反撃②
レムリス侯爵邸に到着した一行を見て門番の兵士達が一行を制止しようと立ちふさがった。
「止まれ!! なんだ貴様らはここはレムリス侯爵邸だ。きさまらのような下賤な者達が来て良いところでは無い!!」
兵士の言葉は当然のものであるが今のレムリス侯爵家の状況を考えるとこの態度は明らかに悪手であった。
「私の名はアルト=ヴィレム=ヴァイトスだ。貴様の職務に忠実な市井は評価するがそれが今回の場合は明らかに悪手だ」
「なんだと……?」
アルトの自信たっぷりな言葉に兵士達は明らかに狼狽えている。王族の名を語るものは厳罰に処されることになっており、そのためにそのような事をする者は極少数であるため兵士達の中に“本物ではないか”という疑念が生まれたのだ。
「嘘と思うのならそうすれば良い。私の後ろにいる騎士の盾に刻まれた紋章が何か分からぬほどお前は無知か?」
アルトが親指で指し示した先の護衛の騎士の盾を兵士が見ると明らかに兵士は狼狽え始めた。盾に彫られているのはヴァイトス家の紋章である事に気付いたのだ。
「ま、まさか……本当に……?」
兵士達は明らかに狼狽えている。だがアルトが本物かどうか判断をつけることは出来ない。このような状況ではとにかく正解を確信すると言うことは事実上不可能なのだ。
「お前達、この方達は本物だ」
そこにシュレイが兵士に告げる。領軍に所属する騎士であるシュレイの顔は兵士達も知っているのだ。
「し、しかし……ギーク卿……あなたは軍事裁判にかけられることになった裏切り者だと聞いている。そんな人の話を信じるわけにはいかない」
兵士の言葉に真っ先に反応を示したのはアンジェリナである。アンジェリナにとってシュレイは最も大切な存在である。そのシュレイを侮辱されて心穏やかに出来るほどアンジェリナは大人しくしているような事はしない。
「黙りなさい!! 兄さんを侮辱して只で済むと本当に思っているの!!」
アンジェリナの言葉に兵士は気圧されたかのように一歩後ろによろめいた。いや、アンジェリナの言葉に気圧されたと言うよりも放たれる敵意、殺意に兵士は後ろによろめいたのだ。
「レムリス侯爵家は今、王家への反逆罪の容疑がかけられているのよ。あなた如きの判断なんかどうでも良いわ。さっさとレムリス侯爵家の連中に誰がやって来たかを伝えに走りなさい!!」
アンジェリナの言葉に兵士は明らかに狼狽え始める。アンジェリナから伝えられた王家への反逆罪という言葉が気になって仕方なかったのだ。
「レムリス侯爵家が犯罪者として断罪されればあんたもあんたの家族も重い罰を受ける事になるでしょうね。それでも良いの!?」
「しょ、少々お待ちください」
アンジェリナの言葉に兵士は狼狽えながら屋敷の方に走っていく。兵士が選んだのはもっと上の立場の者に判断してもらおうと言うことである。悪く言えば上司に責任を押しつけたと言うことなのだが、上司の役目の一つは責任を取ることなのでそれを責めるというのは誰にも出来ない事だろう。
「アンジェリナ、良くやった」
シュレイが褒めると先程までのアンジェリナとは打って変わってにへら~と表情を緩ませた。
「よしよし、でもアンジェリナ、あんまりそう激高するな。兄さんは心配だぞ」
「はい、もちろんです。兄さんが望むならお淑やかにでもなんでもなって見せます!!」
シュレイの言葉にアンジェリナがニッコリと笑って宣言する。
(((((アンジェリナってチョロすぎるだろ!!)))))
アディル達は心の中でアンジェリナに突っ込みを入れる。いくら何でもシュレイへの態度があからさますぎるという思いがあったのだ。
「そうか、でもお前は俺のために自分を偽る必要はないぞ。俺はお前にはとにかく幸せになって欲しいからな」
「私の幸せは兄さんと一緒にいることです。兄さんこそもう自由なんですからね」
「そうだな。この件が終わったら王都に行く事にするか」
「はい♪ いつでも行けますよ♪」
シュレイとアンジェリナの会話にアディル達は微妙な表情を浮かべた。どうもお互いの好意が微妙にすれ違っている気がしたのだ。
「ねぇ……ちょっとだけアンジェリナが可哀想になってるんだけど」
「奇遇だな……俺もだ」
「私も……」
「しかし、気付かないなんてシュレイもおかしいんじゃない?」
「アンジェリナが可哀想よね。応援しなくちゃ」
アディル達は二人を見つめながらヒソヒソと会話を交わしているが幸いにもアディル達の会話は二人には聞こえていないようであった。アルト、ベアトリスもまた二人の様子に苦笑を浮かべていた。
要するに二人には生暖かい視線がふんだんに注がれていたのであった。
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