第163話4.26 シラホネの町
その夜、俺達はシラホネの町で一番大きな宿に泊まっていた。
アズキ達の聞き込みの結果、近くでいい宿と言えばシラホネの町にしかないという事だったのだ。
その後、魔導車で一気に移動した俺たちは今、シンゴ王子と湯船で寛いでいる。
「ははぁ、昨日泊まった、『奥穂高』も良かったけど、この『白湯宿』も良いねぇ」
「うん、この白濁した湯がまた昨日とは違った趣を出していて落ち着くよ」
湯船に肩まで浸かって手足を伸ばすシンゴ王子。
とても気持ち良さそうだ。
「でも、良かったのかい? ツバメさんと家族風呂に入らなくて」
「ああ、昨日も入ったしね。ツバメ師匠と入ると色々気を使って大変だから、疲れている今日は、遠慮して貰ったんだ」
そうツバメ師匠と入ると、とても気を使うのだ。
ベタベタと引っ付いてくるツバメ師匠にナニが反応しないようにと。
あれなら、素直にアズキと入ってあの大きな乳を見ている方が落ち着くと言うものだ。まぁ、そっちはまた後で入るのだが。
「そう言うものなのか。女性と付き合った事の無い僕には分からない事だな」
うん、こんな苦労、シンゴ王子がする必要はないと思うよ。
とか思いながら、そう言えば以前から不思議に思ってた事を聞いてみる。
「シンゴ王子って、婚約者いないの?」
「ああ、いないよ」
「何で? シンゴ王子なら引く手数多だろうに」
「それはね、僕がハーフだからだよ」
驚きの言葉だった。
ハーフだからいない。
不思議に思ってさらに聞くと、詳しく教えてくれた。
どうやら、これも関東の圧力のようだった。
差別の多い関東では、外国人も差別対象だ。もちろん、その子供も。
だが、イチジマではそんな差別は存在しない。
なので普通なら誰も気にしないのだが、貴族になると話が変わる。
関東とは差別意識が異なるとは言え、娘婿がハーフとなると関東からの攻撃材料にされかねない。
そのおかげでシンゴ王子には婚約者がおらず、カーチャ王女も同じ理由でいないそうだ。
「王家と繋がりを持てるなら、喜んでって剛毅な貴族はいないのか」
「残念ながらね。せめてもう少し継承順位が高ければ無理をする貴族もいると思うけど、第5王子ではね……」
少し自嘲気味に話をするシンゴ王子。
それでも将来展望はあるようだ。穏やかに話を続ける。
「だから僕は、早くから戦闘術を学んだんだ。将来は、軍に入って働く為にね。王族への未練もないので、成人と共に継承権も放棄するつもりだ。そして、この腕一本で成り上がるよ。だから、そんな顔しないでくれ、トモマサ君。君には、とても感謝している。現状で、まだ王子である僕がこんなに自由に動き回わって色々な経験を積めるのは、トモマサ君のおかげなのだから」
俺の顔を見て話を続けるシンゴ王子。
そして今、俺はどんな顔をしているのだろう。
気分的には、悲しいような寂しいような泣きたいようなそんな感じなのだが。
そんな事を考えてるとシンゴ王子が少し改まって話し始めた。
「トモマサ君、いや、トモマサ様。私を憐れんでくれるんですね。ですが、私は大丈夫です。男ですから最悪は傭兵としてでも生きていけます。幸いに黒目に黒髪と、外国人らしい特徴も目立たないですから。でも、それでも、私を憐れんでいただけるのであれば、その思いを是非、カーチャに向けてあげて欲しいのです。私と同じようににカーチャも王家では生きていけません。回復魔法は得意ですが身を守る術は、持っていません。そんなカーチャですので、市井でも生き抜けないでしょう。下衆な輩に騙されて娼館にでも売られてしまうでしょう。ですので、もし、憐れんでいただけるのであれば、カーチャをエカチェリーナをトモマサ様の婚約者に加えてやってもらえないでしょうか? 幸いに、カーチャもトモマサ様を好いている様子ですし、是非にお願いします!」
話しているうちにテンションが上がってきたのだろうシンゴ王子、風呂の中なのに土下座しそうな勢いだ。
「ちょ、待って待って、シンゴ王子、頭上げて」
俺は慌てて頭を上げさせる。
上げた頭から向けられる視線の強さは、俺がたじろぐほどだった。
「うーん、困ったなー」
カーチャ王女、金髪碧眼の美少女だ。
将来は、ものすごい美人になるだろう。
戦いでも回復魔法を駆使して皆を影から支えているし、アズキを筆頭に彼女達とも仲良しだ。
だけど、だけど、大きな問題がある。
あの「奴隷にして欲しい」発言のような、Mっぽい言動なのだ。
そんな俺の考えを読んだのか、シンゴ王子がまた話し出す。
「カーチャのあの性格が気になるのですね。それなら、大丈夫です。恐らく、あれも子供の頃より周りから受けた下卑た視線や嘲笑から身を守る術なのだと思います。ですので、きっとトモマサ様やアズキさん、他の彼女達の愛情を受ければ普通にとは行かないまでも、マシになるはずです」
そう言い切って、また頭を下げようとするシンゴ王子に負けて俺は言ってしまった。
「分かったよ。直ぐに……とはいかないけど、真剣に考えてみるよ」
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