第180話4.43 閑話 トモマサ君の質問コーナー(ヤヨイ編Part2)
エルフの里での騒動の後、向かったオクヒダ温泉の旅館、『奥穂高』での話である。
皆で夕食を食べた後、何故か俺はヤヨイと2人で風呂に入っていた。
「皆は、なかなか来ないな」
「そうね、あの子達だけで何か、秘密の話でもあるのよ。それとも何? 私と2人だと気に入らないの?」
ちょっと話をしただけで、突っかかってくるヤヨイ。
すこぶるる元気なようだ。
俺の心は弱っていくけど。
「ふん、まぁ、良いわ。それより、私の弟妹は何時出来るの? この若い体になったから、そんなに急がせないけど、やっぱり早く見たいわ」
「いや、無茶言うなよ。まだ、皆若いんだ。急いで子供を作らなくても」
ヤヨイの久々の要望を何とか交わそうとする俺だが、旗色は悪いようだ。
ヤヨイが更に畳み掛ける。
「今は、
「そうなのか。13歳って中1だろう? 何もそんなに急がなくても」
「仕方ないのよ。男は、盗賊とか魔物とかの戦いに出て直ぐに死ぬ事が多くてね。血を繋ぐ為に必要な事なの。常識が変わったの。父さんも何時死ぬか分からないんだから、早く仕込んでね」
ニンマリと怪しい笑顔で告げてくるヤヨイに俺は、溜息を吐きながらも気になっている事を聞いてみた。
「はぁ、それで、一夫多妻を認めてるのか?」
「本当は、私も一夫一妻にしたいわよ。でもね、仕方がなかったのよ。平均寿命、と言っても正確な調査結果ではない想定値ではね、男は40代、女は70代ぐらいなの。回復魔法で病気が治る
制度を作った頃を思い出したのだろう。悔しそうな顔で語るヤヨイに俺は、曖昧に肯いておいた。何を言ってもツッコミが入りそうだったからだ。
さり気なく、話題を変える事にする。
「そう言えば、大変革直後って、農業するのも大変だっただろう。あの頃は、鹿や猪が多くて、電気柵が無いとほとんど食べられてしまって」
「うん、ああ、獣害ね。そんな事もあったわね。でも、大丈夫よ。あんな、無警戒にノコノコ人里に出てくる獣なんて、直ぐに私達の食卓に並んだわ。貴重なタンパク質だったわよ。それに領域近くでは、魔物も獣狩って食べてたから直ぐに数が減ってねぇ。貧相になった食卓を見て魔物を恨んだものよ。でも、その内その魔物も食べるようになったから恨みは消えたけど」
俺の問いに何でもないように答えるヤヨイ。
どうやら、
あるのは魔物害だけと言う事だった。
そんな事を考えていると、辺りが静かな事に気がついた。
2人なんだから、俺が考え込むとヤヨイも話をやめる。
当然、沈黙が訪れる。
だが俺は、ヤヨイとの間に流れる沈黙が苦手だ。
反抗期の頃のギスギスした雰囲気が記憶に残っているからかもしれない。
なので俺は、慌てて話題を探して口を開いた。
「ああ、そう言えば、前から気になってたんだけど、街で見かける人達の顔が、すごく整ってる気がするんだけど気のせいかな?昔は、もっと何て言うか、多様性があったと言うか、そんな物が無くなった気がするんだ」
「そうかしら? 私は、長い事見て慣れてしまったから気にならないけど……言われれば、そうかもね。男女共に明らかなブスを見る事は無いわね。うーん、何でかしらね。でも、これも多分だけど、魔素の影響ね。父さんは、どうして亜人が生まれて来たか知ってる?」
俺の問いに、更なる問いで返して来たヤヨイに本で読んだ知識を答える。
「確か、その人の性格と言うか性質を読み取って亜人になるってやつだろう?」
「そうそう、それよ。それのおかげで、元は人族だったのが、エルフになったり獣人になったりするのよ。今でこそ、落ち着いているけど、大変革直後から100年程は、ドワーフから獣人が産まれたり、エルフから人族が産まれたりと大変だったのよ。っと、話が逸れたわね。えっと、つまり魔素は、人の性格を読み取って体の構造まで変えるのよ。だったら、顔を少し整えるぐらいやってても不思議では無いわ」
なるほど。魔素って凄いんだな、と思いながら俺は次の疑問を投げかけた。
「それなら、ハーフっていないのか?」
「黄色人種と白色人種のハーフならいるわよ。シンゴ王子のようなね。でも、獣人とエルフのハーフって言うのはいないわ。ただ、例外なのは、ハーフエルフね。これだけは、独立した種族として存在してるの。世界の不思議の一つよ」
「なんだそりゃ」
ヤヨイの話を聞いて俺の口から出て来たのは、そんな意味のない言葉だけだった。
ヤヨイも、「そう思うわよぇ」と苦笑いだ。
そこでまた、途切れた話を繋ぐ為、俺は新しい話題を提供する。
「なぁ、何で奴隷制度何て取ってるんだ。一夫多妻は分かったけど、奴隷制度も何か理由があるのか?」
「本当は、廃止したいわよ。でも、難しいのよ。
「そうなのか? でも、関東では、獣人とかエルフとか亜人は皆奴隷みたいに聞いたけど?」
「それもね、悩みの種なのよ。あっちの司法は、完全に取り込まれていてね、大した罪でも無いのに亜人だと直ぐに奴隷判決が下されてしまうのよ。腹立たしい事にね。あいつら、本当に直ぐにでも締めてやりたいわ」
そう言って、怒りの顔を見せるヤヨイ。
かなりご立腹のようだった。
俺は、そのヤヨイに愛想笑いを返しながら、話を逸らす事にする。
「しかし、帰狭者って厨二病が多く無いか? 奴隷制度の時も、前の爵位導入の時もそんな話をしていたけど」
「それね。確かにその通りよ。何故かは分からないけど帰狭者には、10代の若者が多かったわ」
「それって、狭間に行ったのが若者ばかりだったとか?」
「違うわ。狭間に迷い込んだ人の全員を調べられる訳がないので細かくは分からないけど、狭間にそんな指向性は無いわ。ただ、戻ってきた人に若者が多いってだけね。しかも、戻ってきた人は、若者の中でもオタクっぽい人が多かったのよ。全員ではないわよ。現に私は違うんだから」
真面目な話の後、聞いてもいないことを付け足すヤヨイ。
何だか、語るに落ちている気がする。
でも、まぁ、俺は……違わないかもしれない。
ラノベとか漫画とか好きでよく読んでたし、アニメも好きだったしね。
そんな事を考えていると、後ろからガヤガヤと声が聞こえてきた。皆が到着したようだ。
しばらくして、脱衣場のドアの開く音がして、裸で風呂に突撃してくるツバメ師匠。
後ろには、アズキ、カリン先生、マリ教授、ルリが続く。
そして、風呂は、騒がしくなっていった。
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