第83話2.21 領主会議

 領主会議の数日前になり、ヤヨイに呼び出されヤヨイの屋敷にやって来ていた。

「あの馬鹿と、一悶着あったそうね」

 応接室で顔を見るなりヤヨイが言ってくる。


「本当に馬鹿だったよ。あれで、領主が務まるなんて不思議で仕方が無いほどに」

「あいつに領地経営なんて出来るはずが無いでしょ。全部部下がやってるわよ。本人は、ハンコ押すだけの仕事よ。最近多いのよね。その手の貴族が。何にもしないのにプライドだけは高いんだから。世襲制の1番の問題点なの」

 それで務まるのか領主が。

 21世紀の政治家でもそれなりに仕事してたというのに。

 選挙前だけだけど。

「それで、今日はなんの話なんだ? 復元魔法の話? アズキの話? 他なんかあったっけ?」

「まぁ、それらを含めて全部よ。とりあえず、王城に行きましょうか? 話はそっちでする事になってるので」

 

 俺、ヤヨイ、アズキの3人で王城に向かう。

 今回はアズキも関係のある話なので同行するそうだ。

 王城の会議室に入ると、王様と王様補佐のじいさん、シンゴ王子とカーチャ王女も来ていた。

「トモマサ様、ヤヨイ様、お忙しい中のご来城ありがとうございます」

 王様が仰々しく頭を下げてくる。

 うーん、やっぱり慣れない。少しげんなりしながらシンゴ王子の方へと目を向けると、ひらひらと手を振ってくれた。

 これぐらいの関係が丁度いい。

 カーチャ王女は相変わらず熱い目線を送ってくるので思わず目を逸らしてしまった。

 それだけのことで荒い呼吸音が聞こえて来るカーチャ王女、ちょっと怖いです。


 俺たちが席に着いた所で話が始まった。

 流石にアズキは座らずに俺の後ろに立たままだったが。

「まずは、復元魔法の復活、おめでとうございます。マリ教授の論文も上がって来ておりますし、領主会議でも十分な時間を取って発表していただきます」


 マリ教授の論文、俺も読みましたよ。

 俺は本当に偶然文書を見つけただけって立ち位置で書かれていたので許可を出しました。

 うんうん頷いていると王様が面倒な事を言ってきた。


「つきましては、トモマサ様にも領主会議で発表していただきたいのですが、如何でしょうか?」


 俺に何を発表しろと? 文書を見つけましたってみんなの前で言うのか? そんな恥ずかしいことできないぞ。

 思いっきり顔を顰める俺。

 だが。

「それは、ダメよ。シンちゃん。せっかくマリ教授の手柄にしたのに、父さんが変な発表したら、みんなが疑うかもしれないわ。父さんは、マリ教授の発表の横で立ってるだけで十分よ」

 ヤヨイからダメ出しが出た。

 ナイスだヤヨイ。

 そうだ、立ってるだけで十分だ。

 領主会議で話すなんて21世紀なら国会で話をするようなものなんだぞ。

 小市民の俺に、そんな事できるわけが無いだろう。

 立ってるだけでもギリギリなんだからな。


「分かりました。仕方がありません。トモマサ様、発表の時間はプログラムから削除させていただきます。2時間ほど予定していたのですが残念です……。それでは、次に大罪法改正についてです」

 大袈裟に肩を落とす王様。無念さを体で表現していた。


 そして、ようやく本題が来た。


 大罪法――科学の復興による魔虫の大繁殖を発生させた者に適応されるもので、犯罪者本人だけでなく家族にまで刑が及ぶ唯一の法――についてである。

 この、家族に及ぶ刑について、ここ数年、法改正を目論んでいるが規定の議席を獲得出来ずに断念している重大案件である。

「今年は、トモマサ様の文書発見自作自演によりかなり法改正の機運が高まって来てます。各領主に当たった所でも良い感触を得ていますが、まだ、改正までの議席が足りません。今年の目標としては、賛成議席数を伸ばしつつ、来年の採決に向けて議論を活発化させる方向で進めたいと思います」

「一気に決めたかったけど、確かに時間が足りなかったわね。シンちゃんの方針で問題無いと思うわ。宗教関係者を味方に付けて来年こそは、確実に法改正出来るよう進めましょう」

 そうか今年の法改正は難しいのか。

 早くアズキを奴隷から解放してやりたいのだが、もう一年我慢か。


「次の議題はキノモトの街の魔物氾濫についてです」

 そうして次々と議題が続いて行く。

 この会議どうやら領主会議に向けての最終チェックのようだった。

 その話を聞きながら俺は一つ疑問を抱いた。

 俺は必要なのか? ヤヨイも王様も俺に何を期待しているのだろうか? と。

 

 そして話を聞く事4時間、長い長い会議が終わった。

 聞くだけで全く喋る事が無いままに。


 ちなみにシンゴ王子、聞きながら熱心にメモを取っていた。

 イケメンな上に勉強熱心、もう非の打ち所がない。

 将来は優秀な領主になる事間違いなしだった。


 会議終了後に王子が挨拶に来たので気になっていた事を聞いてみた。

「シンゴ王子、王子はどうしてこの会議に参加してるの? 普通は第一王子あたりが出てくるのでは無いのか?」

「ここだけの話ですが、一番上の兄様は来たかったようですが魔物の討伐が長引いているため来られませんでした。それ以外の兄様方は、何かと理由を付けて逃げました。長い会議が嫌だったようです。そのため、私に話が回ってきました。カーチャは、なぜ来てるのか分かりませんが父様に頼んで参加させていただいたようです」

 シンゴ王子の答えに俺の眉間に皺がよる。

 逃げた、長い会議が嫌で逃げた。

 そんな事が許されるのか? この国は大丈夫なのか? 心配になってくる。


 そしてカーチャ王女の参加理由も気になる。

 聞くのが怖いから聞かないけど。

 きっとろくな理由では無いと思う。

 会議の帰りも挨拶したら抱きつこうとしてきたので思わず避けてしまった。

 避けた俺を見てはぁはぁ言ってるカーチャ王女。本当にこの国は大丈夫なのだろうか? 俺の貞操は奪われないだろうか? そんな心配をしながら大急ぎで寮に帰った。

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