第206話5.26 秘策

 俺は、手から発せられた魔素が人型へと変わっていくのを見ながら、術について思いついたときのことを思い出していた。


―――


「はい、カリン先生。人の魔素で動くゴーレムです。俺が使えば無敵になると思うんです」

「確かにそうだな。トモマサ君の人外な魔素量なら強さでは間違いない」

「マリ教授にも、そう言ってもらえるなら安心です」

「でも、ゴーレムの再現ですか。マリ教授、危険では無いのですか?」

「うむ、関東で使われていた技術だから、そのまま使うのは、乗っ取りなどの妨害を考えると確かに危険かな」

「そうですか」

「いや、だが、考え方は良いと思う。確か、遺失魔法で……あったあった、これ、使い魔召喚魔法だ」

「使い魔召喚?」

「私も聞いた事あります。確か、術者一人の魔素だけで使い魔を作り上げる魔法でしたっけ?」

「そうだ。一人で作り上げるから、他の人に乗っ取られる要素も無い。だが、あまりに大量の魔素量が必要で使われなくなった魔法だ。遺失魔法の中でも異質な魔法だ」

「遺失でも異質……」

「いや、私はダジャレを言ったわけでは……」


この会話をヒントに俺は、ひたすら脳への身体強化を続けて考えた。


 ――魔素量だけの問題なら、俺に最適だ。

 ――魔素から肉体を作り出すことには成功した。だが、動かすのは俺だ。これでは、俺が二人いるのと変わらない。アズキが二人ならすごい強力なんだけど……

 ――何とか、自分で動けるようにはならないだろうか?

 ――AIの開発なんて無理か。でも、確か、生活魔法って、たくさんの人の記憶が合わさって、誰にでも使えるようになったって……

 ――それを応用したらできるかも?

 ――多くの人の記憶に残ってて、しかもすごい人で、なにより俺が信頼できる人物。

 ――そんなの一人しかいない!


―――


 人、しかも女性の形へと変わっていく魔素。やがて、顔の輪郭や、口や鼻や目まで鮮明に再現された使い魔が目を開いて――ため息をついた。


「あなた、ほんとに困った人ね。死んだ私を頼ろうだなんて。でも、まぁ、仕方ないわ夫婦だものね。助けてあげるわ、ヤヨイの為にもね!」


 俺が使い魔に選んだのは、かつて、この国の骨格を作り上げた、建国の母、ムツキだった。


「頼む! アズキが危ないんだ!」

「はいはい、結界ね」

 俺の思いなどお見通しとばかりに、結界へと歩み寄るムツキ。手を翳しただけで。

「はい!」

 結界を消し去っていた。

「な、なんだと! 貴様何をした‼」

 ヌマタ男爵にしても意味が分からいのだろう、ムツキに叫ぶ。


「壊そうとするから大変なのよ。魔素の流れをちょっと変えてあげれば魔法なんてすぐに解けるわ。ネタの割れた手品と同じ」

 肩をすくめるムツキは、何でもないように答えた。その返答に目を見開き固まるヌマタ男爵。

 俺は、そのヌマタ男爵を通り抜けざまに顔面を思いっきり殴ってから、アズキの元へとたどり着いた。


「アズキ!」

 俺の叫びに、アズキはかすかに口を動かして

――申し訳ありません

 と苦し気に謝っていた。


「いいんだ、いいんだ。帰ろう。イチジマに、俺たちの家に」

 顔を撫でる俺に、ほんの少し頷いてアズキは気を失った。


「ムツキ、この魔道具は、どうすれば外せる⁉」

「えっと、ああ、もう大丈夫。ゴーレムとの接続切ったから。ただの石。アズキさんからそっと離して、念のため壊しておいて。あと、アズキさんの傷の回復もね」

「分かった」

 魔道具は、本当にぽろっと取れた。その後吹き出す血を押さえながら、俺は回復魔法を掛ける。すると、落ち着いてくるアズキの呼吸。俺は、アズキを抱いて立ち上がって告げた。


「行こう、ムツキ。まだ動いている、こいつを破壊するために」

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