第81話2.19 ヌマタ男爵

 5月に入り領主会議が近づくにつれ王都イチジマの街は活気付いてきていた。

 国中の主だった貴族が集まって来るのだから当然だろう。


 俺も昼は授業に回転盤の研究、夜は彼女達の相手にと充実の日々を送っている。

 休日にはルリをモフるのも忘れてはいない。

 そんな中、今日は週一の狩りの日、シンゴ王子、カーチャ王女を加えたいつものパーティで大量に獲物を狩って来ていた。


 最近、狩に慣れて来たのかルリの敵策能力が物凄く向上してきていた。

 こっちの話も十分に理解しているようで、「ホーンラビット狩りたい」って言えば、「ニャー」って一鳴きして案内してくれる。

 ルリ的には、「こっちよ」って言ってるつもりなのだろう。

 魔物も盗賊も近づくと教えてくれるので不意打ちをくらう事が一切無くなっていた。

 頼もしい限りである。


「今日も数が多いので、傭兵ギルドに買い取ってもらいましょうか?」

「そうだね。傭兵ギルドで良いと思うよ、トモマサ君。領主会議も近いから、価格も上がってるだろうし」

 俺の問いにシンゴ王子が答えてくれる。

 皆も異存は無い様なので御者さんに頼んで傭兵ギルドに行ってもらう事にした。

 最初の頃は北門近くのギルド支所に行っていたのだが、最近はギルド本部で買い取ってもらう事が多い。

 本部を選ぶのは場所的に魔法学園が近いのもあるが、何と言っても人が少ないのが良い。

 支所はどうしても夕方頃に傭兵たちが沢山帰ってくるため混み合うので買取にどうしても時間が掛かるのだ。

 それに比べると本部は、ほとんど人が居ない。

 すぐに買い取ってくれるしアズキやカリン先生に卑猥な目線を送って来る傭兵も少ないので快適だ。


 そんな訳でギルド本部に今日も到着した。

 御者さんに駐車場で待つ様にお願いして俺たちは建物の中に入っていった。

「今日もガラガラだね。本部なのにこんなに空いてて良いのかな?」

「ギルド本部のメインは2階以上の管理の方だから、窓口業務はあまり力を入れてないみたいだね」

 そんな事をシンゴ王子と話しながら買取の窓口に向かう。

 窓口では、いつものお姉さんが受付をしていた。

「いらっしゃいませ。いつもの買取でよろしいでしょうか?」


「はい、よろしくお願いします」

 何度も通ってるうちに顔を覚えられたらしい。

 俺も慣れたもので買い取ってもらう魔物の数を記入していく。


「いつも沢山ありがとうございます。それでは確認いたしますので、裏の倉庫で出していただけますでしょうか?」

 シンゴ王子と2人裏の倉庫に向かい今日も大量に狩った魔物を並べていく。

 女性陣たちは受付近くで話しに花を咲かせていた。

 倉庫に並べられて行く魔物に大きな傷はほとんど無い。

 査定を気にして、最小限の傷でたおしているからだ。


 一体一体確認していく査定員も

「これもこれも、良い状態ですね」

 とほとんどマイナスが入らないで進んでいった。

 60体ほどあった魔物の査定も終わり確認証を受け取る。

 金貨50枚余り。

 いつもながら素晴らしい成果だ。


 支払いは、いつもの様に窓口に戻ってからなので再び受付のある建物の中に戻っていく。

 するとカリン先生の大きな声が聞こえてきた。

「やめてください」

 その声に俺は慌てて駆け出した。

 遠目に見るとカリン先生、アズキをかばう様に立っている。

 その前には何やら下品な金キラの服を着た小太りのおっさんが立っていた。


「そこを退け。女。後ろの雌犬は、私の奴隷になる物だ。ちょうど良いから連れて帰る事にした。邪魔をするとただでは済まさんぞ」

「何を言っているんですか! アズキさんは、トモマサ君の奴隷です。貴方の奴隷になるわけ無いでしょう」

「ええい、そのトモマサとかいう奴が俺の物だった雌犬を勝手に奴隷にしたのが悪いんだ。連れて帰って契約し直してやる」

 そう言って押し問答している所に到着した俺は、とりあえず、おっさんに軽く体当たりしておいた。


「ふぎゃ」

 おっさんは変な声を出して転がって行ってしまった。

 だが、おっさんのことなどどうでも良いのだ。

 相手をしていたカリン先生を見ると少し涙目になった先生の頬から血が流れていた。


「大丈夫ですか、カリン先生。頬から血が出てるじゃ無いですか」

 俺は、そう言ってすぐに回復魔法をかけて傷を治した。

「ちょっと、爪が引っかかっただけですから大丈夫ですよ。それよりアズキさんを抑えるのが大変で」

 アズキを見るとツバメ師匠とカーチャ王女が両腕にしがみ付いて拘束していた。

「トモマサ様、あの男、カリン先生を引っ叩いたのですよ。許せません、投げ飛ばします」

 これまでの付き合いで見たこともないほどの怒気を飛ばすアズキ。

 

 俺は、ダメだよアズキ、ワイルドボアすら投げ飛ばすアズキが手を出したらおっさん死んでしまうよ。

 俺が転がしたので我慢して。と心の中で願う。

「駄目よアズキさん、あの男、貴族です。奴隷のアズキさんが手を出したらトモマサ君に迷惑が掛かります。私は大丈夫ですから落ち着いて下さい」

 俺の体当たりではなくカリン先生の説得に少し落ち着いたアズキだったが、まだ危なそうなのでカーチャ王女とツバメ師匠には手を離さない様にお願いした。

 するとそこにシンゴ王子が近寄ってきてそっと教えてくれた。

「トモマサ君、彼は例の反対勢力の一員ですね。カワバの街のヌマタ カゲヨシ男爵です」

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