第77話2.15 重力魔法

 今、俺は授業を終えてソウイチロウ先生の研究室に来ている。

 タケオとヤタロウと共に。

 魔導車の話を聞いて興味が湧いたらしい。

 ちなみにアズキは必須授業がある為別行動をしている。

 俺がテストで飛び級した授業だ。

 流石に21世紀で大学まで出て得た知識は無駄ではなかったということだった。


「これが、構想図面だよ。あと日記も」

 ソウイチロウ先生が書棚から大きな紙を十数枚と分厚い日記帳数冊を持って来てくれた。

 かなりの年代物なのに保存状態は良好だ。

 時空魔法、恐るべしである。


 先ずは構想図面を開いて見ていく。

「これ、構想図面と言うより設計図ですね。かなり詳細まで書いてありますよ」

「トモマサ君は、これが理解出来るのかい?」

 ソウイチロウ先生が図面の細かい記号を指差しながら聞いてくる。

 そうこの図面、CADで書いたような設計図面だったのだ。

 細かい記号で軸の太さやベアリングのサイズなどを指定している。

 機械系の学科を出た俺にしてみれば授業で習った懐かしい図面だった。


「一応、読めますね。いくつかの記号は、忘れてますが、読み込んでいけば想像できるでしょう」

 分からなければ王城の図書館に行けば詳細な資料が残っているだろう。

「おお、凄いな。ぜひ教えて欲しい。そして、共に魔導車作らないか?」

 ソウイチロウ先生が熱い眼差しで俺に提案してくる。

「良いですね。一緒に作りましょう」

 即答した俺はソウイチロウ先生は固い握手を交わした。


「俺も手伝わしてくれ。ヤタロウもやるだろう?」

「もちろん」

 タケオとヤタロもやる気のようで。

 さらに。

「ソウイチロウ先生、私も仲間に入れてください」

 女性の声がする。

 気づけば女の人が1人部屋の中に入って来ていた。

 身長140cmぐらい。ガッチリしたドワーフの女の人だ。

「お、サチ、来てたのか。もちろん手伝ってもらうよ。おっと、紹介がまだだったね、この3人は、今年の一年生で、トモマサ君にタケオ君にヤタロウ君だ。で、こっちの女性は、魔法学園OGでかつ研究生で、サチさんだ」

「「「サチさん、初めまして」」」

「はい、皆さん、初めまして」

 このサチさん、魔法学園を卒業して大手魔道具開発のホンダ魔道具に就職したのだが、さらに勉強する為にソウイチロウ先生の研究室で研究生として通っているそうだ。

 給料はホンダ魔道具から出てるらしく、いわゆる大学と企業の共同研究のようなものらしい。


 さらに言うと実はソウイチロウ先生もホンダ魔道具の関係者で、現社長の次男坊だそうな。

 子供の頃から魔道具開発にはまり魔法学園でも魔道具を作り続け、そして先生となった今でもひたすらに開発に情熱を傾ける人のようだ。

 また、その先生の元で勉強した生徒たちがホンダ魔道具へと就職しホンダ魔道具の開発力を上げているとか。

 恐るべし、ホンダ魔道具。

 恐るべし、ホンダ ソウイチロウ。

 

 それはさておき挨拶の終わった俺たちは早速、図面の読解に努めていた。

 もちろん最初に俺が簡単に読み方を説明してからだが。

 1時間ほどしてタケオとヤタロウが次の授業のため後ろ髪を引かれながら出て行った所で、俺はソウイチロウ先生と進め方について討論をしていた。

「車体は普通の馬車に近いものに変えて構わないと思います」

「この図面通りでなくても良いのか?」

「問題ありません。優先すべきは、動力部分かと」

 そう、この図面のボディは完全に自動車の形だった。

 舗装された道すら無く馬車が主流の現代31世紀で再現する意味はあまりない。


「なるほど上物は、後でどうとでもなるという事だな」

「はい。そこで問題なのですが、その肝心の動力部分の図面がありませんね。どうしてでしょう?」

図面上では、『エンジン』と書かれてスペースが作られているが詳細の図面が見当たらないのだ。

「うむ、設計に行き詰まっていたのかな?」

「それにしても動力部分の形が決まらないと車体の設計などできないでしょうに。実はこの図面、無意味なのでは?」

 俺の言葉にソウイチロウ先生が目を見開いている。


「た、確かに。そう言われればそれまでなのだが……。ご先祖が申し訳ない」

「ソウイチロウ先生、そんなに落ち込まないで、できることを進めましょう」

 サチさんが落ち込んでいるソウイチロウ先生を慰めている。

 何だか良い雰囲気だ。実はこの2人……、いや気にするのはやめよう。

 俺には関係のない事だ。


「日記に何か書いてあるかもしれません。読ませてもらっても良いですか?」

「ああ、好きに読んでくれ」

 ソウイチロウ先生の許可を得たので日記を読み始める。

 目の前ではソウイチロウ先生とサチさんが2人で図面を読み解いている。

 2人の距離か近くて「うふふふふふ」的な会話がきになるが、無視して読み進めていると部屋にノック音が響いた。


 サチさんがドアを開けるとサチさんの頭の上にアズキが見えた。

 授業を終えてやって来たようだ。

「トモマサ様、私は夕食の準備のため戻りますが、如何なさいますか?」

「ああ、俺も戻るよ」

 アズキの問いに即答する。これ以上、ここにいても邪魔な気がしてならないから。

「トモマサ君、必要な書類は持ってって構わないよ」

 ソウイチロウ先生は気を使ってくれたのか日記と図面を貸し出してくれた。

 俺達は礼と別れの挨拶を言って部屋を後にした。

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