は飲ませてもらえないので。


 このサイダーだが31世紀では貴重品だ。

 魔法で作ることは可能なようだが数が少なくアリマのように天然で炭酸泉が湧き出る場所でないと大量には確保出来ないのだ。

 無ければ無いで問題無かったのだが久々に飲んでしまうと欲しくなるのが人間の心理だ。

 おかげで旅館に置いてあるものだけでは満足できず近くの土産物屋に行ってまで爆買いしてしまった。

 嬉しい事にアイテムボックスのおかげで保存には困らない。

 魔法の氷で冷やしてからアイテムボックスにしまっているので、いつでも冷えたサイダーが飲めるのだ。

 自動販売機の無い31世紀には、とんでもない贅沢だ。

 それに、いつもは爆買いを冷ややかな目で見ている、しっかり者のカリン先生ですら今回は暖かい目で見ている。

 サイダーは、お気に入りのようだった。


 さて、しっかり土産も買い込んだ俺たち。

 イチジマの町へ向け出発した。

 町の門に行くと、トシフサさんとカオルさんが待っていた。


「トモマサ様、ありがとうございました。またお越しの際は、ぜひ屋敷にも顔を出してください。歓迎します」

「こちらこそお世話になりました」

「トモマサちゃ~ん。もう会えないなんて寂しいわ~」

 トシフサさんと握手を交わした後、カオルさんが抱き付いてこようとしたので躱してさっさと魔導車に乗り込んだ。

 後ろで、「トモマサちゃんのイケズ~」とか聞こえるが放っておこう。


「それでは、行きます。ヒデヨリさんによろしくお伝え下さい」


 そう言って魔導車を走らす。

 カオルさんも放ったらかしはまずいかと思い、一応手を振っておいた。

 それを見たカオルさんがの全力で手を振り返す。トシフサさんが吹き飛ばされそうなほどに。


「優秀な傭兵なんだけどなぁ……」

 そんな事をつぶやきながら魔導車は進む。

 行きとは違いのんびりと。

 まだまだ夏休みは長いのだから。


~~~


「ところでトシフサちゃん、トモマサちゃんの馬車、馬がいなかったわね。どうなってるのかしらね?」

「さて私には分かりません。特殊な魔道具なのでしょう。ヤヨイ様の血縁である彼のことです。どんな珍しい魔道具を持ってても驚きませんよ」

「なるほどねぇー。あのヤヨイ様のねー。その上、あの強さ。最高の男ねー。ますます惚れたわー。今度会った時は、必ず落として見せるんだから、覚悟しときなさいよ。トモマサちゃーん!」

 不吉なことを言うカオルに、苦笑するトシフサ。

 いつもの事なのかもしれない。

 狙われる方は、溜まったものではないのだが。


~~~


「ヘックション」

「トモマサ様、お風邪ですか?」

「いや、大丈夫だと思うよ。ただ少し寒気がしただけだから。温泉で長湯して湯冷めしたかな?」

「それはいけません。帰ったら、しばらく休みましょう」

「いやいや、そんな暇はないよ」

「ダメです。せめて2日は休みます。良いですね」

「はい」


 のんびり散歩したりと距離が近づいた俺とアズキ、ついでに2人の上下関係も決まってきた気がする。

 21世紀睦月との結婚生活でも同じだったのだし、ここは甘んじて受け入れるしかないのだろうな。

 多分。

 決して、悪い気はしないのだから。

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