第31話1.31 年越し慰安旅行2

「全員揃ったようですので移動します。皆さん準備は良いですか? ……それでは、ヤヨイ様、よろしくお願いします」

 メイド長の合図で、一気に景色が変わった。

 雪の中に放り出される。

 転移魔法のようだ。

 しかし、40人も一気に移動できるのか。

 いったいどれだけの魔素量を使ったのだろう。

 気になる所だった。


「温泉宿は、こっちです。滑らないように気をつけてお越しください」

 雪の中、キノサキ荘と名の入った法被を着た人が案内してくれる。

 その後を、メイド服を着た団体がぞろぞろと歩いていく。

 5分ほどで宿に到着した。

 宿の入口では、女将らしき人や仲居さんが着物姿で出迎えてくれた。

 そこにメイド集団が入っていく。

 何とも言えないシュールな光景だ。

 ヤヨイと女将が話をしているところに呼ばれ、今年のスポンサーだと紹介された。

 ヤヨイには文句の一つも言いたかったが、女将の前ということで大人しく挨拶だけにしておいた。

 

 メイド長が部屋割りと食事スケジュールの説明を始めたところで、ヤヨイを捕まえて問い正す。

「温泉行くとか聞いてないのだけど? その上、スポンサーとかどういう事かな? 俺、金持ってないのに」

「あら、言ってなかったかしら? これだけの女の子に囲まれて嬉しいでしょ? 貴族の娘達だから容姿も良い子ばかりよ。みんな年若い子だし、好きな子選んで良いのよ? 父さんがスポンサーなのだから誰も文句言わないわよ。手出したら責任だけは取ってもらうけど」

「止めてくれよ。アズキ一人に手を焼いているのに。お前は俺に何をさせたいのだ?」

「何って、それは沢山弟か妹を作って欲しいのよ。いつも言っているでしょ?」

 また、本気なのか冗談なのかわからない事を言ってくる。

 ここはしっかり言っておこうと思ったが、部屋割り説明も終わり皆が動き出したので仕方なく俺も動く事にした。

 そこで、はたと気付いた。

 部屋聞いてないことに。

 どうしようかとキョロキョロしていたらアズキが案内してくれた。

 ちゃんと聞いていてくれたらしい。

 案内された部屋は、2階の角部屋だった。

 かなり広い、5、6人ぐらいは寝られる大きめの畳部屋だった。

「かなり広いな。ここは俺以外唯一の男であるシンゴ王子と相部屋なのかな? 二人ではかなり広いな」

「いいえ、シンゴ王子は、カーチャ王女と共に他の部屋です」

 それじゃ、ここは俺だけで泊まるのか? まさか、ヤヨイと同じ部屋なのか? まぁ、久々に親娘水入らずも良いものかもな。などと考えている所に人が入って来た。

「トモマサ(君)、よろしく(お願いします)」

 入って来たのは、カリン先生とツバメ師匠だった。

「えっと、お二人はどうしてここに?」

 おずおずと聞く俺。

「トモマサ君、聞いてなかったの? 私たちと相部屋なの。あと、アズキさんも一緒にね」

 ええー、本気ですか? と俺は頭を抱えた。

「皆さんそれで良いのですか?」

 若い女の子が、男と相部屋なんて! そしてアズキ、俺が他の女の子と同じ部屋で! と嬉しいような悲しいような複雑な感情で問いかける。

 すると。

「ああ、構わんぞ。弟子と寝食を共にする。重要な事だ」

「少し恥ずかしいですが、トモマサ君なら私も構いません」

 ツバメ師匠にカリン先生もオーケーだった。

 アズキに至っては、何か問題でも? と言わんばかりの表情を浮かべて首をかしげている。

 成長著しく美少女から小が抜けて最近すっかり大人の美女になったアズキに、俺の指摘の後、胸を隠すどころか俺にだけやたら強調してくる巨乳美少女カリン先生、そして元気ハツラツ、なにかのCMに出てもおかしくないほど行動力一杯の美幼女ツバメ師匠の3人と相部屋。

 全くヤヨイは俺に何させる気だ。

 いや、ナニさせたいのか。

 しないよ。ナニもしないからね。

 しかし、だんだんと逃げ場を塞がれている気がする。

 ヤヨイに嵌められている確実に。

 いかん、何か対策を練らないと。と考えるのだけど、部屋では女性達がはしゃいでいるので集中できない。

 俺はアズキに断りを入れて1人風呂に行く事にした。


 宿のお湯は後でで入れるだろうからと、取り敢えず外湯に行く。

 キノサキ温泉と言えば、外湯めぐりが有名だ。

 31世紀ではどうなっているかと少し心配したが、変わらず残っていた。

 宿から貰った手形を見せて手近な外湯に入る。30人は入れそうな大きな風呂だった。

 年末なだけ有ってか人が多い。空いている洗い場を見つけて体を洗う。

 そして湯船につかると、さっきまでの悩みなど忘れて寛いでしまう俺。


 そして聞こえてくる周りの人の話は、湯治客の爺さんが、腰が痛いだの膝が痛いだの体の具合を言い合ったり、漁師が今日の成果を自慢したりと、遠い昔、21世紀と変わらず日常を感じさせるものだった。

「魔法がある31世紀になっても人々の暮らしは、変わらないのだな。……なんだか安心した」

 ぽつりとつぶやいく俺の声。

 だがその声は誰に聞かれるわけでなく、雑多な音の中に消えていった。

 1000年も経ってしまった世界で生きて行けるだろうか? ずっと心の隅にあった引っ掛かりが湯に溶けていく気がした。

 どれほどそうしていただろうか人々の話に満足した俺は、心軽く宿に戻っていった。

 相部屋の件などすっかり忘れて……。

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