第111話3.8 叱責
「あなた、あなた!いつまで寝てるの!!早く起きなさい!!!」
『ばし~~ん』という音と共に俺が目を開ける。
すると、そこは見慣れた我が家だった。
そして横には妻がいた。
「あれ、睦月。……俺は死んだのか?」
「何言ってるの! まだ生きてるわよ」
「え、という事は、ここはまた夢の世界か。えっと俺は、何してたんだっけ? えっと、あ、ドラゴンと戦ってたんだ」
「戦ってた? どこがよ! あなた、後ろの方でチョロチョロしてただけじゃないの? 自分の彼女達を矢面に立たせて何してるのよ全く。あの子達を守ってあげるのではなかったの? 早く起きて助けなくいいの?」
睦月が、鬼の形相で非難してくる。
「え! 心外だな。ちゃんとサポートしてただろ? それに、俺なんかよりあの子達の方が強いんだから仕方ないだろう。悲しいけど。ドラゴンもあの子達だけで倒せるよ。きっと」
「あなた……本気で言ってるの。本当にあの子達がドラゴンなんて強大な魔物を倒せると思ってるの?」
「え? 倒せないの?」
俺の言葉を聞いた、睦月、さっきまでとは打って変わって哀しげな表情で語りかけてくる。
「そんな事、出来るわけないわ。あれは、上級ドラゴンよ。これまで、誰も倒した事のないほどの脅威なのよ。現に今、彼女達は窮地に追い込まれてるわ」
「上級? 下級じゃなかったのか?」
「ええ、進化個体よ」
進化した上級ドラゴン。
これまでに誰も倒した事のないドラゴン。
その言葉が、俺の頭を駆け巡る。
そして漏れ出た言葉は――
「……無理だ。俺がいたところでそんなのに勝てるわけがない」
だった。
「諦めるの?」
変わらず悲しげな顔の睦月。
だが
「ツバメ師匠の剣術、アズキの体術、カリン先生の属性魔法、カーチャ王女の回復魔法、シンゴ王子の戦闘術、そんな個性が集まっても勝てない相手に、俺が出来る事なんてないよ。俺は、ただの一般人なんだぞ。剣も魔法もまだ一年も習ってないんだぞ。……やっぱり無理だ……」
やはり結論は変わらない。
だいたい俺は、子供の頃から喧嘩すらした事がない臆病な人間なんだ。
その俺が、上級ドラゴンなんて倒せるわけがない。
俺が首を横にしていると声が聞こえた。
「勝てるわよ。あなたが全力を尽くせば」
「適当なこと言うな!」
睦月の言葉に、俺は怒りの声をあげた。
あまりにも無責任な声に聞こえたから。
でも睦月は引かない。
「適当では無いわ。勝てるわよ。そのあなたの膨大な、それこそ、上級ドラゴンすら凌ぐ魔素と21世紀の知識があれば」
思いを伝えてくる。
さらには
「あんな、みんなの後ろでチョロチョロ魔法使ってるだけで勝てるわけないでしょ! もっと考えなさいよ。折角、知識があるんでしょ? 何遠慮してるか知らないけど、あなた今まで、全力で考えて、考え抜いて魔法使ったことあるの?」
詰問口調でまくしたてる睦月。
俺は閉口するしかなかった。
「それにね、あなた、このまま諦めて、また弥生に寂しい思いさせるつもりなの?」
「ッ……」
痛いところを付いてくる睦月。
だが、俺には何も思いつかない。
俺が、どれだけ頭を使っても、某ラノベの腹黒メガネみたいな策士にはなれそうには無かった。
それでも考えなければ、娘のために、彼女たちのために、と頭をひねる俺。
そんな俺に
「本当に困った人ね。魔道具の開発には、あれだけ頭が回るのに。昔から言い争いですら苦手だったものね。今回だけは、時間も無いしヒントをあげるわ。だからちゃんとあの子達を守ってあげるのよ。もちろん弥生もね」
苦笑交じりの睦月は、俺の耳元に口を近づけて囁いた。
「〇〇に〇〇〇をかければ良いのよ。さぁ、行ってらっしゃい」
そんな声を聞きながら、俺は夢から目覚めて行った。
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