第98話2.36 閑話 シンイチロウ王子の悩み
夏休み前のある日、俺は王城図書室で
「うーん、料理のレシピも良いんだけど、今欲しいのは、材料力学の本なんだよなぁ。前きたときに見た気がするんだけど、どこにあったかなぁ」
王城図書室、その中でも梵書の扱いを受けかねない分野の本を探している。
「お、金属学か、これでも行けるかな?」
時空魔法で保存されている本を取り出し読み始める。
学生時代に一度学んだ分野ではあるが、ほとんど忘れているので1から勉強である。
集中して読んでいるところで、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「トモマサ様、トモマサ様。お忙しいところ申し訳有りません」
気づいた俺が顔を上げるとシンイチロウ王子が萎れた顔で立っていた。
「これは、シンイチロウ王子。ご無沙汰しております」
「いや、トモマサ様、お忙しそうな所、申し訳有りません。少し相談があるのですが、宜しいでしょうか? あと、ここには、王族かヤヨイ様の関係者以外は入れませんので、もっと楽に話していただいて構いません」
いや楽にと言われても次期王様には敬語が1番楽なんですけど。
「まあ、話し方はさておき。相談ですか。私に出来る事なら良いのですが。調べ物も、そんなに急ぎではないですので今お聞きしても宜しいでしょうか?」
「あ、いや、シンゴの様に普通に話して欲しいのですが……。無理は言えないですね。それで、相談なのですが、実は復元魔法で復元して欲しい部位があるのです」
復元? 不思議に思った俺はシンイチロウ王子を足元から見ていく。
「シンイチロウ王子、何処か欠損部位があるのですか? 見た限り問題なさそうですが」
そう、シンイチロウ王子、全くの健常者のように見える。
「確かに、生きて行く上でほとんど問題ないのですが……」
シンイチロウ王子とても言いにくそうだ。
マリ教授はアソコの膜を復元させたかった様だし、シンイチロウ王子にも何かあるのだろう。
ただ、男に膜は存在しないので何かは見当が付かないが。
「遠慮せずに言ってください。誰にも言いませんから」
「そ、そうですね。では、遠慮せずに。……実は頭髪です。髪の毛を復元したいのです。このままでは妻に捨てられてしまいます」
シンイチロウ王子の言葉に、俺の視線は思わず上の方を見てしまう。
確かに、薄い。
まだ20代だというのに、既に頭皮が見えそうなほどだ。
見てるだけで俺は哀しくなって来た。
俺も30歳を前にして髪が薄くなっていた事を思い出したからだ。
それでも妻に捨てられるとは思えないが――俗に言う鬼嫁なのだろうか?
「す、すまん、シンイチロウ王子。俺の家系は昔から若ハゲが多いんだ。俺もそうだったが苦労をかけるな」
「いえ、トモマサ様を責めている訳ではないのですよ。父上も30前には薄かったと聞いてますし」
やっぱり家系なんだな。
1000年後の子孫なのにそんな変なところだけ残ってるってどれだけ優性遺伝なんだ。
「すぐに復元魔法をかけるよ」
「いえ、お待ちください。実は既に復元魔法が使える治療師にも魔法を掛けてもらったのです。何度も。ですがダメだったのです。毛は伸びるのですが新しくは生えて来ないのです。そこで恐れ多いのですが、トモマサ様の知恵をお借りしたく相談に参りました」
なるほど。
既に復元魔法を試したのね。
しかし何で復元しないんだ? ハゲの原因が加齢だからか? でも全員が禿げる訳ではないんだよな。
遺伝だからか? うーん、人間が獣人になったりエルフになったりするこの
「取り敢えず、一度試して見ますね」
「は、はい。お願いします」
「『復元(レストレーション)』」
お、一応発動した。
シンイチロウ王子の頭皮に産毛がちょっと生えた。
「と、トモマサ様。う、う、産毛が生えました‼」
シンイチロウ王子、髪を触りながら大絶叫である。よほど嬉しいらしい。
気持ちは分かる。分かるよ。
でも少し静かにして欲しい。
確かに発動はしたのだけど使用魔素量が半端ない。
10000も使ってる。
ある意味失敗だ。
だが知識はあるらしい。
その知識を特定するのが難しいのだけど。
俺は喜び叫んでいるシンイチロウ王子をほったからかして、昔、ハゲで悩んでいた時のことを考える。
あの時はネットでいろいろ調べたな。
ハゲの原因。
ストレスとか食生活とか頭皮の汚れとか色々書いてあった気がするけど、どれも漠然としすぎなんだよな。
もっと、こう科学的な原因があった気がするんだ。
何だっけか? 眉間にしわを寄せて脳みその奥の方を探ってみる。
「あ、あの、トモマサ様。どうされましたか? 成功ではないのですか?」
産毛が出て浮かれていたシンイチロウ王子だが俺の渋い顔を見て冷静になったようだ。
「ん、ああ、使用魔素量が多くてこのままでは、一般で使えないのですよ。ですので、どの知識が必要か考えてるんです。ちょっとお待ちください」
「はい、わかりました」
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