第72話 2.10 復元魔法2
マリ教授の研究室に寄った次の休日、俺はヤヨイの屋敷に帰ってきていた。
そして早々にヤヨイの書斎へ向かう。
「ヤヨイ、ただいま」
学生は休みだがヤヨイは今日も仕事のようだ。
入った書斎で書類とにらめっこしていた。
「あら、父さん、お帰りなさい。アズキもお帰りなさい。カリン先生にツバメさんもようこそ。ルリもね」
ふらっと帰るつもりだったのだが、なぜか3人プラス1匹も付いて来ていた。
寮でも用も無いのにカリン先生とツバメ師匠は遊びに来てるからいつも通りだと言えばいつも通りだが。
「ヤヨイ、仕事中に悪いんだけど、ちょっと話があるんだ。時間良いかな?」
「あら何かしらね。とうとう、ツバメさんに手を出したのかしら。父さん、いくら相思相愛でもロリは犯罪よ」
「なんで、そんな話になるんだよ。手出ししてないよ。成人してからの約束はちゃんと守ってるよ」
ヤヨイがニヤニヤ笑ってやがる。
久々に、と言ってもひと月ぶりぐらいだが、会ったのにいきなり揶揄われてしまう。
昔は本当に素直な良い子だったのに、なんでこうなった?
ひとしきりニヤついたヤヨイだったけど俺の反応が鈍くて詰まらなかったのか普通に話してきた。
「それで、なんの話。休憩がてらお茶でも飲みながら話しましょうか? 学園の様子も聞きたいしね。カリン先生、教員の評価なんかも教えてね」
え、カリン先生、止めてくださいね。
三者面談じゃないんだから。
教員の評価なんか聞きたく無いですよ。
俺の心配をよそに、皆で応接室へ移っていく。
本当に、止めてくださいね。
態度が悪いとか言われたら、俺、凹んじゃいますよ。と内心ビクビクしているとヤヨイ、普通に話し出した。
「それで、父さん、なんの話。それとも、本当にカリン先生の話が聞きたい?」
「いやいや、止めて。俺が聞きたいのは遺失魔法の一つ、復元魔法についてだ。この間、復元魔法の研究をしているマリ教授と話をする機会があってな。昔、ヤヨイも魔法の研究をしていたと聞いて、どんな感じだったか教えてほいんだ」
「ああ、復元魔法ね。確かに昔、発案者である帰狭者の一人と研究したわね。でも、一般人には使えるようには成らなかったのよね。困ったことにね」
そうか発案者と研究してたのか。
それなら話が早い。
「どうしてダメだったんだ?」
「これは、遺失魔法全般に言えるんだけど、使っていた本人がどの知識を使って魔法を発動させているのか解ってないのよ。つまりね、厨二病的な人が、漫画の知識で発動させているつもりだったんだけど、実は、医学的な知識が必要でしたとかね」
「そんなことがあり得るのか? 魔法を発動させる為には、魔素に明確に命令しないといけないのでは無いのか?」
俺の疑問にカリン先生が答えてくれる。
「トモマサ君、曖昧な命令でも魔素量が大量に必要なだけで、魔素が勝手に知識を読み取って魔法を発動させると授業で教えたでしょう? 覚えて無いですか」
あー、確かにそんなこと言ってたな。
俺はいつも明確な命令を心掛けてたから忘れてたよ。
「どうせ、父さんはカリン先生の胸ばかりみてたから聞いてなかったのよね」
ヤヨイがまた、にやにやしながらぶち込んできた。
確かに胸はよく見てたよ。
だってカリン先生が動く度に揺れるんだよ。
目線が行ってしまうのは男のサガだから仕方が無いじゃないか。
反論しようとしたのだが上手い言葉が出てこない。
俺が考え込んでるうちに話が進んでいた。
「発案者が亡くなるまでに色々試したのよ。私も、色々話を聞いて試したんだけど、結局使えなかったわ。でも、確かに父さんなら使えるかもしれないわね。ちょっと試してみてよ」
「え、でも何を復元するんだ? 誰も、欠損部位なんて無いだろう?」
ここにいる人たちは健常者ばかりだ。
まさかマリ教授みたいに膜をとか言わないよな。
ヤヨイは、娘は、変態じゃないよな。と内心、祈っていると普通に返された。
「ああ、はい、爪切り。これでちょっと爪切って試してみれば良いわ」
そうか、そうだよな。爪で良いんだよな。それが普通だよな。
膜なんて言ってるマリ教授はやっぱり変人なんだろうな。と安心する俺。
受け取った爪切りで爪を切って復元魔法を試してみる。
「『復元(レストレーション)』」
普通に魔法が発動して爪が伸びた、それも3cmぐらい伸びた。
「あら普通に発動したじゃない。魔素は、どれぐらい使ったの?」
ヤヨイが聞いてきたので、ステータス魔法で確認する。
今日は魔法使ってないので、減ってる分が今の魔法分と分かるから。
すると。
「ステータスでは、500ぐらい減ってるな」
「500! それなら大成功よ。知識が足りないと5万でも足りなくて私でも発動できなかったんだから」
5万でもか、それなら確かに普通の人には無理な数字だろうな。
でも知識と言われても俺には医学的知識なんてほとんど無いんだけどな。
何を知ってたら使えるのだろうか。考え込んでいると声がした。
「すごい、流石だね、トモマサ君。やっぱり、あのアイピーエス細胞とかいうのを使って魔法を使ったの?」
カリン先生がべた褒めした後に聞いてくる。
IPS細胞か、でもあれって実用には至ってないんだよね。
「カリン先生、IPS細胞の話なら私も知っているわ。でも、復元魔法は使えなかった。だからその知識は、必要無いと思うわ。きっともっと違う考え方で発動している気がするわ。で、どうなの、父さん。何を考えて魔法を使ったの?」
「そうだな、俺が思っていたのは、ただ、無くなった部分が復元すれば良いって思って魔法を使ったよ」
俺の言葉に皆が、「え?」って顔になる。
「それって、結局、父さんも前の帰狭者と同じで何が必要な知識かわからないってこと?」
「それなんだけど――、一つ思い出したことがあるんだ。人間には、いや、生物には基本的に失った組織を復元する力があるだろう? 小さな傷は何もしなくても治るし、大きな傷も、回復魔法をかければ治せる。これは、解るな」
俺の言葉に皆が肯いているので話を続ける。
「それなら、例え、腕が無くなっても再生してもおかしく無いんじゃないかと思ったんだ。それに実は人間にも切り取られても自力で復元する部分があるんだ。それは――肝臓だ。肝臓は4分の1ぐらいになっても2ヶ月ぐらいで元の大きさに戻る臓器なんだ。ひょっとしたらこのことが関係してるのかもな。俺としては、こんな中途半端な知識で良いのかって気もするけど……どうかな?」
直後、ヤヨイが俺から爪切りを奪い取って爪を切った。
そして、『復元(レストレーション)』。見事に爪が復元した。
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