第201話5.21 戦いの裏側
操られたフリをして、敵の本拠地を探る。それが、私が聞かされた策の最大の目的でした。
「コハクさんを操っていた宝石の解析が進んでね。未知の力、恐らく龍人族固有の力を魔素で使うために作られた、一種の魔道具だと言う事が分かったの。魔素を解して動く魔道具なら、その魔素の供給を断てばいい。という訳で、宝石の影響を自在にする魔法も作る事が出来たわ。一時的に操られるけど、意識そのものは残ってるから体に付いている魔道具への魔法の行使は可能だわ。結構な魔素量を必要とするけどね。後で教えるから、隙を見て訓練しておいてね」
「はい、分かりました」
事も無げに話すヤヨイ様ですが、きっととんでも無い成果なのでしょう。マリ教授の苦労が偲ばれる話でした。
「後、あちらに内通者がいるから、何かあったら彼を頼りなさい。オオクボ ナガヤスと言う文官だけど、切れ者よ。関東と関西を天秤に掛けているわ。合理主義者で亜人への差別なんて無意味、どんな姿の人間だろうと有能な人はいる。と言っているような人族だから、貴女の事を下に見る事もないはずよ。でも、少々色物なところもあって口説いて来るかもしれないから、それだけは注意しておいてね。戦いは、からっきしだから手を出してきたら軽く捻ってやればいいから」
「はい。大丈夫です。この体、トモマサ様以外の男性に触らせるつもりはありませんので」
「はいはい。すっかり父さんの虜になってしまったわね。あの小さかったアズキがね。ふふふ」
私が、ヤヨイ様の言いつけを守ると言っただけなのに、何故か揶揄われてしまいました。顔が赤くなるのが分かります。
「それから、最初に話したけど、1番の目的は敵の本拠地を探る事。これまで、狭間教の本拠地は、教祖がいるニッコウだと思っていたのだけど、どうやら他に隠された本拠地があるようなの。ヒガシナカの街に持ち込まれた科学遺物の事や、スワ湖にいたブルードラゴンの事を考えるとどうしてもニッコウとは違う場所にある気がするの。貴女の力をイエヤスに見せれば、護衛としてそばに置くと思うわ。操られているのに意識があるとは思って無いだろうから。ナガヤスもその方向で進めると言っていたので、イエヤスに付いて回って他の人の話を欲しいの。私達の話を盗み聞きするだけの聴力があれば、問題ないでしょう?」
話を聞いて頷く私を見ながら、ヤヨイ様が話を続けます。
「最後に、1つだけ。本当に1番大事なのは貴女自身よ。くれぐれも気をつけて。少しでも危ないと思ったら即座に逃げなさい」
これ迄の話の中で最も真剣な表情で語るヤヨイ様。その心の内を本当に嬉しく思い顔がにやけてしまいます。
「アズキ? 人が真剣な話をしているのに何にやけてるのよ。まったく。兎も角、話は終わりよ。魔法を覚えたら父さんの所に戻りなさい」
私の顔を見て、恥ずかしくなったのでしょう、ヤヨイ様が少し赤くなった顔を背けて話します。その後は、魔法のレクチャーを受け話は終わりになりました。
―ー―
「だ、ダメです。回復魔法は、ダ、メ……」
ヌマタ男爵を創作途中、トラップの攻撃をもろに受けた私は、トモマサ様にそう言ってから体の自由を失いました。
――何処に魔道具が?
魔道具の取り付いた場所がわからず、私が口を開こうとしても体は言う事を聞きません。心の中で思うだけになってしまいます。そうこうしているうちにトモマサ様が私の傷を回復魔法で癒してしまいました。
――ダメ!
体の傷が治った途端に、トモマサ様に襲いかかる私の体。心では、必死に止めようとしているのですが、本当に体は言う事を聞きません。
――見つけた。首の所に何かが取り付いてます。そこから魔素が乱れているから間違いないです。
見つけた魔道具への魔素供給を断つことに意識を集中します。すると、少しだけ動かせるようになった私の体。でも、完全には止められませんでした。トモマサ様との戦いはヒートアップしていきます。
そんな中、現れたヌマタ男爵は、巨大なゴーレムによって守られていました。
――何あれ。聞いてません。トモマサ様の刀を受け止めるなんて。あんなゴーレムの相手してトモマサ様は大丈夫でしょうか?
そんな事を考えている間も、鈍いながらも体は勝手に動きます。ゴーレムと連携してトモマサ様を攻撃します。
対するトモマサ様も奮戦しておられました。重力魔法を使って私とゴーレムの動きを止めようとしますが、魔素のコントロールに苦しんでおられるようでした。
――なるほど。私とゴーレムに同じ魔法をかけると、私が潰れるか、ゴーレムにはほとんど意味がないかのどちらかなのですね。だから、わざわざ2つの魔法を行使するという高度な技を使っておられるのですね
そんなトモマサ様を見ながら、私は、以前、カリン先生から聞いた並列魔法の難しさについて考えていました。
――並列魔法、複数の魔法を同時に発動行使する事です。会得には、通常10年の訓練が必要で、魔法使いの2割程しか使えるようにならないと言われている技術です。それを、まだまだ拙いながらもいつの間にか使えるようになっているトモマサ様。流石です
心の中で絶賛を続ける私。その頃には、魔道具のコントロールも出来るようになっていました。それでもトモマサ様への攻撃を止めるわけにはいきません。ヌマタ男爵がまだ見ているのですから。
並行してゴーレムも動きます。そのゴーレムの攻撃が、ユウキさんへ向いた時、トモマサ様が身を呈して庇い、逃していました。その姿に絶賛を送る私。
そんなやり取りの後、トモマサ様の動きが変わりました。脳への身体強化で、対策を考えたのでしょう。どう動くのか楽しみにしながら、私は再度、攻撃に向かいます。
そんな私の攻撃を躱したトモマサ様、私の耳元でとんでもない事を言いました。
「アズキの最も感じる性感帯は、尻尾と耳の付け根だ!」
衝撃の言葉でした。頭が真っ白になるほどの。気付けばトモマサ様から距離を取っていました。そして思い出しそうになるトモマサ様との行為――私は、慌てて頭を切り替えてトモマサ様へ視線を向けます。
すると、ゴーレムを躱し、私の方へと向かって来るトモマサ様、耳元で話されました。
「一番、感じる行為は、その付け根を爪でカリカリされる事だ!」
火が出るほどの恥ずかしさでした。無意識に投げを放ってしまうほどの。
飛ばされていくトモマサ様に、私は「あっ!」と思いましたが、大丈夫でした。魔法で上手に受け身を取るトモマサ様。すぐに立ち上がり、今度はゴーレムへと攻撃を集中しだします。
しばらくして、ゴーレムのコアを砕かれておられました。ですが、代わりにゴーレムの突進を受けてしまい、弾き飛ばされたトモマサ様、壁に飛ばされていきます。
――危ない!
咄嗟に私は、魔道具への魔素供給を完全に断ち、体のコントロールを取り戻し、風魔法でトモマサ様の体を守ります。もちろん、ヌマタ男爵にバレないように。それでも血を吐くトモマサ様が心配で攻撃を仕掛ける程で駆け寄ろうとした私でしたが、ヌマタ男爵の言葉に、止まってしまいました。
「……ゴーレムの自爆に巻き込まれて死ぬが良い」
そう言ってち去ろうとするヌマタ男爵。首に取り付いた魔道具は、それに続けと命令が来ています。
――爆発する!? トモマサ様を助けないと
心の中で叫ぶ私だったけど、ここで動いてヌマタ男爵に意識がある事をバラす訳にもいかない。と、悩んでいると目線の先にユウキさんの姿が映りました。
――あ、ユウキさん、戻って来たんだ。良かった。これでトモマサ様は、大丈夫ね。後はコアですね
そう思いながら改めて確認したコアからは、ほとんど魔素を感じられませんでした。
――うーん、あのコア、もう力が残ってないですね。トモマサ様の刀で砕かれて魔素を失ったようですね。それなら、取り敢えずトモマサ様から離しておけば大丈夫ですね
そして、風魔法でそっとコアを移動させ、私はヌマタ男爵の元へと向かった。
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