王都での初任務②
王都を出発して二日経ったアマテラス一行はゴブリン達の巣穴を探している。といってもアマテラス一行が動き回って探しているわけではなく、探しているのは式神達である。アディルとエリスの式神のウサギ約百匹がガルアング森林地帯に放たれ現在巣穴を探しているのだ。
「ふへへへへへ♪」
「うへへへっへ♪」
「えへへ~カワイイ♪」
「この可愛さは反則よね~♪ ずっと愛でてられるわ♪」
アディルの後ろで女性陣が式神のウサギをそれぞれ一体ずつ捕まえて思いっきり愛でているのをアディルはため息交じりに眺めている。
アディルとエリスが式神を放とうとした瞬間にヴェル、エスティル、アリスは一匹ずつ捕まえるとそのまま抱きしめてしまったのだ。エリスもその光景を見て触発されてしまったらしく放つ前の一匹を捕まえると三人同様に抱きしめると式神を四人は愛で始めたのであった。
(まぁ良いか……みんな切り替えは早いからな。それに美少女達が動物と戯れる姿というのは目に優しい)
アディルはそう思うと四人の行動に対して苦言を言うような事はしない。四人は切り替えが早いために不穏な気配を感じた瞬間に戦闘モードに切り替わるために何の心配もしていない。逆に任務中に常に張り詰めた状態でいると大事なところでキレてしまい動くことが出来なくなる可能性があるのだ。
「「「「ぐへへへへへ♪」」」」
四人の美少女達の残念は笑い声を聞きながらアディルはそろそろ止めようかと思い始めていた。
アディルは背後でヴェル達の残念な笑い声を聞いていた所にエリスが突然立ち上がると抱きしめていたウサギを地面に放す。
「見つけたわ。さ、みんなここからはお仕事よ」
エリスの言葉にヴェル達も抱きしめていたウサギを放すと即座に立ち上がった。顔も引き締まっており先程までのウサギを抱いてデレデレに緩みきっていた人物達と同一人物であるとはとても思えなかった。
「よ~し、頑張るわよ!!」
「うん」
「ふっふっふ!! 今の私達に負けはないわ!!」
「後でまた愛でることにしようっと」
四人はニコニコしながら言うとエリスが全員に向けて言う。
「こっちよ。ここから一㎞程行った所に洞穴があって、そこにゴブリンが入っていったわ」
エリスが素言うと案内を始める。アディルがエリスの隣に立ち、エスティルがエリスのその反対に立つ。もちろんエリスの護衛の為でありヴェルとアリスはその後ろを警戒しながらエリスの案内に従って進んでいく。
幸いにもアディル達はゴブリン達の索敵に引っかかる事なく順調に進み、ゴブリン達が入っていったという洞穴に到着する。
「さて……作戦はどうするの?」
ヴェルが仲間達に尋ねると全員の視線が交叉する。そしてエリスがまず口を開く。
「まずは私が式神を放って急襲するわ。当然、私の放つ式神は
「確かに混乱するだろうな」
「ええ、次にアディルの式神のあの鎧武者を送り込みましょう」
エリスは続ける。その意見に対してアディルは即座に頷いた。
「で、しばらくしたらアディルが式神を撤退させれば……」
「洞穴から出た所を一気に叩くと言うわけだな」
「うん」
アディルの意見にエリスは頷く。エリスの作戦はまず混乱させ、ゴブリン達の怒りを煽り、外に出たところを一網打尽というものである。この作戦であればアディル達はゴブリン達の巣に入り込む必要はないために危険性はかなり下がる。
「私はエリスの作戦に賛成」
「私もよ」
「私もそれで問題無いけど、周辺に抜け穴がないかを確認してから行うべきね。肝心のゴブリンロードを逃した場合は任務達成とはいかないし」
アリスの意見に全員が頷く。確かにこの洞穴一つだけが出入り口とは言えない以上、いきなり考え無しに突入させたら取り逃がすことになってしまうのだ。
「よし周辺に式神を向かわせて抜け穴がないかチェックする。作戦開始はそれからでいいな?」
「勿論よ」
アディルの言葉にエリスが即座に返答する。残りの三人も黙って頷く。それを受けてアディルとエリスは式神を周囲に展開する。すでにウサギ達もこの周辺に潜ませていたためにそのまま抜け穴を探させたのだ。
それから三十分程アマテラスのメンバーは気配を消し抜け穴がない事を確認した。その際に何体かのゴブリンが出入りをしたのだが、ゴブリン達はアディル達に気付くことはなかったのであった。
「よし……エリス」
「わかったわ」
アディルのすすめにエリスは即答すると懐から出した符から
「行け!!」
エリスが一声言うと
『ギェェェェェェ!!』
足を咬み千切られたゴブリンの絶叫が放たれるが二匹の
「どう?」
エスティルがエリスに尋ねるとエリスは親指を上げてニヤリと笑う。どうやら上手くいっているようである。それからしばらくエリスはじっと洞穴を見ていたが再び口を開く。
「そろそろアディルの式神を送り込んでちょうだい」
「了解!!」
エリスの言葉にアディルは端的に答えると懐から符を取り出すと地面に放る。すると四体の鎧武者が現れそのままカタナを抜くと洞穴に向けて突っ込んでいく。
「どんな感じなの?」
エスティルが尋ねるとエリスが返答する。
「どうやら混乱から立ち直ったみたい。私の式神達がやられ始めているわ」
「なるほどね。アディルの方は?」
「まだ接敵はしていないな。だがそろそろだ」
アディルがそう答えた数十秒後にアディルの口から接敵した事が告げられた。
「ん……一体やられたな……ゴブリンの上位種が出てきたみたいだな」
アディルの言葉にエリスが言う。
「それじゃあ、これからが本番よ。アディル、式神を撤退させてちょうだい」
「わかった」
アディルがそう言うとアマテラス全員が武器を構えると洞穴の所に移動する。エリスとヴェル、アリスが洞穴の入り口の前に立ち、洞穴の両隣にアディルとエスティルが隠れる。
「見えた!!」
エリスが叫んだ瞬間にヴェルが
『ウォォォォォッォ!!』
後に続くゴブリン達はその有様を見て怒りの咆哮を上げるとヴェル達に向かって突っ込んできた。ヴェル達がわざわざ洞窟の前に立っていたのはヴェル達にゴブリン達の意識を向けるためであった。
そして真っ正面のヴェル達に意識が集中すれば必然的に洞穴の横にいるアディルとエスティルは意識から外れ奇襲の成功率が跳ね上がるのだ。
ゴブリン達はヴェル達に向け怒りの咆哮を上げながら洞穴を飛びだしてきた。アディルとエスティルは最初の数人をやり過ごすと剣を振るった。
『ギャアアアアアア!!』
『ッギィィィィ!!』
二体のゴブリン達の絶叫が響く。アディルとエスティルの腕前であればゴブリンは自分が死んだ事にすら築くことなく命を終えさせることも出来たであろう。だが敢えてそうしなかったのは仲間の絶叫は怒りもだが動揺、恐怖を巻き起こすことが多いために敢えて上げさせたのだ。
仲間の絶叫に振り返ったゴブリンに対してアディルは頭頂部からカタナを一気に振り下ろした。振り下ろされたカタナはゴブリンの頭頂部からそのまま上半身を両断すると二つに分かれたゴブリンの死体は地面に転がった。
アディルは二体のゴブリンを斬り捨て、さらにカタナを振るう。アディルの振るう刀の刀身の色は黒い。前回のハザルとの戦いでカタナを失ったアディルは切り札的存在であったガヴォルム製のカタナを使用している。カタナの銘は『
アディルの振るった剣閃はゴブリンの首をいきなり二つ刎ね飛ばした。真っ二つに両断された仲間の死体、落ちた首を見てゴブリン達は動揺する。アディルの戦闘力が自分達を遥かに凌駕する事を本能で悟ったのだ。だが自分達を遥かに上回る存在がアディルだけでない事を次の瞬間に思い知らされる。
エスティルも魔剣ヴォルディスを抜き放つと近くにいたゴブリンの首を斬り飛ばした。アディルとエスティルがその凄まじいばかりの武勇を発揮している事にゴブリン達の動揺は収まることはない。
加えて偽りの撤退を行っていたアディルの式神二体も取って帰りゴブリン達を殲滅する戦いに参加していた。
その時一際大きなゴブリンが現れる。ゴブリンロードの登場にゴブリン達の様子に安堵感が現れる。どうやらこのゴブリンロードはゴブリン達に頼りにされている存在らしい。
だが、このゴブリンロードが現れた安堵感は次の瞬間にはあっさりと消滅してしまう。頭頂部から突然真っ二つにされたゴブリンロードはそのまま地面に倒れ込んだのだ。斃したのはアディルでもエスティルでもない。ヴェルであった。
ヴェルはゴブリンロードが登場した瞬間に薙刀を形成すると長さを調節しゴブリンロードを頭頂部から斬り捨てたのだ。
「よし!! みんなトドメ!!」
エリスの言葉にアディル達は行動で了解の意を示した。動揺するゴブリン達は頼りのゴブリンロードが斃された事でもはや希望が潰えたのだ。そのままアディル達はゴブリン達を斬り伏せる事に成功し、わずか三十分程でゴブリン達は駆逐されたのであった。
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