第183話5.3 スワの町再び

 昼前にツバメ師匠とルリが帰って来たので、3人と1匹でスワの町に転移した。たった数日前に解放されたばかりのスワの町であったが、既にたくさんの人が帰って来ているようだった。

 復旧工事も順調に進んでいるようで、大通りでは既に商店や食堂が開業していたりもしている。もちろん露天の店も並んでおり、ちょうど昼頃とあって混み合っているようだった。


「商人達は、逞しいねぇ」

「む、あの串焼きうまそうだな、ルリ」

「にゃ」

「それでしたら、お昼は、串焼きにしますか」

 感心しているのは、俺だけだった。ツバメ師匠もルリも、そしてアズキも食べる事に心が向いているようだった。

 まぁ、俺もお腹すいたけどさ。


「それなら、ここいらで、それぞれ好きな物を買ってからカリン先生の所に行こうか」

 俺がそう言うと、皆が頷く。そして、蜘蛛の子のように散って行った。

 10分後、再び集まった皆の手には、串焼きにオニギリに焼きそばにおやきにドーナッツにクレープにと思い思いの食べ物が握られている。それも、それぞれ誰が食べるんだ? と疑問になる程大量に。

 俺は、それをアイテムボックスに仕舞ってから領主の館へと歩いて行った。


 その領主の館までの間もどんどん建物が復旧されて行っていた。

「やっぱり魔法は、凄いな。1000年前21世紀よりも建築にかける時間が少ないかもな」

 そんな事をつぶやきながら歩いていると、領主の館が見えて来た。

 もちろん前来た時にあった門は無くなっており、誰にも止められる事なく辿り着く事が出来た。

「こんにちは」

 玄関をノックしながら挨拶をして、出て来たのは知らないおばさんだった。


「どうしましたか?」

「あの、アシダ トモマサと申します。カリン先生はおられますか?」

「カリン先生? ……ああ、スワ家のお嬢様かい。それなら、あっちに大きな建物が見えるだろう? あれが、領主様の新しい館になるから、あそこを訪ねてみな」

 どうやら、引っ越ししたようだ。ここは元々仮の館だったようで、街が解放されたのを期に元の場所に館を建築したのだとか。

 なので、俺はおばさんに礼を言ってそちらに向かう事にした。


 さっき通って来た道を戻ってしばらく行った所、塀に囲まれた広い敷地の中に領主の館と言うよりは神社っぽいのだが、は建っていた。まだ外装だけで、中は工事中のようだったが。

 そして、塀伝いに門の前に行くと、門番が立っていたので声をかける。

「こんにちは、アシダ トモマサと申します。カリン先生は、おられますか?」

「うむ、今確認する。しばし待て」

 そう言って門番が詰所に下がって、数分後、館の中から白髪の爺さんが走って来た。


「はぁはぁはぁ、よ、ようこそ、はぁはぁはぁ、おいで下さい、はぁはぁはぁ」

 息絶え絶えのまま、話をする爺さんに見かねた俺は、口を開いた。

「あの、落ち着いて。ゆっくりでいいですので、深呼吸してから、お話しください」

「スー、ハー、スー、ハー」

 助言に従って深呼吸する爺さん、落ち着いて来たようだ。

「トモマサ様、ありがとうございます。落ち着きました。では、改めて、ようこそおいで下さいました。カリンお嬢様と龍の巫女様は、そろそろお戻りになる頃でございます。中でお待ちください」

 そう言う、爺さんに連れられて館の中へと案内されていく。

『龍の巫女』? とちょっと思ったけど、爺さんに聞いても仕方がないと思ってスルーした。

 館の中の応接室へと通される。ここの工事は、終了していたようだ。

 上品な調度品も揃っており、派手過ぎず趣のある空間となっていた。

 俺達は勧められるままにソファーに腰を下ろす。


「それでは、お茶を準備いたします。しばらくお待ちください」

 そう言って、爺さんは出て行った。しばらくして先ず現れたのは、ヨリミツお義父さんだった。

「婿殿。ようこそ、参られた」

「こんにちは、突然の訪問申し訳ありません。しかし、街の動きが凄いですね。解放から、まだ数日とは思えないですね」

 ヨリミツお義父さんは、破顔して教えてくれた。

「そうなのだ。ブルードラゴンが倒されたのを知った近隣の領主や元々店を出していた商人達が、挙って復興に手を上げてくれてな。また、元の住民達も続々と戻って来てくれているようで、我々も信じられないほどのスピードで街の姿を取り戻しているよ。1週間前には、思いもつかない事だ。本当に、感謝している。婿殿。これ以上は、嫌がられるので言わないが、覚えておいてくれ」


 途中からは真摯な顔で話をするヨリミツお義父さんに、俺は苦笑を浮かべながら頷いくだけにしておいた。何を言っても礼を返されそうだからだ。

 そんなやりとりをしていると、カリン先生とコハクが部屋に入って来た。

「トモマサ君、カンラの街に行く日程は、決まりましたか? 全然、来ないので置いていかれたかと心配してしまいましたよ」

 そんな事を言いながらソファーに座るカリン先生。コハクも「久しぶりー」とだけ言って隣に座った。


「えっと、明日の朝、ヤヨイ達とここで集合だと聞いてます。詳細は明日、ヤヨイから教えて貰えるはずです」

「そうなんですね。明日なんですね。それなら今日は、トモマサ君も街の復旧に手を貸してくださいね。あ、もちろん、アズキさんとツバメさんも」

 笑顔で告げるカリン先生。その言葉によって、午後の予定は決まった。

 でも、その前に昼食だ! と言う事で、食堂に行くと、既にお義母さんやお義兄さん達は揃っていた。

 流石に急に来た俺達の分は無さそうだったので、露店で購入して来た品々を並べて皆でシェアして食べた。中でもやはり1番人気は、王都イチジマの唐揚げだった。イチジマにいる数日の間に、大枚を叩いて露天の店主にお願いして、これでもかってほど大人買いしておいて良かったと思える瞬間だった。

 揚げ終わった後、店主は疲れ切った顔を浮かべていたが、

「これで念願の店が持てる」

 とつぶやいていた。

 今度、イチジマに帰ったら店を探しに行かないといけないかもしれない。

 そうして、満足いくまで昼食を食べた俺達は、街の復旧作業へと向かった。


 30分後、俺はコハクと共に森の中を彷徨っていた。

「なんで俺だけ……」

「私もー、いるー」

 俺のつぶやきに、相変わらずの間延びした声で答えるコハク。

 そのコハクに導かれて、道無き道を進んで行く。

 やがて、モミの巨木が見えて来たところで、コハクが指をさした。

「これ」

 俺は示された木を切り倒して、アイテムボックスに仕舞って行く。

 そう、御柱祭の柱を探しているのだ。

 実際の祭りは春頃に行うので時期が違うのだが、それでも復旧した神社に柱が無いのは締まらない、と言う事で、俺は荷物運びとして連れて来られた。

 そしてまた、歩いて巨木を探すコハク。既に10本ほど取ったのだが、まだまだ足りないらしい。神社の復旧にも使うそうなので先は長そうだ。


「流石、龍の巫女様だな」

 神社の為に真剣に働いているコハクに俺が告げると、当のコハクはギョッとした顔をしてこちらを向いた。

「何処で、その呼び名を?」

 その返答に今度は、俺がギョッとした。間延びしていない――という事は怒ってるという事だからだ。


「い、いや、執事かな? 案内してくれた爺さんが言ってたから。もしかして、嫌だった?」

「他の人は、構わない。でも、トモマサ君は、ダメ。私は、貴方の彼女なの。妻になるの。巫女では無いの。分かった?」

 真顔で告げてくるコハクに俺は、頷くしかできなかった。

「それなら指切りね」

 そう言って、小指を出してくるコハクに俺も小指を出すと恐ろしい文句が出て来た。

「指切りげんまん、嘘ついたら、ブレス千回浴びせる。指切った」

「ブレス千回……」

「あれー、違うー?」

 一回でも死ぬなと思って身震いしていると、コハクの口調が戻っていた。

 一安心だ。

 心の中で溜息をつきながら、先へ進むコハクを追いかける。


 そして、無事に巨木を集め終えた俺達はスワの町へと戻った。

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