反撃①

「め、滅相もございません!! 決して王家へ弓引くことなどあり得ませぬ!!」


 スタンレーは汗を大量に流しながらエウメネスへ弁解を行っている。その様子はまったく嘘偽りを言っているゆには見えない。実際にスタンレーは毒竜ラステマが襲撃した宿屋に王族であるアルトとベアトリスがいることを全く知らなかったのだからこれは演技ではない。

 だが、アルトにしてみれば大切なのはスタンレーが知っていたかどうかではない。問題は毒竜ラステマが王族を襲撃し、それに客観的にレムリス侯爵領軍が関与した事が問題なのだ。


「ふ……ならば尋ねよう。毒竜ラステマになぜお前達は協力した?」


 アルトは余裕たっぷりにスタンレーに尋ねる。すでにレムリス侯爵家を追い詰める材料は揃いに揃っている以上それを出すだけで問題無い以上、アルトの余裕も当然である。


「そ、それは我々はその者達が犯罪者を捕らえに来たという証言から逃がさないように協力を要請されました。それ故でございます」


 スタンレーは舌をフル回転させアルトに告げる。アルトは冷たく嗤いながらスタンレーの言葉を聞いており、まったく心が動かされている様子はない。


「ところが実は我らを殺しに来た暗殺者であったわけだ。お前達はそれを知って協力したのであろう?」

「そ、そのような事はござません!!」

「お前は必死になって言っているがすでに毒竜ラステマが襲撃にきてから得意気にこの宿屋にいるものは皆殺しにすると発言したし、貴様ら領軍もそれに協力しているという事を発言しているのを全員が聞いている」


 アルトの言葉にスタンレーは顔を青くする。実際の所、乗り込んできた毒竜ラステマは領軍の事は何一つ言っていないのだが毒竜ラステマとレムリス侯爵家の関係はすでに分かっている以上、アルトとすればやりとりを考えるのは容易な事である。


「そ、それは……」


 言い淀んだスタンレーに対しアルトはニヤリと嗤う。ここでそんなわけがないと突っぱねることが出来ないのがスタンレーの限界であろう。


(この程度の尋問で答えに窮するとは……)


 アルトは内心でため息をつきながらスタンレーを見やる。


「この程度の質問に答えられないとはな……貴様らが王族暗殺未遂の共犯である事は間違いないようだな」

「ひ……」

「おい、エウメネスこいつを捕縛しろ!!」

「はっ!!」


 エウメネスはスタンレーに近付くとあっさりとスタンレーを取り押さえた。自分達の上官が取り押さえられた事に対して明らかに狼狽している。自分達の置かれている状況がいかに厳しいか嫌が応にも見せつけられた思いであった。


「こんな小者で遊んでいる場合ではないな」


 アルトは冷たく言い放つと取り押さえられたスタンレーは顔を青くするだけで怒りの表情すら浮かべることは出来ない。


「さて、そろそろ行こうか。レムリス侯爵家に乗り組むことにしようか」


 アルトはアディル達に向けて言うとアディル達も頷く。


「こいつで良いか……」


 アディルはロジャールの頭をむんずと掴みあげる。


「え~と、一応こいつらもつれてこうかしら」


 エリスがジャルムとウルディーを見て言うと他のメンバー達も賛同した。


「そうだな。どう考えても連れて行った方が良さそうだ。追い込むネタは多いに越した事はないな」


 アディルの言葉にエリスは笑うと作成していた式神に命令するとウルディーとジャルムを両脇に抱えて残りの二体がその両側に付いた。


「よしそれでは乗り込むとしよう。反撃は出来るだけ早くするに限る」


 アルトはそう言うと全員が頷くと侯爵邸へ移動を開始する。アルト、ベアトリスにアマテラス、護衛の騎士達、シュレイ、アンジェリナ、そして毒竜ラステマの三名とスタンレーである。


 一行が移動を開始したのを領軍は呆然と眺めている。制止しなかったのは自分が反逆者として処刑されるのを避けるためである。


 対してアディル達は余裕の表情で歩き出している。一方的な蹂躙が展開されようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る