第82話2.20 ヌマタ男爵2
あいつがそうなのか。
ヤヨイが言ってたように本当に馬鹿そうだ。
アズキを奴隷にしようとするだけでは飽き足らず、カリン先生にまで手を上げるんだもの。
許せんな。
でも派手にやってはヤヨイに迷惑が掛かりそうだし、ここはどうするのが良いかな? 考えてるうちに、おっさんが立ち上がってまた向かって来た。
意外とタフだった。
「貴様、何をする。私の事を誰だと思ってそんな事をしている」
また面倒な事を言ってくるおっさん。
俺は面倒になり適当な事を口にする。
「いや、うちの女性陣にちょっかいを掛けるナンパ野郎がいると思ったもので止めに入ったのですが、まさか吹っ飛ぶとは思いませんでした」
だが。
「な、貴様、私をその辺の下賤な男と一緒にするな。私はカワバの街の高貴な貴族、ヌマタ男爵なのだぞ。貴様ごときが触れて良い存在では無いのだぞ。分かっておるのか? そんな事より、貴様、うちの女性陣とか申したな。すると貴様がトモマサとかいう馬鹿者か」
いきなり馬鹿者呼ばわりのおっさん。
自分で自分が高貴だと言ってる人だから周りの人はみんな馬鹿者に見えるのだろうか。
このままでは終わらないと俺は再度口を開く。
「俺がトモマサですが何かご用ですか? 俺は貴方に何の用も無いのですけど?」
「なんだ、その口の利き方は! もっと敬わんか! それより、その貴様の奴隷を渡せ。その雌犬は元々私の物だったのだ。それを貴様はどんな手口を使ったかしらんが、横取りしおって。本来なら手打ちにするところだが、今ならその雌犬を寄越せば許してやろう。どうだ良い話だろう? 奴隷を1人手放すだけで貴様の罪を消してやろうと言うのだ。寛大な処置に感謝をしろ」
何言ってんだこのおっさん。横取りしたから罪? アズキを渡せば許す? しかも雌犬だと! だんだん腹が立って来た。そもそも、おっさんが絡んできたんだろ? その上、カリン先生に怪我までさせて、人が大人しくしてると思ったら訳の分からない事言いやがって。
とりあえずもう一回、吹っ飛ばしてトンズラしようと思って一歩踏み出そうとした所で、肩に手をおかれた。
誰だと思って目を向けるとシンゴ王子だった。
「ヌマタ男爵、お久しぶりですね。アシダ王家第5王子のシンゴです。男爵においては、お元気そうで何よりです」
「む、シンゴ王子か。あの下賤な外国女の子供が王子などと身の程知らずにも程があるのだが、そんな事は今はどうでも良い。それより何の用だ? 私は、今忙しいのだ」
この言葉に俺は驚愕した。
このおっさん何なんだ? いくら子供だからって歴とした王子に対してなんて口の聞き方してるんだ? と。
さらには王妃のことを下賤な外国女? 無礼にしても限度を超えている。
この言葉だけでも無礼打ちできそうなのに、何も言わないシンゴ王子。
この国では外国人の差別でもあるのか? 確かにイチジマの街では、外国人はあまり見かけなかったけど、獣人ですら受け入れてるのに外人がダメってどういう事だと考えていたら、カリン先生が小声で教えてくれた。
「関東では、昔から人族至上主義しかも、生粋の元日本人を至上とする民族至上主義の考えがあるのです。関西では、王家の方針によりそんな差別はないので、獣人もドワーフも普通に生活してますけどね。関東は、元々違う国だったのを併合して連合王国にした歴史がある為、文化的な違いが色濃く残っているのです」
関東では差別があるのか。
21世紀の日本で生きて来た俺には受け入れ難い言葉だな。
大変革と言う大災害を乗り越えて、さらに、人類の天敵とも言える魔物の恐怖にさらされ続けてなお、人同士で差別をする。
歴史は繰り返すというけれども本当に進歩しないな。
この国の闇の部分を見た気がして、ため息が出る。
国の裏話を聞いてるうちにシンゴ王子とヌマタ男爵の話が進んでいた。
「良いのですか? ヌマタ男爵。ここは、カワバの街ではないのですよ。他人の奴隷を取り上げようとする、ヤヨイ様の縁者であるトモマサ君の婚約者に怪我を負わせる。明らかに貴方の方に非があるのではないですか。この事は、この場にいたギルド職員、傭兵達、誰に聞いてもその様に答えると思いますよ。もし貴方が、これ以上、奴隷を取り上げようとするなら、衛兵を呼ぶことになります。良いのですか? 貴方の所属するサロンの貴族方もこの領主会議には来られるのでしょう? これ以上騒ぎが大きくなっては困るのではないのですか?」
婚約者と言われたカリン先生が若干照れているが、今はそんな時では無いので放っておこう。
シンゴ王子の口撃にヌマタ男爵、威勢を削がれていく。
さすが王子様だ。ただのイケメンでは無い。社交界の荒波で揉まれてきたのだろう。
言われたヌマタ男爵苦虫を潰したような顔をして、
「今日のところは、見逃してやろう」
と捨て台詞を残して去って行った。
見事な雑魚キャラっぷりである。
塩をまきたいぐらいだった。
「シンゴ王子、ありがとう。助かったよ」
「いや、こちらこそ、すまなかった。僕が最初から出てれば、もっと早く片付いていたんだが、少し躊躇ってしまってね」
「シンゴ王子、気にしないでくれ。あのまま俺が出てたらもっと面倒な話になってたに違い無い。本当に助かったよ。ありがとう」
ああ、差別されてると分かってるのに話しかけるって勇気が要るよね。
頑張って助けてくれた王子には最大の感謝を伝える。
そして、もう1人、カリン先生も礼を言わないといけない。
「カリン先生も、アズキを守ってくれて、ありがとうございます。先生を彼女にして本当に良かったともいましたよ」
「当然の事をしたまでですよ。私もアズキさんの事は大好きですし、今では妹の様に思ってます。あんな、あんな理不尽な要求に屈する事なんて出来ませんから」
俺の言葉に真っ赤になった先生が、照れながら怒るという不思議な事をしながら話している。
あまりの可愛さに思わず抱きしめてしまう。
こんなに可愛いカリン先生を傷付けるなんて本当にあの男爵は、なんて馬鹿なんだ。
もっと痛めつけてやれば良かった。
でも先生一つだけ、見た目は完全にカリン先生が妹ですよ。
「ツバメ師匠もカーチャ王女もアズキを抑えてくれてありがとう。アズキも、よく我慢したね」
皆にも簡単にねぎらいの言葉を言って、とっとと帰る事にした。
あの男爵が戻って来ても面倒なので。
もちろん、お金を受け取るのを忘れずに。
馬車では抱き締められるカリン先生を羨ましそうに見ていたツバメ師匠とアズキを両手に抱いて帰った。
カーチャ王女も何やら熱い視線を送って来たが、
「カーチャ王女もありがとう」
とだけ言っておいた。
「私も抱き締めても良いのですよ」
カーチャ王女も小声で言っていたが聞こえないふりをした。
確かに感謝はしているがカーチャ王女を抱き締めるとなし崩し的に彼女になってしまいそうだから。
その夜、今日のお礼にカリン先生にたっぷりサービスした後、関東の情勢を聞いている。
「関東の特に旧エド国内での差別は、ひどいと聞いています。200年ほど前に連合王国に加入して関西と同じ法を適応したにも関わらず、未だ、獣人やドワーフ、エルフに至るまで全ての亜人は、奴隷の様に扱われているのです。外国人もほとんど同様で、関東ではろくな仕事に就けず貧困に喘いでいるのです。例年、領主会議では、その辺りの差別の話も出るのですが、表面上は、差別は存在しないとしている関東勢に知らぬ存ぜぬを貫かれて、国王様も困り果てていると聞いています。法改正についても同様で、大罪を犯したアズキさんの父親が犬獣人である為、余計な反発を招いていると噂に聞いています。
今年は、トモマサ君の文書のお陰で法改正にへの機運が高まっている様ですが、どうなるのかは分かりません。さらに言うと、極々小さな可能性ですが、関東勢が反旗を翻して独立宣言、さらには関西への攻勢に打って出るのではとの話まであるぐらいです。王家も国家運営の舵取りに四苦八苦していると聞いています」
布団の上で裸で話しているのだが、白熱してきたカリン先生、だんだん身振りが大きくなってその度に揺れるんです。
おっぱいがボインボインと揺れるんです重要な話の最中なのに、目の前で揺れる度に目線が行ってしまうんです。
カリン先生の話が終わるまではなんとか我慢したんですよ。
本当に我慢したんですよ。
結果的には襲い掛かってしまったんだけどね。
しかも2回も。
ダメだな、大事な話は服を着てしないと。とカリン先生を抱きしめながら反省した俺だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます