第49話1.49 入学試験2

「『S』判定は、これで全員ですかね?」

「うーん、例年、1~2名だという話なので、これ以上は増えないのじゃないかな?」

 そうか、もういないのか。

 広い部屋で、まったりと寛いでいると入り口のドアが開かれカリン先生が入ってきた。

「みなさん、お待たせしました。今後の予定を説明しますので空いている席に座ってください」

 空いている席って言われた4人は、なんとなく一番前の席に並んだ。

 日本人らしく無いが、皆知っている人ばかりなのに離れて座るのが、いやらしく思ったからだろう。多分。

「ありがとうございます。それではまず自己紹介をしますね。私は本学園で教師をしております。カリンです。よろしくお願いします。既にご存知の方もおられると思いますが、『S』判定された皆さんの試験は終了です。入学試験合格おめでとうございます。春からは、本学園の学生として一層の魔法力向上に努められることを期待しております。続いて――」

 教壇で話をつづけるカリン先生。

 俺はそんなカリン先生のいつもと違う雰囲気にちょっとドキドキしていた。

 屋敷でのフレンドリーな感じとは違い、きりっとした感じはすごく大人びて見えて。


「トモマサ君、聞いていますか?」

「え?」

 ボーっとカリン先生を見ていた俺。

 突然の呼びかけに、はっとなった。

「もう、大事な話ですからちゃんと聞いてください。受付でもらった書類の記載は済んでいますか? まだなら今記入してください」

 カリン先生に見とれて何も聞いてなかったようだ。周りを見ると皆、書類を書いていた。

「すみません。すぐ書きます」

 名前とか住所とかの個人情報を記載していく。

 生年月日なんかは、体年齢に合うように作りこんでいた設定を書き込んでいった。


「皆さん書けたようですね。回収します。4月になったら入学式までには、寮のほうに引っ越しを完了しておいてください。詳しくは、配った冊子に書いてありますのでそちらを読んでください。それでは、何か質問はありますか?」

「寮ですか?」

「魔法学園は、全寮制です。トモマサ君は知らなかったのですか? 確かにこれまでの授業では説明していませんが?」

「すみません、知りませんでした。それと、特待生制度についても教えてほしいのですが……」

「長くなりそうですね。トモマサ君の質問には、解散後に聞きます。他の人、質問が無ければこちらの問題を解いてください。一般教養の問題です。合否には関係のない試験ですが、成績が悪いと教養の授業を受けてもらいますので真面目に受けてくださいね。終わった人から解散してもらって構いません」

 シンゴ王子とカーチャ王女はサクッと試験を終え帰って行った。

 もちろん、さわやかな挨拶を残して。

 俺とアズキが終わった後で、カリン先生と話をした。

「さて、寮についてですね。先程も言いましたが、魔法学園は全寮制です。寮には、貴族用と一般用があります。違いは、使用人用設備の有無ですね。トモマサ君は、貴族ですので最大2人の使用人とともに住むことが出来ます。使用人としては、アズキさんのような本学園の生徒でも、一般の人でも登録可能です。近いうちに寮を含む入学に関する資料を届けますので、期限までに提出してください」

 学生寮に入ったらアズキとイチャイチャ出来ないなどど考えていたけど、大丈夫なようだ。

 一安心である。

「次に、特待生制度ですね。トモマサ君、特待生になると色々と特典はありますが、制約も多いですよ。どちらかというと魔素の多い一般人の為の制度ですね。貴族の方が申し込まれたのは聞いたことがありません。それに、トモマサ君とアズキさんの入学金、授業料、寮費その他もろもろ、全てヤヨイ様から預かっていますよ? トモマサ君が稼いだお金だと聞いていますが、心当たりはありませんか?」

 俺が稼いだ金? 31世紀に来てから魔法と剣術の修行ばかりで働いた記憶がない。

 ヤヨイが立て替えたのだろうか? これ以上、娘から援助を受けるなんて父親としての沽券にかかわる事態だ。

 すでに手遅れのような気もするが。と考えていたら

「トモマサ様、私が預かったお金もトモマサ様の財産だと伺っておりますが、違うのですか?」

 アズキまでそんなことを言ってきた。なんだって、それなら俺は自立して暮らしていたというのか? ヤヨイに問い質すしかないな。

「良く分からないな。ヤヨイ……様に確認してみます」

 思わずヤヨイを呼び捨てにする所だった。

 カリン先生はまだ俺の正体を知らないのだった。気を付けないと。

 1人うんうんと首を縦にする俺。

 そこにカリン先生が首を傾げながら聞いてきた。

「他は良いですか? そろそろ、戻らないといけないのですけど?」

 カリン先生忙しそうだった。

 俺も今すぐに思いつく質問もなかったので、首を横にする。

 するとカリン先生、「では」と言いおいて急いで教室から出て行った。


「ヤヨイ、どういうこと?」

 帰って早々、ヤヨイの書斎に駆け込んだ。

「父さんお帰り。無事に入学できることになったかしら?」

 ヤヨイがにやにやしながら聞いてきた。

 こいつまた、全てわかって揶揄ってやがるな。

「ああ、入学出来たよ。お前、知っていただろ。魔素量だけで合格できるって。……まぁ、それは良い。それより、俺の稼いだ金ってなんだ? 入学金や授業料払っていたみたいだが?」

「あら父さんには、言ってなかったかしら?」

 ヤヨイがにやにやしながら教えてくれた。


「俺の書き写した資料を売っただと? この間、清書させたあの資料か? 奴隷の在り方とか家族間の罪の在り方とか書いた資料」

「ええ、父さん直筆の書、高かったわよ。魔法で古びの加工を施したら、父さんを崇拝する教会関係者や貴族が挙って買っていったわ。書き損じなんかもリアリティが有るってんで意外と良い値だったしね。内容もタイムリーだからしばらくは議論が絶えないわね。法改正の機運を高めるには最高の一手よ。もちろん売った代金は、手数料を抜いて父さんのお金として管理しているから心配しないで。一生遊んで暮らせるぐらいあるわよ。フフフ」

 ヤヨイ、いやヤヨイさん、悪い顔していますよ。なんて恐ろしい。魔女ですか? 魔法使うから魔女ですね? それにしても一挙3徳? 4徳ぐらいありそうな一手ですね。

 ……あの無邪気だったヤヨイが、いつの間にこんな恐ろしい女に……。

「すみません。私が悪かったです。なので、これ以上嵌めないでください」

 思わず土下座してしまった。

「何人聞きの悪いこと言っているの。父さんを嵌めるわけないじゃない。嵌めるのは馬鹿な貴族だけよ。だから立ってよ」

 立ち上がって顔を見ると、ますます悪い顔になったヤヨイが笑っていた。

 これは魔女レベルじゃない魔王だ。

 俺の娘が魔王になってしまった。

 絶対にこいつに逆らってはいけない。そう心に決め、俺は部屋を後にした。

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