第86話2.24 みんなでデート

 領主会議2日目は議論大会である。

 もっとも大体は事前にすり合わせが行われておりパフォーマンス的な意味合いが強いらしいのだが。

 どちらにしても参加しない俺たちには、あまり関係の無い話である。


 関係ある事とすれば会議開催中は世間的には休日となり魔法学園も休みとなるところぐらいである。

 一般の人としても大事なのは、纏まった休みの少ない31世紀、3日の休みは貴重らしく遠くの街からも沢山の人が王都に訪れる日でもあるようだった。


「魔法学園も休みだし、街にでも出るかな?」

 俺は朝食を食べながら今日の予定について思案する。

 すると一緒に朝食を食べていたカリン先生の声が返る。

「街は、お祭り騒ぎですよ。沢山の出店も出て珍しいものも売ってますしきっと楽しいですよ。ツバメさんも呼んでみんなでお出かけしましょう」

 今朝、早くから寮にやって来ていたカリン先生も街に出たいようだ。

 昨日は早く帰って寂しかったのかもしれない。


「マリ教授のご予定は、どうですか? 一緒に行けますか?」

 俺は同じく朝食を食べているマリ教授にも提案する。

 すると。

「私もようやく発表が終わって気分転換に行きたい所だ。是非一緒に行かせてくれ」

 答えは決まっている。とばかりに返事があった。

 昨晩は膜の復元がならず少し落ち込んでいたマリ教授であったが一晩寝て吹っ切れたようだ。

 まぁ、俺とナニしたから復元してたとしてももう無くなってるのだが。


 朝食後、アズキとマリ教授が後片付けをカリン先生がツバメ師匠を呼びに行ってくれた。

 俺は、その間に魔素訓練と剣術の型修行をやっていく。

 この2つ、すっかり日課になっていて休みの日でも、やっておかないと落ち着かないぐらいになっていた。

 型修行も終わり風呂で汗を流している間に、ツバメ師匠もやって来たようで皆、準備万端となっていた。


「シンゴ王子とカーチャ王女もと思って寮に寄ってみたけど留守だったわ。流石に会議で忙しいみたいね」

 カリン先生、気を使って呼びに行ったみたいだ。

 シンゴ王子はいいのだけどカーチャ王女にはあまり近づきたく無い俺としては、ありがた迷惑であったりするのだが……。

「ざ、残念ですね。王子と王女は、また今度誘うとして、そろそろ出掛けましょうか?」

 来れないことを幸いにと話を終えた。

 ちなみにルリも誘ったのだが買い物に興味は無いらしく窓際の暖かいところで昼寝を決め込んでいた。


 寮を出て俺たち5人は、ぞろぞろと魔法学園の正門まで歩いていく。

 いつもなら馬車なのだけど、今日は急な話で手配が出来てないからだ。


 なので正門で馬車タクシーを捕まえようということになったのだが。

「あれ、1台も停まってませんね。いつもなら休日でも数台停まっているのに」

 普段とは異なる事態にカリン先生、不思議そうに首を傾げていた。

 すると。

「街中は大騒ぎなのだろう? 渋滞も酷そうだし、こっちまで馬車が出てこれないのでは無いか? 待っていても仕方が無いし歩いて行こう」

 マリ教授が代案を出してきた。

「そうですね。もしタクシー見つけたら捕まえれば良いだけですものね。行きましょうか」

 その案に俺も同意して歩いていく事にした。

 他の皆も特に異論は無いようだったので。


 ワイワイと話しながら1時間ほど歩いただろうか、商業街に近付くにつれ人も増えてきていた。

 空き地では露店が所狭しと店を出し、客引きをしている姿が目に入る。

 そんな中。

「何処かで、ちょっと休もうか。マリ教授が辛そうだ」

 少し後ろを歩くマリ教授、気付けば足取りが覚束なくなっていた。

 皆がマリ教授を見て頷いている。

 どうやら研究ばかりしているせいか体力が足りないようだった。

 決して昨晩が激しすぎたせいではない――と思う。


 そんな俺の提案に。

「すぐそこに、美味しいお団子のお店があります。そちらで如何でしょう?」

 直ぐに反応しオススメの店を教えてくれるアズキ。

 奴隷になってからは、ほとんど街には出てないなずなのに、こう言った店にはめっぽう詳しいのであった。

 一体どこから情報を得てるのかわからないが。


「そこに行こう。皆は先に行って席を取っといてくれ。俺はマリ教授とゆっくり行く事にするよ」

 元気な3人には先に行って貰ってマリ教授を待つ俺。

「マリ教授、大丈夫ですか? あそこの団子屋で一休みしましょう」

 少し先の店を指さした。


「すまないな。歩いて行こうと自分で言っておきながらこの体たらくだ。研究ばかりして、外に出なかったツケが回ってきたようだ」

「復元魔法も復活した事だし、しばらくは研究も休んで色々出回って行けば良いでは無いですか?」

「いや、そうは行かない。他にも復活させたい魔法が山積みなんだ。トモマサ君の協力があれば、復活出来る可能性がある筈なんだ。休んでいる暇は無い」

 マリ教授、かなりの仕事中毒に陥ってるようだ。

 これは、また俺が一肌脱がないといけないな。と思いながらマリ教授の手を取った。

 二人、手を繋いで団子屋に向かって歩いて行く。

 すると手を繋がれたマリ教授、少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

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