第28話1.28 剣と魔法4
「トモマサ君、何か覚えたい魔法はありますか?」
魔素コントロールの精度も上がり、基礎魔法を思うがままに使えるようになってきた頃、カリン先生突然の質問である。
何でまた急にと思っていたら、慌てて
「授業に飽きないように、たまに目先を変える事も必要なのです」
と言っていた。
そんなカリン先生を見て、ちゃんと先生しているんだなと感心してしまった。
見た目は、完全に高校生ぐらいなのに。
「覚えたい魔法ですか? うーん、そうですね~。身体魔法を覚えたいですね。剣術で使えそうですし」
「アズキさんは何かありますか?」
今度は、アズキに聞いている。
アズキも最近は魔素コントロールを覚え、風魔法が使えるようになっていた。
他の属性魔法には苦戦しているようだが。
「私ですか。風以外の属性魔法が使いたいですが難しそうですし、生活魔法を習ってみたいです」
「生活魔法か。それも良いな。俺もあまり使えないしな」
アズキの返答に俺も同意した。
戦闘向きの攻撃と回復魔法は覚えたのだが、一番よく使う生活魔法をあまり知らないのだよね。
本で種類だけ読んだのだけど、覚えて無いままだった。
「あー、確かに教えて無いですね。授業ではするような事では無いですからね。トモマサ君もアズキさんも魔法初心者ですから仕方が無いですね。今日は、生活魔法と身体魔法を覚えましょう。それでは、まず、二人が使える生活魔法を教えて下さい」
「俺は、照明(ライト)と着火(イグニッション)ぐらいですね」
「私は、照明(ライト)だけですね。他は、魔道具で発動させていました」
俺とアズキ二人が順に答えて行く。それを聞いたカリン先生が、どの魔法を教えるか考え始めたようだ。
「なるほど、共通なのは照明(ライト)だけですね。とすると、それ以外を教えていく事にしましょうか。え~、これまでの魔法と生活魔法の違いを知っていますか?」
違い? 何だろう? 考えたこともなかった。戦闘向きのものとそれ以外って括りかな?
俺が、そんな事を答えると、カリン先生から
「違います。もう少し明確な区別があります」
と言われてしまった。
そこから生活魔法の長い歴史について話が始まったのだが掻い摘んで言うと、生活魔法とは通常の魔法とは違い多くの人が認知する事により、魔素に細かい命令を与える事なく発動できる魔法の事であるらしい。
要は、魔素に照明(ライト)ってイメージを渡すと、ああ、ああれねと魔素が勝手に判断して明かりを灯してくれる。
そんな魔法の事であるとの事だった。
その為、命令が簡素になり、ごく微量の魔素で実行出来る魔法になったとの事だった。
「なので、火魔法が使えなくても火を出す着火(イグニッション)は使えますし、水魔法が使えなくても水を使う洗浄(ウォッシュ)は使えます。一度ずつ見せますので続けて試してみてください」
着火(イグニッション)、洗浄(ウォッシュ)、乾燥(ドライ)、攪拌(ミキシング)、冷却(クール)、冷凍(コールド)、加熱(ヒート)………………カリン先生が発動する生活魔法を俺とアズキ二人で発動していく。
たまに失敗する魔法もあったが、数度試すとすべての魔法の発動に成功した。
「ちょうどお昼ですし、生活魔法は、ここまでにしましょう。主だったものは、大体やったと思います。他に見たい魔法があれば、いつでも言ってください。昼からは、身体魔法の授業とします」
こうして午前中の授業は終わった。
午後からは、身体魔法の習得という事で外に出てきていた。
部屋の中で使うような魔法では無いから。
「外に来ていただきましたが、少しだけ身体魔法の説明をします」
いきなり実演かと思って少し薄着で出てきてしまったのに講義が始まってしまった。
まぁ、風のない晴れた日なので、しばらくなら大丈夫だろう。
「身体魔法と言ってもいろいろ種類があります。大きく分類すると自分に掛ける魔法と他の人に掛ける魔法に別けられます。今日は、比較的簡単な自分に掛ける魔法を学びましょう。他の人に掛ける魔法は、難しいですので魔法学園に入ってからでも良いと思います」
他人に掛ける魔法か、バフとデバフの魔法の事だろうな。
将来的には覚えたい魔法だな。
その為には、何としても魔法学園に入らないとな。
「それでは、まず筋肉の強化からです。筋肉の周りに魔素で擬似筋肉を付けるイメージを持ってください。『足筋肉強化(フット・マッスル・ストレングス)』」
カリン先生の呪文で先生の筋肉が強化されたようだ。
見た目は何も変わらない。
しかしカリン先生が軽くジャンプすると俺の身長ぐらいに飛び上がった。
「こんな感じです。私は、身体魔法が余り得意ではないのでこれぐらいですが、上手な人だと屋根の上に飛び乗ったり出来る様になります。さあ、やってみてください」
俺も、やってみる。
筋肉を強化するイメージを魔素に命令して、『足筋肉強化(フット・マッスル・ストレングス)』を発動した。
やはり見た目は変わらない。
軽くジャンプすると屋敷の屋根ぐらいまで体が飛び上がった。はっきり言って怖い。
「ジャンプしたら凄く怖いですね。自分の体じゃ無いみたいです」
「トモマサ君、以外と怖がりなのね。練習すると慣れていきますよ」
そうです。小市民な俺は怖がりなのです。
慣れろって言われても、高い山なんかは現実感がないから怖くないけど、学校の屋上みたいに中途半端に高い所って子供の頃から怖いのだよね。
よし、ジャンプは止めて走ってみよう。
そう思って走り出したのだが、軽くオリンピック選手を超えるぐらいスピードが出た。
もっと出せそうなのだけど、上半身がついてこない。
それはそうだろう、上半身の筋肉は何の変化もしてないのだから。
「こっちも怖いです。これ、本当に慣れるのに時間がかかりそうですね」
「最初は、全身の強化したほうが良いかもしれないわね。魔素量に余裕もあるでしょうし。それで、剣術の修行の時に少しずつやると良いと思いますよ」
それは、良い案だ。次の修行から少しずつ取り入れてみよう。
俺の方針が決まったところでアズキを見てみると、建物の3階ぐらいまでジャンプしたり、馬ぐらいの速度で走ったりと物凄い身体能力を発揮していた。
「アズキ、凄いですね」
「ええ、獣人達は、普段から無意識に身体魔法を使って能力強化しているの。だから、慣れているのよ。それにしても、自由自在に使い熟しているように見えますね」
走り回っていたアズキが帰ってきた。
「はぁはぁ、身体魔法凄いですね。今までの倍は素早く動けますし、体のキレも段違いです。今なら誰にも負ける気がしません」
ツバメ師匠ですら勝てる気がしないって言っていたアズキが、さらにパワーアップしてしまったようだ。
俺も魔法で負けたくない一心でガムシャラに頑張るがやはりアズキのようにはいかない。
元の運動能力の差が大きいようだ。
仕方がない、仕方がないのだが魔法で負けたのが悔しい。
気がつくとカリン先生が、横に来て俺の肩をトントンとしている。
慰めてくれているようだ。
「獣人と身体能力で張り合っても意味がありません。トモマサ君も慣れればそれなりになりますよ」
12歳の子の能力に悔しがり、16歳の子に慰められる。
40歳を超えた俺が。
ダブルのダメージを受けた俺は、力なく項垂れるだけだった。
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