第42話1.42 アズキの過去2
私が大人しく待つことにすると、婆やが周りを見回しながら教えてくれました。
街からは馬車で逃げ出したようです。
街道を伝ってイチジマの街を目指したのですが、途中で盗賊に襲われて馬車を棄てて逃げ出したとのことです。
今は護衛の人達が来るのを待っているのだとか。
「どれぐらい待っているのですか?」
「そろそろ、1時間ぐらいかと。とにかくお待ちください」
……さらに1時間ほど待ちましたが誰も戻ってきません。
婆やは、ただひたすらに辺りを見回しています。
さらに1時間ほど経ったところで婆やが言い出しました。
「お嬢様、私は様子を見てきます。ここでお待ちください」
「ダメよ。婆や、危ないわ」
婆やの言葉に私は懸命に止めます。
言葉では婆やの心配をしていますが、本当は私が1人残されるのが嫌だったのだと思います。
2人で言い合います。
声が大きくなっていたのでしょう。
近く人影に気付きませんでした。
「見〜つけた♪」
低い男の声が聞こえました。
顔を向けると、そこには短刀(ドス)を片手に血塗れの革鎧を着た男が3人立っていました。
「弱い奴らが足止めするお陰で逃げられたかと思っていたよ。ちゃんと待っていてくれたのね。お嬢様」
見るからに下衆な笑みを浮かべてリーダーらしき男が何か話しています。
「騎士達を、どうしたのです!」
婆やが、いつもと違う怖い声を出します。
「婆さん、そう睨むなよ。あいつらなら仲良く眠っているよ。首をちょん切られてね。げヘヘッへへ」
「お嬢様お逃げください! 私が彼等を引き止めます」
「婆や、無理よ。婆やを置いて逃げられないわ」
私は必死に婆やの腕にしがみつきます。
「良い子だねぇ。アズキお嬢様。わざわざ俺たちに捕まってくれるなんて」
そう言いながら男達は、私達を取り囲むように動いていきます。
「私達をどうするつもりなの?」
私はリーダーらしき男に問いかけます。
「どうもしないよ。ただ、ある貴族様が、あんたを高く買ってくれるそうで探していたんだよ。お嬢様」
「そんな事は、させません」
黙って立っていた婆やが、私の手を振りほどいて横の男に飛び掛かります。
手には、いつの間にかクナイを持っています。
ニヤニヤ笑いながら立っていた男は、突然のことに驚いて回避しようとしたようでしたが、首から血を吹き出しながら倒れていきました。
婆やは、そのまま振り返りざまに手のクナイを投げます。
投げた方を見るともう1人の男の右目にクナイが刺さり倒れていきます。
私が呆気にとられていると、
「グォ!」
後ろで婆やの悲鳴が聞こえました。
振り向くと、婆やの腹に短刀(ドス)を突き立てた男が立っていました。
「婆や!」
「お嬢様、お、お逃げください」
私は怖くなり全力で駆け出しました。方向も考えず。
どれぐらい走ったでしょうか? 5分? 30分? 分かりません。
気がつくと森を抜けて街道に出ていました。
全力で走ったせいで息が上がってこれ以上走れません。
けど止まるわけにはいきません。
後ろからあの男が追いかけてくるかもしれないと思うと怖くてたまらないからです。
ヨロヨロと街道を歩いていると、前から馬に乗った一団がやって着ました。
先頭の1人が私を見つけると馬を降りて近寄って来ます。
「嫌、来ないで。いやーーーー!」
私は盗賊の仲間ではないかと怖くて逃げ出したくなりましたが足が動きません。
そのまま蹲ってしまいました。
「おい、大丈夫か? こんな所に子供1人でどうした?」
蹲る私に近寄る人の後ろから声がします。
「アズキ? アズキではないか」
何処かで聞いたことのある声です。
私の名前を呼んでいます。
私が顔を上げると、そこにはヤヨイ様が立っておられました。
「ヤヨイ様、た、助けて下さい。婆やが、婆やが」
「アズキ、落ち着け。婆やは何処だ案内しろ」
私の願いを聞いたヤヨイ様が促すと近付いていた人が私を抱き上げました。
私が驚いて顔を上げると、その人は優しい声で「大丈夫。案内できるか?」と聞いてきました。
抱き上げてくれたのは、見たことの無い女騎士様でした。
私は、そのまま森を指差し、皆を先導します。
森の中には馬が入れないとのことで歩いていきます。
私は女騎士様に抱き上げられたままでしたが。
婆やは、すぐに見つかりました。
子供が全力で走れる距離です。
大人の足だとすぐなのでしょう。
ヤヨイ様の探索系魔法のおかげでもあるようです。
木にもたれ掛かって座り込んでいる婆やに呼び掛けます。
「婆や!」
私が、騎士様から飛び降りて駆け寄ると婆やは、真っ青な顔で今にも呼吸が止まりそうです。
「お嬢様、無事でございますか? 私はもうダメのようです。お嬢様、気を強く持って生きてください」
死にそうな声で語りかけます。
「『回復(ヒール)』」
そこにヤヨイ様が、回復魔法をかけてくれます。
「全く、クイナともあろうものが、その程度で死ぬはずがないだろう? お前には、まだまだやって貰わないといけないことがあるのだがな」
「や、ヤヨイ様。……ははは、この死にかけの老いぼれにまだ仕事をさせようとするのですか。困ったものですな。しかし、助けていただいた、借りを返さないといけないのも確か。無事に治りましたら、手伝わせていただきますよ」
さっきまで本当に死にかけていた婆やですが、回復魔法で傷は完全に塞がっているようです。
失った血は戻らないので顔色は元に戻りませんが。
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