第151話4.14 冷凍睡眠

「それじゃ、寿命なのか?」

 俺が青い顔でタカモリ里長に問うと、里長は肯いて答えてくれた。


「そうです。ヤヨイ様は、冷凍睡眠(コールド・スリープ)の時間を抜きますと、既に450年は生きていることになろうかと。この数字は、エルフの平均寿命を大きく超えています。冷凍睡眠(コールド・スリープ)による細胞の活性化と回復魔法のおかげではあるのでしょうが、いつ亡くなっても不思議ではありません」

「それなら、後どれぐらい生きられるんだ?」

「分かりません。ここにこられた時には、もう、立つのがやっとでしたから。今は、衰えた体を少しでも活性化する為に、冷凍睡眠(コールド・スリープ)に入っておられますが、起床されてどうなるかは全くの不明です」

「そんなに悪かったのか……これまで全く気付かなかった」

 俺は力が抜け椅子からずり落ちそうになる。

 その俺の腕を持ち引き上げるアズキ。


「トモマサ様、しっかりして下さい。きっと、きっと方法があるはずです。トモマサ様なら、きっと」

 アズキも泣きそうな顔であるが我慢しているようだった。


「ごめん。アズキ。娘の死期を聞いて思考が停止していたよ。そうだな、魔法がある現代31世紀だもんな。何か手があるよな」

 俺は腕を掴むアズキの手を握り慰める。

 まだ、考える時間はあるんだ。老化をくい止め、若返らせる方法を考えよう。

 気を取り直した俺は、タカモリ里長にお願いする。


「状況は、分かりました。それで、一度ヤヨイに会わせてもらえませんか?」

「分かりました。ヤヨイ様の眠る場所にご案内しましょう」

 タカモリ里長の返事を聞き部屋を出ようとするときに、その音が里中に響いた。


―――


『Batttttiiiiiiiーーーーーーnnnnnnn!!!!』


 エルフの里中央、ヤヨイの眠る冷凍睡眠(コールド・スリープ)装置の建物からその音は響いた。

 音に驚きいち早く動いたのは、冷凍睡眠(コールド・スリープ)装置の研究を行っていた、オオスギ ナツコ研究員である。


「なに、なんなの? 何の音? 今までこんな音鳴った事ないじゃない!一体どうなってるの!」


 音の元に向かうナツコ研究員は、走りながら愚痴をこぼしていた。

 このナツコ研究員、発案者以降、複製できない冷凍睡眠(コールド・スリープ)装置の製作を目指して日夜研究に勤しんでいる、いわゆる研究馬鹿である。

 その研究馬鹿が音がしたであろう部屋のドアを開ける。

 そこは冷凍睡眠(コールド・スリープ)装置の心臓部とも言える制御用の魔石が設置されている部屋であった。


「うゎ、何この煙。ごほごほ。前が見えない。でも、行かないと。ここで、この装置が壊れたら2度と復元できないんだから」

 そう言いながら、自分の身を顧みず部屋の中に突っ込んで行くナツコ研究員。

 さすが研究馬鹿である。

 そして、その煙の先で見たものは――無残にも弾け飛んだ魔石の破片だった。


「そんな、魔石が1個弾けている。この魔石は、確か……、エルフの里から魔素を集める魔術式の書かれた魔石だったわね。これが、壊れたと言う事は、大変。ヤヨイ様が死んでしまうわ」


 慌てて、外部に連絡する為に走り出す、ナツコ研究員。

 そのナツコ研究員が、建物の外に出た所で、タカモリ里長とかち合った。


―――


『Batttttiiiiiiiーーーーーーnnnnnnn!!!!』


 エルフの里に響く音を聞いた俺達は、慌てて走り出したタカモリ里長を追い掛けながら問い質す。

「何ですか、あの音は?」

「はぁはぁはぁ、分かりません。ただ、ヤヨイ様の……おられる方向から音がしました。はぁはぁはぁ。ただ事では……無いと思います」

 全力で走っているのだろう。

 かなり辛そうに走るタカモリ里長。

 出来れば先行したいのだが、行き先が分からない。

 もどかしい思いで付いて行くと、エルフの里の中央にある一際大きな木の建物から白衣の女性が1人出てくる所だった。


「はぁはぁはぁ、ナツコ君、一体……何の音だ? また、変な研究していたのか?」

 苦しそうに問い質すタカモリ里長。


「ち、違います。今回は、私、何もしてません」

 激しく否定する、ナツコという女性。


「そんな事よりも、大変です。このままでは、ヤヨイ様が死んでしまいます」

「な、何だって! どういう事だ。教えてくれ!」

 ナツコさんの言葉を聞いた俺は、思わずナツコさんの肩を持ち思いっきり揺さぶる。


「あああああああ、や、やめてーーーー。は、話すからーーーー」

 ナツコさんが何か言ってるが、全然耳に入ってこない。

 構わず揺さぶり続けていた俺は、アズキとツバメ師匠に腕を掴まれ無理やりナツコさんから引きはなされた。


「はぁはぁ、私が先に死ぬかと思った」

「早く! 「トモマサ様! 少し落ち着いてください」」

 俺が催促しようとすると、アズキに止められる。

 だが、おかげで少し落ち着いた。

 そして息を整えたナツコさんが話始めた。

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