第119話3.16 ドラゴン装備3

 話を終えた俺は、早速、転移魔法でイクノの町に飛んだ。

 もちろん転移場所は、前回訪れた時に決めていたシンカイさん工房の裏庭だ。

 転移した俺たちが裏口から店に入ると、シンカイさんは無心で槌を振っているところだった。


 邪魔をしては悪いと黙って見ていたのだが、気付かれていたようだ。

「坊主。すぐ終わるから、ちっと待ってくれ」

 俺たちを一瞥した後それだけ言って、作業に打ち込むシンカイさん。

 俺たちは、ただ黙って見ていた。

 ただの鉄塊が、どんどん形作られていく。

 刀を打っているようだ。


 10分ほどで作業を終えたシンカイさんが出来立ての刀を持ってやって来た。

「凄いです。刀打ちってもっと時間がかかると思ってましたけど、ずいぶん早いんですね」

「ああ? 魔法を使っているからな。こんなもんだ。槌も魔道具だしな。それより、貰ったドラゴンの鱗を触媒にして刀を打っていたんだ。中々の出来だぞ。あのちっちゃい剣士に良いと思ってな」


 作っていたのは、ツバメ師匠の刀のようだ。

 ドラゴンの体を切るのに苦労してたから、新しい刀は攻撃力アップに繋がっていいんじゃないかと思う。


「ああ、もちろん、頼まれていた鎧と道着も出来てるぞ。こっちに来て確かめてくれ」

「え、もう出来てるんですか?」

「予定より早いので驚いてるのか? まぁ、気分が乗った時は、早いぞ。はた織りの方も滅多にない素材に張り切って作業したようだし。持ってきた時は、ゾンビみたいな顔で笑ってたぞ」


 ドラゴン素材、よほど加工が楽しいようだ。

 俺も新しい物好きだから分からなくはないが。

 

 表の店舗の方で鎧と道着を受け取り、アズキとシンゴ王子がそれぞれ試着室に入って行った。

 まず出てきたのは、アズキだ。

 来ている道着、形は以前の物と変わりは無いようだが、色が、燃えるような赤だった。

「サイズはピッタリです。着心地も良好です」

 型稽古のようなものをしながらアズキが教えてくれる。


 続いてシンゴ王子が出てきた。

 こちらは、落ち着いた赤の鎧だった。

 以前の黒も威圧感が凄かったが、この赤はさらに凄い。

 戦国時代の赤揃えを連想させる姿だ。


「この鎧、以前のものより軽くなってますね。動き易くていいです」

「鎧も道着も、防御力は格段に上がっている。ただ、火属性ドラゴンの素材を使ってるので、火には強いが、寒さには少し弱いと思ってくれ。まぁ、余程寒い所に行かなければ問題は無いがな」

「分かりました。ありがとうございます。存分に使わせて貰います。それで、他には何を作っておられますか?」

「おお、そうだった。道着の生地が余ったので、ローブとシャツを作っておいた。シャツは、坊主が、ローブは、魔法使いの嬢ちゃんが使うかと思ってな。後は、さっきのちっちゃい剣士用の刀ぐらいだな。刀は、あと拵えであと数日かかるがな。他に何か要望があれば聞いておくが、どうだ?」


 少ない時間で色々作ってくれたようだ。

 これで、心置きなくアリマの町へ向える。

 未だ、何をさせられるか分からないけど、戦いがないことは無いだろうし。


「他は、もう少し、魔法使いの防具と杖が欲しいですね。後は、弓があれば嬉しいですね」

「そうか、杖か。それなら、ドラゴンの素材では無いが、いいものがあるぞ」


 一度裏に戻ったシンカイさんが、大きな宝石のついた指輪を指輪を持って来た。


「こいつはな、魔水晶の指輪だ。魔法の制御を少し良くするだけの杖とは違って、魔法の威力を増加させることが出来る代物だ。この大きさの物はレア物だぞ」

「え、そんなレア物良いんですか? 他にも欲しい人が沢山いるのでは?」

「いや、それが、そうでも無いんだ。こいつは、使い手を選ぶからな」


 魔水晶、魔素の極端に濃い場所で生成される魔素の結晶を加工した物の事である。

 加工前の物は魔結晶と呼び、魔物の領域の奥地で発見される極めて珍しい物だそうだ。

 この魔結晶、魔素を抜き取る事ができ、以前はただの魔素補充用の消耗品として扱われていたらしい。

 だがある時、この魔結晶に魔素を補充する事が可能となる加工方法が発見された。

 それ以降は、魔結晶いや魔水晶の評価が一変した。


 ――魔素を蓄えられることだった。


 魔法を多用する兵士や傭兵達からの需要が一気に伸びたのだ。

 それでも希少性から指揮官クラスの兵士か高ランクの傭兵しか持つことは叶わなかったが。


「ただ、1つ問題があってなこのサイズの魔水晶になるとな、補充出来るだけの魔素量を持った魔法使いがいないんだ。昔、爺様が代金の代わりに受け取ったらしいんだが、ずっと引き取り手が無くてな、倉庫の肥やしになってたんだ。ドラゴンを倒すほどの魔法使いの坊主なら使えるんじゃ無いかと思ってな。どうだ?」


 シンカイさんが渡してきた指輪を受け取って、俺は魔素を込めてみる。

 すると、薄く光り出した。


「どうやら、使えるようですね。いただきます。おいくらですか?」

「そうか、使えるのか。やっぱり並みの魔法使いでは無さそうだな。代金は、白金貨1枚ぐらいだな。また、幾つか素材で貰えると嬉しいのだが」


 余りに安い気がしたので聞いてみると、

「倉庫の肥やしになるより使ってもらたほうが良いんだ」

 と言っていたので多めにドラゴン素材を渡しておいた。


 その後、貰う物も貰った俺たちは、ヨカワの町に転移魔法で移動した。


「トモマサ君、お帰りなさい。装備は、整いましたか?」

「ただいま、カリン先生。シンカイさんが、張り切ってくれたようで色々出来てましたよ。カリン先生にも渡せるものがありますよ」


 戻ってきた宿屋の部屋には、ヨカワの町に残った3人が待っていた。


「ところで、アリマの町に付いて何か情報はありましたか?」

「傭兵ギルドに聞き込みに行ったんですが、残念ながら新しい情報はありませんでした。ただ町中で、何人かアリマの町から逃げてきた人と話が出来たのですが、現地は昼夜の襲撃で怪我人続出の上、商人が寄り付かないらしく物資出来ない状態との事でした」

「そうですか。それなら、移動前に物資の買い足しをしておいたほうが良さそうですね。まだ、店は開いてますかね?」


 他にもカリン先生の話を聞きながら、直ぐに物資の買い足しの為に宿を出た。

 外は少し薄暗くなって来ていたが、商店はまだ開いているようだった。

 米に味噌に塩にと買って行く。魔物が沢山いるということは、肉には困ってないだろうと思って、調味料と穀物を中心に買って行く。

 アリマの町に売りに行くつもりが行けなくなった商人も多く、それぞれトン単位で買うことが出来た。


「トモマサ君、アイテムボックスの容量は大丈夫なのですか?」

「ええっと、今で2割ぐらいですかね。まだまだ、入るみたいですよ」


 魔素量に比例して容量が変わるアイテムボックス。

 俺の桁違いの魔素量だと、ドラゴンや食料数トンぐらいでは全く問題無かった。

 聞いたカリン先生も少し呆れているようだったが、ここまで魔素量が増えた原因の一つはカリン先生にもあると思うのだけどなぁ、と思いながら宿に帰った。

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