第158話4.21 打ち合わせ
「ヤヨイ、さ、ま?」
俺達が応接室へと通されてからしばらくして、部屋へと入って来た王様が戸惑っていた。
若返ったとは連絡がきていたようだが、まさか、フリフリの服を着て来るとは思わなかったのだろう。
「笑いたければ、笑うが良い。シンタロウよ」
「笑うなどととんでもない。とてもよくお似合いです。ヤヨイ様!」
これまでは、『シンちゃん』と呼ばれていたのに、突然の『シンタロウ』呼ばわりに緊張した王様であったが、言いたい事は言えたようだ。
一方、言われた方のヤヨイも、少しホッとしているようだった。
本当に笑われたらと思うと気が気では無かったのではないだろうか。
「ふ、シンちゃんも成長したわね。女の扱いが上手くなったじゃないの」
どうやらヤヨイは王様の言葉に大満足のようだ。
実は、かなりチョロいのではないだろうか?
「それで、今日はどう言った御用件でございましょう?」
「うむ、狭間教の件といえば分かるかな。アリマの街から報告が上がっているだろう? 事件の内容と今後の方針のすり合わせを父さんを交えてしたくてな」
それを聞いていた国王補佐の爺さん、即座に動き出していた。
資料などを集めに行ったのだろう。
流石、王様直属の部下であり優秀なようだ。影は薄いけど。
資料が揃うまでに俺は、まず王様にコハクを紹介した。
「私ー、龍人族のーコハクー」
「私が、丹波連合王国国王のアシダ シンタロウです。以後お見知りおきください」
コハクの適当な挨拶に、丁寧に返す王様。
どうやらアリマの街からの報告書で、コハクの事の概要は聞いていたようだ。
その後も王様にコハクから聞いた龍人族の生態や歴史なんかを説明する。
こちらは、報告書にはあまり書かれてなかったようで、熱心に質問してきた。
そんな話をしていうちに、報告書を持ってシンゴ王子がやって来た。
部屋に入って来て、報告書を王様に持って行くシンゴ王子、途中でヤヨイの前で突然跪いてドキッとする笑顔で語り出した。
「おお、ヤヨイ様。なんと美しいお嬢様になられまして、このシンゴ、一瞬にしてヤヨイ様の虜です」
シンゴ王子の言に、真っ赤になるヤヨイ。
あうあう言っている。
その後、何事もなかったかのように王様の元に資料をしに行くシンゴ王子。
恐ろしいほどのイケメンである。
王様ですら呆然としている。
もちろん、俺も言葉も出ない。
「父様、どうされましたか? 資料です」
呆然としている王様に資料を受け取るよう促すシンゴ王子に、王様はようやく再起動したようだ。
「あ、ああ」
と返事ともいえない声で受け取っていた。
そして話が再開される。
ちなみにシンゴ王子はちゃっかりと空いている席に座っていた。
ヤヨイの目の前に。
そしてヤヨイと目が会う度に微笑んでいる。
なんだろう。さっきの言葉は本気なんだろうか? 傍目にはお似合いなのだが……1人心をモヤモヤさせる俺であった。
アリマの街からの報告書について、王様補佐の爺さんが説明する。
コウベの領域での話は、俺達の方が詳しいので主に捕らえた男の尋問結果についてだが。
「結局、あの男、ただの捨て駒だったのか」
「はい、トモマサ様。あの男から聞いた事を色々手を尽くして調べたのですが、ほとんどが行き詰まりあいつらのバックにいる組織については何もわかりませんでした」
「その言い方だと、何か分かったのか?」
「はい、あの男の話では、あいつに魔物のテイムを教えた教師役の男がいるそうなのですが、その男が、かつてスワの町に魔物をけしかけたと言っていたそうなのです」
「それ、どういう事ですか!」
その話を聞いて驚いたのは、カリン先生だ。身を乗り出して聞いている。
「カリン様、落ち着いてください。まだ、確実な情報では有りません。ですがスワの町の魔物の氾濫は、狭間教の、いや関東勢力の陰謀だった可能性が出て来ました。我々は、今、その教師役の男を全力で追ってます。ですので、今しばらくお待ちください」
「それなら、それなら、カンラの街のオバタ ノブサダ伯爵を調べて貰えませんか?」
カリン先生の脈略の分からない要請に皆が首を傾げているところで、ヤヨイが聞き返す。
「カリン先生、どうして、カンラの街のオバタ ノブサダ伯爵なの? 確かにあそこも関東の上流貴族だけど、表立っては狭間教に傾倒はしていなかったと記憶しているのだけど?」
ヤヨイの言にカリン先生の顔が赤くなって行く。
余の脈略の無さに恥ずかしくなたようだ。
それでも、少しづつ話をして行く。
どうして、幼くしてイチジマの魔法学園に来たのか、その裏には、何があったのかを。
カリン先生の話聞き終えたヤヨイは、納得がいったようだ。
王様に指示を出す。
「なるほど、カリン先生を囲い込み損ねた腹いせね。有り得るわ。それなら、カンラの街を優先で調べてみて。特に領主付きの魔法使いを」
「は!」
返事をし、頭を下げる王様。
補佐の爺さんも即座に部下に指示を飛ばすと外に控えていた人達が一気に動き出したようだった。
「カリン先生にそんな過去があったなんて知りませんでした」
「ごめんなさい。トモマサ君。別に隠していた訳ではないのですが、特に話す機会もありませんでしたので」
「あ、いえ、責めている訳ではないのですよ」
申し訳なさそうに答えるカリン先生に、俺は、慌てて否定する。
それを見たカリン先生、ホッとした顔をしていた。
その顔を見ながら俺は考える。
そう言えばカリン先生の過去ってあまり知らないなと。
故郷の街が魔物に飲まれてたと言うのに……今晩にでも詳しく聞くかな。
後、一応、何か問題を抱えて無いかツバメ師匠にも聞こう。
マリ教授は、あれだな、昔男に騙されたってぐらいだろうから良いかな。
両親もイチジマの街で治療院してるみたいだし、暗い話は無さそうだから。
俺が1人で、そんな事を考えている間にも話は進んだようで、俺達が、ノリクラ岳に行く話になっていた。
「今回は、僕達も連れてってくれよ」
シンゴ王子がお願いしてくる。
エルフの里に連れて行かなかったのでちょっと拗ねてるのかもしれない。
「もちろん。ヤヨイの時は、緊急だったんだよ。こやつの我儘のせいでね」
ヤヨイを指差しながら文句を言うと、シンゴ王子も苦笑していた。
ヤヨイを引き合いに出されては、文句も言えないのだろう。
「さて、話は終わりだ。さっさと、オクヒダの街へ行くわよ。温泉が待ってるんだから」
ヤヨイの宣言に、王様が驚いている。
「や、ヤヨイ様も行かれるのですか? 病み上がりなのですから、大人しくした方が宜しいかと」
「大人しくする為に、オクヒダ温泉に行くのよ。湯治よ、と・う・じ」
分かったような、分からないような理論をかざすヤヨイに王様も困り顔だ。
「王様、心配いりませんよ。ヤヨイは、一泊したらイチジマに返しますから、絶対にノリクラ岳への同行を許したりしませんから」
見かねた俺が王様を諭すと、少し安心したのだろう肯いてくれた。
「と言う訳だ、必ず一泊したらイチジマに帰るんだぞ。そのまま、違う所に転移したりしたらダメだからな」
ヤヨイにも忘れず釘を刺しておく。
「わ、分かってるわよ」
何度も言われて、鬱陶しいのか返事がぎこちない。
だが、あの感じだと帰るだろう。
なんとなく分かる。
若返った影響か、仕草が21世紀の頃と同じになったから。
「あ、最後にヤヨイ様、ご自身の肩書きを如何されますか?」
もう終わりだと思ったところに、王様から出された質問に俺は首を傾げた。
「何のことだ?」
「いえ、若返りの魔法など知れ渡ったら大変な事になると思われますので、年老いたヤヨイ様には表舞台から下がっていただいた事にしようと思うのです。これまでも、エルフの里に籠られている間は、そのようにしておりましたから。そこで問題なのが、若いヤヨイ様なのです。体が元気になられたのなら色々動き回りそうですし、新しい肩書きが必要かと」
そこまで言われて俺は、やっと質問の意味を理解した。
そしたら、その直後にヤヨイは俺に振ってきた。
「そうね。案は、2つ。父さんの義妹になるか、義娘になるかね。どっちが良い?」
「突然だな、メリット、デメリットが分からないからあれだけど、やっぱり娘かなぁ。本来の関係だし」
「まぁ、そうよね。それでは、義娘でよろしく。シンちゃん」
こうして、ヤヨイは、再び俺の娘になった。
いや、ずっと娘だったんだけどね。
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