第171話4.34 イクノの街、再び2

 走り去った女性店員を待つ事、数分。奥から聞いた事のある声が聞こえて来た。

「だから言っただろう! アシダ トモマサと名乗る人が来たら直ぐに教えろと!」

「す、すみません〜」

 女性店員、シンカイさんに叱られているようだ。

 声が少々涙声だ。

 そして、現れたシンカイさんには、俺が謝られた。


「いやー、すまん。サトミ……ってのはこの店員だがな、こいつには言っておいたんだけどな。アシダ トモマサって人が来たら必ず知らせろとな」

「えっと、まぁ、それは構わないのですが、何であんな客を追い返すような対応をしていたのですか?」

 前来た時は、あんな対応では無かった。

 確かに親切丁寧な対応でも無かったけど、追い返すような事は無かったはずだ。

「ああ、それがな。坊主から貰ったドラゴン素材で作った装備を幾つか知り合いに売ったんだよ。いや、中々良い刀とか鎧とかが出来てな、自慢してたらどうしても欲しいって言われてな。金も良かったから売ったんだよ。そしたらどうも、その知り合いが周りに自慢したそうなんだ。まぁ、それは良いんだ。本当に良い出来だったから。だけどな、その後が悪かった。その噂を聞いた関東の貴族が俺にも売れと言って来たんだ。それも、やっすい値段で。挙句に、亜人の作った物に金を出すんだありがたく思え。何てことまで言われてな。そりゃあもう大喧嘩して追い返してやった。そしたら、その報復なのか、タチの悪いのがウロウロし出して、客を脅すわ店を壊すわでテンヤワンヤになってな。それから、ドラゴン装備を欲しがる奴は追い返すことにしたんだ」

 バツが悪そうに話をするシンカイさん。

 でも、まぁ、シンカイさんは悪くないよな。

 悪いとすれば、このサトミさんかな? ちょっと嫌みでも言っておかないと気が済まない。


「なるほど、分かりました。それにしても、サトミさんでしたっけ? 見事な啖呵でしたね。もう少しで帰ろうかと思いましたよ。あれは、誰かに教えて貰ったんですか?」

 俺が、「あれは、言い過ぎだろう?」ってニュアンスで言ってやる。

 するとサトミさん、

「いや〜、自分で考えましたよ〜。そんなに褒められると嬉しいです〜」

 だって。

 その瞬間、シンカイさんに頭叩かれていた。

「重ね重ねすまん。こやつは、俺の噂を聞いて弟子希望で押しかけて来たんだが、何せ、この調子だ。俺も扱いに困ってるんだ」

 そう言って、頭を下げるシンカイさん。

 サトミさんもシンカイさんに頭を掴まれて下げさせられていた。

 その何とも言えない光景に俺達は、ただ、苦笑を浮かべていた。


「それで、今日は何が欲しいんだ?」

 しばらく頭を下げていたシンカイさん達だったが、俺が「もう良いですよ」と言うとようやく頭を上げてくれた。

 今は、奥に通されてお茶をしているところだ。もちろん、サトミさんは店番だけど。

「今日は、こちらの4人の装備を整えたくて伺いました。何か見繕ってください」

 俺は、今日連れて来ていたコハク、ミツヨリお義父さん、ミツナガさん、ツグミツさんを紹介する。

 ちなみに、コハク以外には普段の装備をつけて貰っている。

 その方が話が早いかと思って。


「なるほど。こっちの男性3人は、分かった。武器は大太刀、小太刀に魔法の杖だな。防具は、その武者鎧は良いものだ。今直ぐそれ以上のものは出ないな。インナーにドラゴンの鱗を練り込んだ奴があるから、それでどうだ? 後、小太刀の兄さんの軽鎧は、ドラゴンの革鎧があるし、ローブは、ドラゴンの髭ローブがあるからそれで行こう。んで、問題は、こっちの白髪の姉さんだ。また、えらい美人だな。坊主が羨ましい……って下世話な話は置いといて、姉さん得手は何だ? 魔法か? それとも弓か?」

 ポンポンと装備を持ってくる、シンカイさん。

 良かった。

 まだ、ドラゴン装備は残っていたようだ。

 さっき売ったって聞いたから心配してたんだ。

 そして、最後に残ったのはやっぱりコハクだった。

 俺は、コハクの特徴を告げていく。

 特に武器を使った事はない。

 また、魔法も使えない。

 後、実はとても力が強い。

 まぁ、白龍なんだから当然と言えば当然なのだが。

 何て、言ったあたりでシンカイさん、首を傾げながら奥に武器を探しに行った。

 そして、持って来たのは、大斧、鎚矛、青龍偃月刀みたいな物まである。

 その中でコハクが選んだのは、鎚矛だった。


「これー、振りやすいー」

 なんて事を言いながら、片手で振り回していた。

 恐ろしい力だ。

 シンカイさんもヨリミツお義父さん達も唖然とするほどの。


「それじゃ、次は防具だな」

 あんぐりと口を開けていたシンカイさんだったが、俺の声に反応したようだ。

 鎚矛に合った防具を持って出て来た。


「すまんな。姉さんの体格だと、重鎧は無いんだ。そっちの小太刀の兄さんと同じ軽鎧か、鱗を練り込んだ繊維で作った服かだな」

「それならー、服ー」

 防御力を取るか、動きやすさを取るかの2択だったが、コハクは即決だった。

「分かった。これで決まりだ。それなら、其々試着してみてくれ。調整するから。後、坊主の防具も作ったんだ。あの王子様に頼まれてな。ちょっと魔法使い寄りの軽々鎧ってところかな。試してみてくれ」

 そう言って、俺の分も持ってくるシンカイさん。

 頼んでいないのにありがたい事だ。

 確かに俺って、彼女達とか人の装備は揃えたけど自分の事は放ったらかしだったな。

 これは、シンゴ王子に感謝だ。

 本人に伝えたら、カーチャ王女に返してくれって言われるから黙っておくけど。


 そうして皆の試着と調整を終えた後、俺達はスワの町へと戻った。

 ちなみに、シンカイさんに「金額は?」って聞いたら、満面の笑みを浮かべて「(ドラゴン)素材で」って言われた。

 まぁ、全然減ってないから良いんだけどね。


「なぁ、コハク。お前、白龍になったら服破れるのか?」

 スワの町に帰った俺達だったが、アズキ達狩組がまだ戻ってなくて暇だったので、前から気になってた事をコハクに聞いてみた。

「いや、さっき買った防具も破れるのかと心配になってな」

「大丈夫ー。破れないー。龍型はー、龍人族の力でー具現化したー物ー。人型のー周りにー形成されるー」

 その後も、いつもの間延びした口調で細かく説明してくれる、コハク。いや、もう良いよ。最初の言葉だけで分かったから、と思うのだが終わらない。

 結局1時間ぐらい聞いてしまった。

 大変長い説明だったが、極めて簡単に言うと、進撃の○人と同じ感じらしい。

 結局、その一言なのだが、まぁ、これは現代31世紀では通じないネタだ。仕方がない。


 何だか、精神的に疲れた時間だった。

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