第27話1.27 剣と魔法3

 一週間のうち月、水、金と魔法の授業なので、火、木、土と剣術の修業を入れた。と言っても、午後だけた。

 一日中剣を振うには体が出来ていないので、取り敢えず、半日でいいらしい。


 今日からツバメ先生の剣術修業が始まった。

 確かに始まったのだが、開始から2時間、ずっと同じことをやらされている。

 そう、ひたすらに木刀を振らされているのだ。

「トモマサよ。さっきも言っただろう。動きが緩慢になってきておるぞ。もそっと集中せい」

 どこから見ても幼女のツバメ師匠が縁側に座ってお茶をすする合間にそんなことを言って来た。

「ツバメ先生、朝からずっと同じ動きで体が思うように動かなくなってきました」

 すでに全身フラフラで息絶え絶えである。

「それは、お主の気合が足りんからであろう? しかし、まぁ、そろそろ2時間か。よし、止めい」

 ようやく掛かった「止め」の号令に俺は、その場にへたり込んでしまった。

初日からスパルタである。


「うむ、大体わかったぞ。お主、先日才能は無さそうだと言ったが、間違いであった。『無さそう』ではなく『無い』のな」

「はははは、ははは、はあ……」

 それを見るために朝からずっと木刀振っていたのかと思うと、乾いた笑いしか出て来ない。

「しかし、どうしたものかの。せっかくの初弟子だというのに何も教えることがないでは、弟子とは言えんしの」

「初弟子なのですか?」

「そうなのじゃ。これまでも弟子を募集しておったのだが、私の顔を見ると皆帰ってしもうての。困っておったのじゃ」

 そりゃ、幼女が師匠とか皆断るよね。しかも、口が悪い。なんで俺受けちゃったのだろう? 技はすごいのだけどね。

 俺とツバメ師匠、それぞれ考え込んでいると、アズキが休憩用のお茶とお菓子を持ってやって来たので皆でいただいた。

 

 休憩も済み、修行の再開である。

 休憩中も考え込んでいたツバメ師匠は、何やら答えが出たようだ。晴れやかに話しだしだ。

「剣術の才能のないお主に技を覚えるのは無理なので、それ以外の心と体を鍛えてやろう。幸い、魔法が得意なようなので、技なしでも戦えるようになるであろうしの」

 なかなか思い切った決断だな。

「ツバメ師匠、技なしで剣術と言えるのでしょうか?」

「技と言うのは、先日見せた鎧切りのようなものだ。それ以外の心の持ちようや体裁きなどは、才能とは関係なく身に着ける事が出来る。それらを教えていくとしよう」

 なんだ、そういう事か。才能が無い無い言われて少し卑屈になっていたよ。要は一般人レベルだってことだな。

「よろしくお願いします」

 俺がそう言って修業が始まるかと思ったのだが、ツバメ師匠がアズキにとんでもないことを言い出した。


「ところで、そこの犬獣人のメイド殿。剣術を覚える気はないか?お主なら『厳流』の神髄を極められる、万人に一人の才能を持っておると思うのだ。希望するなら、すぐに私の母に紹介状を書くが?」

 ええ~、アズキにそんな才能が⁉ 驚く俺をよそに、アズキは迷いなく答えた。

「ツバメ様、申し訳ありませんが、私はトモマサ様の奴隷です。お側を離れるつもりは御座いません。それに、母から習った柔術が体に染みついておりますので剣術を覚えることはできないと思います」

「そ、そうか。柔術を嗜んでおったか。それで、その無駄のない体裁きなのだな。恐ろしいほどの腕前だ。一度手合わせを……いや、無駄か、勝てる気がしない。忘れてくれ」

 それほどの実力なのか? 確かに、布団で押し倒されたとき全く身動きが取れなかったけど、あれも柔術の技なのだろうか? それとも俺が非力すぎるのか? 今度聞いてみよう。

「ツバメ様、私など大したことは御座いません。なにしろ、亡くなった母には一度も勝てませんでしたから」

「母君は、さぞ名のある柔術家だったのだろうな。名は……聞かぬ方がよかろう。下手なことを聞くと、つい口を滑らせて守秘義務を違反してしまいそうだ。奴隷にはなりたくないのでな」

 ヤヨイめ。また、そんな契約を交わしたのか。恐ろしい奴だ。と思いつつも再開した修行、残りの時間も全く同じ木刀振りだった。

 結局これが基礎の基礎で先生が来ない日もやっておくよう言われ初日は終了した。

 腕が棒のようになって。


 剣術修業を初めて一週間は、ずっと全身筋肉痛だった。

 腕はもちろんのこと背中から太もも脹脛まで筋肉痛が広がっていた。

 筋肉痛を回復魔法で治すと筋肉の超回復が起こらない為、ずっと我慢するのが普通らしい。

「21世紀には、回復魔法は無かったから俺としては普通だ。だから大丈夫」

 あまりに痛そうな俺を見たアズキが背負っていくと言い出したので、断るのが大変だった。

 女の子に背負われて移動なんて恥ずかしすぎるので、ある意味修業より必死で断った。

 それから10日ほど、筋肉痛も取れて木刀の動きもスムーズになって来ていた。

「うむ、動きが良くなってきたな。そろそろ次の動きを加えていくかの。まずは、一の型じゃ」

 ツバメ師匠が、横の動きを加えた型を披露していく。

「私に続けてやっていくのじゃ。正眼から横薙ぎ、逆袈裟、払い、胴突き、再度の横薙ぎ……そして正眼。どうじゃ、分かったか? 一人でやってみろ」

 そう言われて、やってみる。正眼、横薙ぎ、逆袈裟……

「足が逆じゃ、それでは、次の動きに行けん。最初は、ゆっくりと考えながらやるのじゃ」

 何度も何度も繰り返す、ツバメ師匠に修正されながら。


「動きは、何とか覚えたようじゃの。一つ一つの動きを考えながら、やっていくのじゃぞ。今日からは休みの日もこの型を繰り返し行うように。それでは、今日はこれまで」

 土曜の修行が終わってようやく一息ついた。

 もう11月、秋も深まり夜は肌寒くなってくるころだが、1日剣術の修業をするとたっぷりと汗をかく。

「汗で結構ベトベトだな。夕食まで時間があるし風呂でも入るか」

 アズキに着替えを持ってきてもらって、俺は風呂に入ることにした。

 アズキにはいつものように自分で洗うから入ってこなくて良いと念を押しておいた。

 気を抜くと奴隷の務めだと言って、すぐに入ってこようとするのだ。

 心のハードルは、かなり下がっている俺だが、まだ一線は超えていない。


「いい湯だな。疲れた体には、お風呂が一番」

 一人いい気分で湯船に使ってぼーっとしていた。

 すると突然、真横から声がした。

「さすが、ヤヨイ様の屋敷だな。風呂も大きい。もっと早く湯を貰っておけばよかった」

「へ? い、いつの間に?」

 間抜けな声が出た。横を見るとツバメ師匠が、頭にタオルを置いて湯船に遣っていた。体にはタオル1枚無く。

 お湯の中で見えそうで見えないツバメ師匠の体、完全なお子様体形のはずなのにすごく気になる。

 男のサガとばかりに見ていると返事があった。

「うん? 最初からおったぞ。お主が後から入って来たのだ」

「す、すみません。すぐに出ます」

 慌てて出ようとした俺だけど、出られなかった。

 ツバメ師匠に腕を掴まれたからだ。軽く掴まれただけなのに全く動かない体。


「慌てるな。弟子と風呂に入るのも良いものだ。私は全く気にせん。そうだ、後で背中を流してくれんかの? 他の奴らがやって貰ってるの見て羨ましかったのだ」

 どうやら、ツバメ師匠、弟子が、師匠と風呂に入ったのを恐縮して出て行こうとしていたと思っているようだ。

 その上、背中を流してほしいとか。相手がロリコンだったらどうするつもりなのだろうか? いや、俺は違うけどね。

「ツバメ師匠。剣術の世界では、男女混浴は当たり前なのでしょうか?」

「いやいや、いくら子弟でも、男女混浴はせんぞ。セクハラで訴えられてしまうからの」

 俺の遠回しな言葉に普通の返答が帰ってきた。

 しかし、31世紀でもセクハラあるのか。ツバメ師匠と風呂に入っている俺、訴えられるのは、俺なのだろうな……。

 実の娘のヤヨイですら10歳までには一緒に風呂には入ってくれなくなってたもんな。


「あの、俺一応男なのですけど。一緒に入ってよかったのですか?」

 遠回しに聞いても分からなかったようなのでストレートに聞いてみた。

「お? そう言えばそうじゃった。いやすまん。私は、お主の体に興味はないからの。本当じゃぞ」

 ツバメ師匠、そう言いながらも胸を手で隠しながら湯船の反対側に離れて行った。

 隠すほど胸無いけどね。顔が真っ赤だった。


「それじゃ、俺は先に出ますね」

 これ幸いにと出ようとする俺だけど、ツバメ師匠は許してくれない。

「いや、まて、折角来たのじゃ、ゆっくり入ろうではないか。私も弟子と風呂に入りたかったのだ。お主も私の体になど、興味ないだろう?」

 確かにツバメ先生の体に興味はない。

 しかし、この期に及んで混浴を続けると? 見つかったら俺の社会評価だけ下がりそうなシチュエーションなのだが幼女師匠の頼みは断りづらい。

「仕方ないですね。今回だけですよ。それと、背中は流しませんからね」

「そ、そうか。背中は流してくれんか。分かった仕方がない。それならせめて、隣に行っても良いか?」

 赤い顔で頼んでくるツバメ師匠。


「うーん、タオルで体を隠すならいいですよ」

 本当はあまり近づきたくないのだが、やはり幼女師匠の願いは断りづらかった。

 嬉し恥ずかしいのか、のぼせたのか、赤い顔で頭に乗せたハンドタオルを体の前面だけ垂らして歩いてくるツバメ師匠。

 その姿は、なぜだか真っ裸よりも余計に意識が向いてしまった。

 つるっぺたの胸のはずなのに見えそうで見えないとこんなにも気になるなんて。

 色々意識し過ぎな俺は、新しい性癖に目覚める前に早々に風呂から出た。

 ツバメ師匠は不満そうだったが。

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