第157話4.20 フリフリ
「いい、家族だな」
「ありがとうございます」
俺達は、朝食の後、家を出て、タカモリ里長の元に向かって歩いていた。
イチジマに帰る前にもう一度お礼を言うためだ。歩きながら話をする。
「俺も、また、あんな家族を作りたいよ。……アズキも協力してくれるかい」
「もちろんです」
花が咲いたような笑顔で答えてくれるアズキ。
家族を褒められて嬉しかったのと、かなり心の整理も進んだのもあっていつもより上機嫌な気がする。
そのまま、タカモリ里長の家に行くと、そこには、ヤヨイが来ていた。
「あれ、どうしたんだ、ヤヨイ。何か忘れ物か?」
俺の問いに、苦笑を浮かべるヤヨイ。
「はぁ、逃げて来たのよ。メイド長からね」
訝しげな顔を向ける俺に、ヤヨイは教えてくれた。
「メイド長がね、若返った私を見て喜びすぎて何か壊れたみたい。恐らく亡くした子供と合わせてるのだと思うけど、やたら過保護になってね。いつの間に用意したのか、朝からフリル満載の衣装を押し付けて来たのよ。しかも、何着も。だから私は、着せ替え人形じゃない! って言って逃げてきたの」
「ぶぁ、ふぁあああ、はははっはははっはーーー!」
ヤヨイの言葉を聞いて俺は、大笑いしてしまった。
アズキもクスクス笑っている。
2人のやりとりを想像したのだろう。
「笑い事じゃないのよ。いつもは、クールなメイド長にあんな趣味があるとは、驚いたわ」
「まぁ、許してやれよ。お前が帰って来ないって言って物凄く心配してたんだから。元気になって、しかも子供になって帰って来たら、それは嬉しいんだろう。良いじゃないか、ちょっとフリフリの服ぐらい着たって」
俺の言葉に頬を膨らますヤヨイ。
「はは、その顔、思い出すなぁ、子供の頃のヤヨイを。よく、睦月に叱られてそんな顔してたっけなぁ。エルフになってもその辺は変わらないんだな」
「当たり前じゃない!」
そう言って、益々頬を膨らますヤヨイ。
それを見て、笑みを浮かべるアズキ。
ここにも一つ家族があった。
俺は、そう思った。
「それじゃ、タカモリさんにも挨拶したし、イチジマに帰るか。メイド長には、俺から控えるように言ってやるから、ヤヨイもな」
渋々頷くヤヨイ。
そして一気に魔法で転移した。
ヤヨイの屋敷前に転移した俺たち。
そこに一つの影が迫ってきた。
言わずと知れた、メイド長だった。
「ヤヨイ様!」
抱きつかんばかりのメイド長。だが、俺の姿が、目に入ったのだろう直前で立ち止まった。
「ただいま。メイド長」
「おかえりなさいませ」
俺にメイドとしての挨拶をするメイド長。
醜態を見られて恥ずかしかったのか、普段とは異なり少し赤い顔をしていた。
「トモマサ様、この度は、本当にありがとうございました。私から礼を言われるのは、筋が違うと仰られると思いますが、それでも言わせてください。本当にありがとうございました」
深々と頭を下げるメイド長。
俺は返答に困った。
なにしろ、言おうと思った事を先に言われてしまったからだ。
代わりに、良い事を思いついたので口にした。
「そこまで言うなら、メイド長、一つお願いがあります」
俺の言葉に、顔を上げるメイド長。突然の事態に緊張したのか、いつもの真面目な顔に戻っていた。
「ヤヨイのフリフリ衣装は、3日に一回ぐらいにしてあげてください」
「な! 父さん、何言ってるの!」
俺の言葉に即座に反応するヤヨイ。
「反論は聞かないよ。メイド長にあれだけ心配かけたんだ。ヤヨイも反省の意味を込めて、少しぐらいは付き合って上げるべきだ」
「グヌヌヌ……」
ヤヨイが、ラノベみたいな声を出しながら悔しがっている。
それでもメイド長に思うところがあるのか否定はしなかった。
「メイド長もそれで良いかい?」
「はい! 喜んで、トモマサ様のご命令実行させていただきます」
それまでキョトンとしていたメイド長であるが、俺の確認の言葉を聞いて、まるでヒマワリ畑の真ん中にいるかのような輝いた笑顔を見せて返事をした。
そして、早速ヤヨイを捕まえて屋敷の中へ消えて行った。
早速着替えさせるつもりのようだ。
「えっと、ヤヨイと話がしたかったんだけど……取り敢えず、俺も寮に帰って皆を連れてくるか。その頃には、着替えも終わっているだろうし」
そう言いながら、俺は、寮へと帰った。
数時間後、俺は皆を連れて再びヤヨイの屋敷を訪れていた。
今は案内された応接室で、お茶を啜っているところだ。
目の前にいる少々フリフリの多過ぎるゴスロリ風の服を着たヤヨイを見ながら。
「プッ。ヤヨイよ。プッ。大事な、話が、プッ。あるんだ。プッ、プップップッ」
そう、ヤヨイには、話をしないといけない事があるのだ。
コハクの事や狭間教の事など、大事な話なのだ。
なのにどうしてだろう、笑ってしまっていた。
「何よ。笑うなら、堂々と笑いなさいよ!」
顔を真っ赤にして怒りを表すヤヨイ。
ああ、不味い。これ以上は、本気で怒りそうだった。
「すまん。すまん。あまりの可愛さに笑みが溢れてしまったよ」
「何が笑みよ。笑みは笑みでも嘲笑じゃないのよ! 私も分かってるのよ、似合ってないって!」
既に、ご立腹でした。
何とか宥めないと。
「いや、よく似合ってるぞ。その黒主体の服は、銀髪がよく映える。メイド長のセンスは、間違ってないと思うぞ。なあ、皆んな」
俺は、彼女達に話を振る。
「ヤヨイ様、よくお似合いです」
「そうですよ。肌も白くて、黒が似合ってますよ」
「ヤヨイ様、人形のように綺麗だぞ」
「良くなっておられますよ。せっかく若くなったのですからファッションを楽しんでみてはどうですか?」
「似合うー」
皆、絶賛している。
マリ教授に至っては、自分も若い頃に戻りたいみたいだ。
20歳は、まだまだ若いと思うのだが。
一方、皆に褒められたヤヨイは、少しは機嫌が良くなったようだ。
「皆がそう言うなら、我慢するわ」
とか言っている。結構、チョロかった。
「それで、話なんだが、このコハクの件だ」
褒められて、良い気になっていたヤヨイに今日の要件を伝える。
コハクが、龍人族の末裔でスワ湖の白龍である事。
そして、狭間教に捕らえられて操られていた事。
その操っていた宝石について調べて欲しい事。
その黒龍の話を聞きにノリクラ岳に行く事。
「そう分かったわ。これがその操っていた宝石ね。調べるわ。それにしても、龍人族か。初めて聞く種族ね」
そこまで言って、一息つくヤヨイ。
その後、コハクの方を見て質問する。
「コハクさん、さっきの父さんの話の中にもあったけど、改めて聞かせて。貴方達、龍人族は、人間との共存を望んでいるのね?」
「私もー、父様もー、人里で暮らしてるー。争うーつもりはーないー。でもー、これがー、龍人族全体のー統一見解ではないー」
相変わらず、間延びした話し方だが、非常に納得できる意見だ。
人間なんて人間同士でいつまでも戦争しているのだから。
龍人族全員が人間との共存を望んでいるなんて早々に言える訳がない。
「分かったわ。まぁ、人類より古い歴史を持つと言う龍人族が敵対しているのなら、人類の発展なんて無かったでしょうしね。それで、父さん、いつノリクラ岳へ向かうの?」
「ああ、すぐにでも行くつもりだ。それで一つ相談があるんだ。ノリクラ岳の近くの街へと行きたいんだが、誰か良い転移魔法使い知らないか?」
「それなら、私がオクヒダの街へ送るわ。……そうね、どうせオクヒダ行くなら温泉で一泊ぐらいしたいわね。それなら、先にシンちゃんに話ししてから行こうかしら?」
何やらヤヨイが1人算段を始めた。
いや、俺だけ送ってもらえれば後は勝手にするんだけど。
などど考えているうちにヤヨイの計画が出来上がったようだ。
「よし、王城へ行くわ。父さん達もついて来て」
そして、有無を言わぬヤヨイの先導で俺達は、王城へと向かった。
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