第74話2.12 復元魔法4

「ご無沙汰しております。ヤヨイ様、重大な話があるとのことでしたので、参上致しました」

「久しいな。マリ教授」

 二人は知り合いのようだ。

 何の繋がりだと疑問に思っていたらヤヨイが教えてくれた。

「マリ教授はな、遺失魔法の研究の為に、わざわざ私の話を聞きに来たのだ。それも、何度もな。優秀な魔法使いなのに魔法復活への熱心な態度に嬉しくなってな、色々と話をしたものだ。研究室に資金援助もしている」

 そうなのか? マリ教授は、そんなに優秀なのか。

 膜の復元を望むただの変人ではなかったのだな。

 俺は驚きつつも感心していた。


「ヤヨイ様、私など、まだまだ未熟な研究者ですよ。未だ、復元魔法を復活できず、トモマサ様に教えを請うている所です」

「その事だよ。復元魔法は、つい先ほど復活したぞ」

 驚くマリ教授をよそにヤヨイが経緯を説明していく。

 一通り話し終えた所で、ようやく理解が追いついてきたマリ教授が確認してきた。


「それでは、本当に復元魔法は発動したのですね。しかも、これまで使えなかったヤヨイ様の手により」

「そうだ、ある知識を得た後な。最初は爪で確認した後、足を失っていたものに魔法を掛け足が元通りになる事も確認した」

 感激したのだろうマリ教授。

 小声で、「これで、これで私の膜が」とか言ってる。

 それを聞いて俺は思った、やっぱりただの変人だなと。

 俺がドン引きしている所でヤヨイがようやく本題を切り出すようだった。


「だが、ここで、一つ問題がある」

 マリ教授もヤヨイの言葉を聞き、真剣な顔で話の続きを待っている。

「それは今のままでは、この情報が公開できないという事だよ」

 マリ教授がよく分かりませんと言った顔をしていたのを見たヤヨイが話を続ける。

「そこにいるトモマサは、公式には、帰狭者では無いという事だよ。つまり、帰狭者の助けもなしにどうやって新しい知識を得ることが出来たかを明確にしないと、一般には公開できない」

「ヤヨイ様が、思い出したとか何とかで誤魔化せないのですか?」

 俺もそれでいいんじゃ無いかと思ったのだが、数百年研究して見つからなかったものが今、出てくるのは不自然だと言われてしまった。

 ゴリ押しで行けそうなんだけど、今は、あまり目立つ事はしたく無いとの事で、この案は却下となった。

「やはりあれだな。あの方法しか無いな」

 ヤヨイが語り出したので目を向けると、また、あのニヤニヤとした悪い顔をしていた。

 その顔に俺はげんなりしながら、「あの方法ってどんな?」と聞いてみると、さらに悪い顔で教えてくれた。


「『建国の父』文書発見よ。これなら、注目度も抜群よ。国中に一気に情報が広がるから、復元魔法の復活も一気に広がるわ。困ってる人の元になるべく早く魔法を届けるのに最適な方法ね」

「それって、また俺に何か文書を書かせるつもりなのか?」

 ヤヨイが、ニヤニヤしながら肯いている。

 悪い顔だ。ヤヨイはね、本当は良い娘なんだよ。

 困ってる人に手を差し伸べる本当に優しい娘なんだよ。

 今回も良い事をしようとしているんだよ。本当だよ。

 でも何で、悪事にしか聞こえないのかな? 困ったな……。

 俺が困ってる横で、マリ教授も困っていた。


「あ、あのそんな事をして大丈夫なのでしょうか? もしバレたら大変な事になるのでは?」

「大丈夫よ。もう既に一回やってるしね。もし、バレても、父さんが『建国の父』だと言えば済む話よ。大体、父さんが正体を隠したいと言うから大変なのよ」

 バレたら命が危ないから隠せって言ったのは、ヤヨイだろう? それを、さも俺が悪いかの様に言わないで欲しいな。

 俺の不満顔に気がついたのか、ヤヨイがフォロー? を入れてくる。

「あら、冗談じゃない。正体バレたら本当に命が危ないんだから気をつけてね。でも、文書の件が明るみになったら正体バラすのは本気だけどね」

 やっぱりフォローになって無いのだが、言ったところで口では勝てない俺は、そのまま流す事にした。


 すると反論が無い事を顔を見て確認したヤヨイ。

 普通に話を続けて行った。

 まとめると俺の書いた文書が王城の図書室から見つかって、それを復元魔法を研究していたマリ教授に見せる事により、マリ教授が復元魔法の復活に成功したというシナリオらしい。

 ほとんど何もしていないマリ教授が復活の立役者になる事を少し拒んでいたが、『文書を見つけた俺が最大の立役者であるとでっち上げる』と言う説明を聞いて渋々受け入れる事にした様だ。

「それじゃ、マリ教授も復活魔法使ってみてください」

 俺の人体豆知識を聞いたマリ教授が、復元魔法を発動させる。

「『復元(レストレーション)』……爪が伸びました。成功です」

 普通に成功したらしい。これが失敗したら全てのシナリオが崩れるから、皆一安心である。

 しかしマリ教授も流石にここでは膜の復活を試みる事はなかったようだ。

 一応、空気は読めるらしい。


「それじゃ、父さん、適当にそれらしい文書作ってね。私は、仕事に戻るからよろしく」

 ヤヨイが部屋から出て行くと、メイド長が紙とペンを持ってやって来た。

 今すぐ書けということらしい。

「適当にそれらしい文書か。また、難しい事を言ってくれるな」

 俺がウンウン唸っていると、これまで、ずっと聞いているだけだったカリン先生やアズキがアドバイスをくれる。

 優しい彼女を持ったね。

 俺は嬉しいよ。

 ちなみにツバメ師匠は話の途中からルリが気持ち良いのか抱っこして寝てて、いまだ起きる気配なしだ。

 寝顔が可愛いから許すけど。

 マリ教授に至っては部屋の隅でブツブツ言っている。


「魔法は発動したと思うのですが、どうやって膜が復元したか確かめたらいいの? 彼氏を作って、でも、男はこりごりだし、でも、ずっと独り身も寂しい気がするし、将来安泰で魔素量が多くて私を騙しそうに無い男いないかしらね。そんな男なら、私の膜をまた破って欲しいのに」

 とか何とか。

 チラチラと俺を見ているのは、気のせいだろうか?

 マリ教授、やっぱり危ない人みたいだ。

 ダメですよ俺は。3人も彼女がいるんですから。

 たとえ教授が俺の秘密を知ってても、メガネ美人であったとしても、優しく苛めてもらいたいとしても……いやいや、ダメですからね。

 その日は、ずっと向けられるマリ教授の目線を何とかかわしながら、何時間もかけて文書を書き上げた。

 本当に疲れた俺、久々に誰ともナニする事もなく眠りに着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る