第30話1.30 年越し慰安旅行
年の最後の日、大晦日。
メイド達による大掃除も終わり屋敷のエントランスに大集合していた。
もちろん俺も日頃の感謝を込めて掃除の手伝いをした。大変恐縮されたけど。
「掃除が終わったようね。今年もお疲れ様」
「はい、すべて予定通りに終了しております」
ヤヨイの問いにメイド長が答える。
メイド長とはあまり話した事は無いが、眼鏡をかけた厳しそうな人だった。
「ありがとう、メイド長。それじゃ、帰る人は、お餅持って帰ってね。良いお年を。新年は、3日からよろしくね。参加者は準備して再集合で。1時間後ぐらいで大丈夫かしら?」
「ヤヨイ様。ありがとうございます。それでは、皆さんそれぞれ行動してください。参加者は時間厳守でお願いします。それでは、良いお年を。解散」
メイド長の言葉で、その場にいたメイド達が一斉に動き出した。
2日前についた餅を持って帰る者、慌ただしく部屋に向かう者、ヤヨイやメイド長に挨拶に行く者、大騒ぎである。
「この後いったい何があるのだ?」
俺は後ろで動かないアズキに聞いてみた。
「この後、希望者はキノサキの街の温泉に向かいます。例年、温泉宿を貸し切って大忘年会から年越し、初詣と屋敷のメイド達最大のイベントが行われます。トモマサ様の準備は完了しておりますので、集合時間までは、ご自由にお過ごしください」
「俺、全然聞いてないのだけど、そんなメイド等のイベントに参加して良いのか?」
「今年は、トモマサ様の主催で行われると聞いておりますが、ご存知なかったのですか?」
アズキが驚いている。
俺も驚いている。
主催って何させる気だ。
ヤヨイの奴め、いったい何を企んでいるんだ。
ヤヨイに問いただそうと歩き出したところで呼び止められた。
「トモマサ君、今日はお招きありがとう。厚かましいかと思って少し迷ったけど、キノサキの温泉なんて滅多に行けない所に連れてってくれるそうななので思い切って来ました。よろしくね」
「おー、トモマサ。お招きありがとう。年越しで修行がしたいなんて気合いが入っているじゃ無いか。泊まりでビッシリ鍛えてやるから楽しみにしてな」
カリン先生にツバメ師匠だった。しかし、温泉につられて来たカリン先生はともかく、ツバメ師匠、温泉行って修行する気は無いですよ。これは、言っておかないと大変な事になりそうだ。
「カリン先生、すべてヤヨイ様が手配してくださいました。俺に花を持たせるために俺からと誘ったのだと思います。ですので、お礼はヤヨイ様にお願いします」
まずはカリン先生に正直に言っておく。
嘘ついても良いこと無いからね。
俺の話を聞いたカリン先生、早速ヤヨイの元に礼を言いに行った。
よしよし、次はツバメ師匠だ。クソ寒い中、修行なんてしたく無い。
何とか説得しなければ。
「ツバメ師匠、ヤヨイ様に何と言って誘われたかは知りませんが、今回の温泉はメイド等の慰安旅行ですので、抜け出して修行は難しいかと思います。師匠も、温泉に浸かってゆっくりされては如何ですか?」
恐る恐る聞く俺にツバメ師匠、ニカっと歯を見せ笑顔になった。
「そうか、いやいや、私もわざわざ修行がしたいわけじゃ無いのだ。弟子が、どうしてもと言うから付き合おうと思っただけだ。トモマサが、ゆっくりすると言うなら、私もそうさせて貰おう。あそこの温泉と蟹は最高だからな」
意外とすんなり説得に成功した俺は、気になる言葉が出てきたので聞いてみた。
「ツバメ師匠は、キノサキの温泉に行った事があるのですね。蟹が有名なのですか?」
「ああ、私の出身地は、オオエヤマの街でな。修行の際に何度かキノサキの街に行っておる。そこで食べた蟹は絶品であった。今回も食べたいものだ。楽しみにしておるぞ、トモマサ」
そうか、日本海の蟹は、31世紀でも絶品なのか。
温泉宿の夕食に出るだろうか? 楽しみだ。
出ない時は調達に行かないとな。ツバメ師匠の為にも。
どうやって食べよう? やっぱり、ゆでガニ? いや、カニ刺しも焼きガニも、やはり、カニすきか? どれも美味そうだ。
想像しただけで涎が出そうになる。
「トモマサ君、ヨダレが出ているよ?」
突然、横から声をかけられたシンゴ王子だった。
隣にカーチャ王女もいる。
蟹(妄想)に熱中していて気づかなかった。そして、涎は出ていたみたいだ。
「今回はお誘いありがとう。お言葉に甘えて、妹と二人参加させてもらうよ」
「いや、それは良いのだけど、年末年始って忙しくないの? 公式行事とかで?」
この二人にも声を掛けていたのか、思わず、普通に知っているふりしてしまったでは無いか。
しかし、王族ともなれば、各貴族から年始の挨拶で大忙しなのでは? と思ったのだが、問題無いのだろうか?
「僕は、第5王子だしね。いてもいなくても問題無しさ。妹も同じだよ。それに、トモマサ君からの誘いだと父様に言ったら、絶対に参加しろ! 断るなんてあり得ない! 出来るならば自分が行きたいとかなり言われてね。お陰ですんなり参加できましたよ」
後半小声で教えてくれた。
王様、俺はそんなに偉い人では無いのですよ。
何とか誤解を解きたいところなのだが、悩ましいな。
今後の課題だな、などと考えているとカーチャ王女も挨拶してきた。
相変わらずゴージャスな衣装を見事に着こなしている。
ひとしきり雑談したところで、時間になったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます