第78話2.16 重力魔法2

 それから数日は、ひたすらに日記を読んでいた。

 もちろん必須科目とか錬金魔法とか必要な授業には出ているが。

 日記には日々の日常が綴られている。

 大変革の際に次元の狭間に囚われた事。

 戻ってきたら100年以上経っていて家族は見つけられなかった事。

 魔法文明に翻弄されながら、なんとか立ち直り、新しい家族を作った事。

 魔道具の開発に力を注いだ事。

 魔法盤の開発に成功しホンダ魔道具社を立ち上げた事。

 魔導車の開発を夢見るが、周囲の反対に会い実現できなかった事。

 こっそり研究してたが、動力源については研究が行き詰まっていた事。

 そして、夢を子孫に託し日記と図面を隠した事が書かれていた。


「やっぱりそうだったんだ」

 予想通り日記の著者は、ホ○ダ自動車の設計技術者だったようだ。

 その知識を動員してこの設計図を作っていたようだ。

 ただ動力源部分は研究が進まず図面にする事は出来なかったらしい。

 いくつかの構想だけが書かれていた。


 蒸気機関や内燃機関などを魔法で実現する方法が考察されているが効率的では無いと結論付けていた。

「やはり、何らかの魔法で直接回転を生み出すのが効率的か」

 そう俺も考えていた。

 蒸気機関や内燃機関は所詮、爆発を直線的な力を閉じ込めて回転力を生み出しているに過ぎない。

 そのため効率が悪い。

 熱効率が高いと言われるディーゼルエンジンでも30%程しか利用していないのだ。


 魔法という自由度の高い力ならもっと効率的な方法があるように思えるし、少ない魔素量で動くようにしないとランニングコストが高過ぎてとても使えないものになってしまうだろう。

「回転を生み出す魔法か。何か良いものがあるかな?カリン先生かマリ教授にでも聞いてみるか」



「という訳で、マリ教授、何か良い魔法ありませんか?」

 俺はマリ教授の部屋に来ていた。

 昨晩泊まりに来ていたカリン先生にもベッドの中で聞いて見たのだが、「そういう専門的な魔法の事は、マリ教授の方が詳しいです」と言われたので研究室に聞きに来たのだ。

 ナニした後で疲れていただけかもしれないけど。

 もちろんマリ教授のところに来る時はカーチャ王女のいない時間を狙うのを忘れてはいない。

以前と同じように上級回復魔法授業の時間を狙って来ていた。


 来客用ソファーに向かい合って座り話をする。

「ふむ、回転を生み出す魔法か。聞いたことがないな」

「回転でなくても良いです。物を動かす魔法があれば応用できると思います」

「風魔法ではダメなのか? 船の帆に風魔法を当てて推進力を得ていると聞いた事があるが」

 それは俺も考えたけど帆のついた車は無理じゃないかな。サイズ的に。

パラグライダーみたいな物で空なら飛べると思うけど。

1人で空を飛ぶなら違う魔法で出来そうなので、それも却下だな。


「うーん、少し違いますね。こう、机の上のペンを動かすみたいな」

 俺は机の上のペンを転がしながら説明する。

「土魔法なら固形物の形は変えられるけど、ペンが机の上を転がるようには動かせんな」

 マリ教授、俺と同じようにペンを転がしながら考える。

「「……」」

 無言のままペンを転がす2人。

コロコロという音だけが響く。


「あ! そう言えば」

 そう言って手を止めたマリ教授が語り出した。

「昔、変わった遺失魔法があると聞いたことがあるわ。何て言ったかしらね。えーっと、一方通行魔法だったかしらね?」

「は? 一方通行魔法ですか。どんな魔法なのですか?」

「かなり初期の帰狭者で詳しい資料は残ってないのだけど、確か力のベクトルを操作するとか何とか書いてあった気がするわね。何に使うのかよくわからないので、全く研究されていない魔法よ」

 ベクトル操作に『一方通行』って、とあるアレの一位様の能力の事か。

厨二病炸裂してるな。

 しかし、そうか魔法で再現した人がいるのか。

使い方によっては有用そうだな。

今度こっそり練習してみよう。


 でもあれそのままの魔法だとすると始動できないんだよな。

方向性はあってる気がするが。

「うーん、もっとこう、直接的に力を操作する魔法ないですかね?」

「力の操作ね。それなら、重力魔法はどう? これも遺失魔法だけど、重力を操作して物を重くしたり軽くしたりできる魔法よ」

「なるほど。重力魔法ですか。でも、重力って下への力ですよね。横への力が欲しいのですが……。そうか! そうだな。行けるか」

 俺、閃いてしまいました。良い事に。

 あまりの嬉しさに立ち上がりガッツポーズを取る俺をマリ教授が鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見ている。

「マリ教授、その一方通行魔法と重力魔法の資料って見せていただけますか?」

「あ、ああ、構わないよ」

 ボケっとしていたマリ教授だが俺の願いを聞いて資料を取りに本棚へ向かった。


 しばらくして、戻ってきたマリ教授から資料を受け取る。

「ありがとうございました。おかげで助かりました」

「いや、礼を言われるほどの事はしてない気がするのだが。まあ良い。それで、もし重力魔法が使えるようになったら教えて欲しい。工事現場などで有効な魔法なのでな」

 礼を言って部屋を出て行く俺。

マリ教授のお願いも了承している。

しかし一方通行魔法は良いのかな? 結構有用そうな魔法なんだけど。

 まぁ使えるようになったら重力魔法と一緒に教えてあげよう。

 一人肯きながら俺は寮に帰った。

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