申請①
「ここで何があった。説明せよ!!」
大音量で先頭の竜騎士が威圧的にアディル達に言い放った。
(まぁ、この態度は当然だよな)
アディルは竜騎士の態度に別に不快なものを感じない。むしろ当然とさえ思っていた。死体が散乱しているという状況を考えれば犯罪者として対処するのは当然だからだ。
「無礼者!!」
そこにアリスが竜騎士達を怒鳴りつけた。アリスの言葉に竜騎士達は一瞬であるが驚きの表情を浮かべた。
「私はレグノール選帝公家のアリスティア=フレイア=レグノール!! 選帝公爵家の者に対して詰問するとは何事だ!!」
アリスが名乗ると竜騎士達は顔を見合わせる。その様子からアリスの名を知っているのだろう。
「本当にレグノール嬢なのですか?」
先頭の竜騎士が恐る恐るアリスに尋ねる。この時、アリスの放っていた雰囲気はいつもの親しみのもてる雰囲気ではなく、凜とした選帝公爵家の令嬢としての気品溢れる雰囲気のものである。
「それを信じるか信じないかはあなたの自由よ。でも、あなたは自分が何者か名乗らないのは限りなく無礼である事だけは間違いないわね」
「う……」
「それとも白竜騎士団とはその程度の常識も弁えてないのかしら?」
アリスの言葉に竜騎士達は
「失礼いたしました。私は白竜騎士団所属のリトス=リーゼルガルドであります。選帝公爵家の方に対し無礼を働きました事を謝罪させていただきます」
リトスと名乗った竜騎士は一礼するが、その目には警戒感が含まれている。現在の彼の態度は間違いなく“貴人への敬意”と“慇懃無礼”との間のものであった。むしろ若干慇懃無礼よりと言える。
「謝罪を受け入れるわ。それでリーゼルガルド卿はどうしてここに?」
アリスは謝罪を受け入れると先程までの厳しい表情を崩し、柔らかな雰囲気を発し始める。このあたりの硬軟の態度の使い分けは流石にアリスが選帝公爵家の令嬢であると信じさせるに相応しいものである。
「はっ、実はこの周辺で膨大な魔力の発生源が観測されたために我々が先遣隊として派遣されました」
「なるほどね。それではイルメス卿もここに来るのかしら?」
アリスの言葉にリトスは緊張の表情を浮かべた。
「どうしたのかしら? 私はイルメス卿とは面識がありますし、イルメス卿が部下に任せきりにするような方ではない事も知っています」
「……団長はただ今出撃準備中です。我らの後に……」
「そう、それならその時に私が本物のアリスティアである事が証明できるわよね。イルメス卿が叔父に靡くような卑劣漢でなければ良いけどね」
アリスはそう言うとリトスは明らかに気分を害したような表情を浮かべた。
「なるほど大丈夫そうね」
リトスの表情を見てアリスはニッコリと笑った。最初の詰問から徐々に雰囲気を柔らかくして印象を改善していき、輝くような笑顔で一気に好印象にもっていったのだ。
「レグノール嬢は今までどこに?」
リトスの言葉には先程までの疑いの感情がなくなっている。これは上司であるイルメスに自分がアリスティアであることを証明してもらう事を望んだ事によって、リトスはアリスが本物の行方不明となっていたレグノール家の令嬢であると確信したのだ。
「この大陸ではない人間達の王国であるヴァトラス王国よ」
「何故、そのような所に?」
「簡単に言えば叔父が私の両親を殺して身の危険を感じたからよ」
「なっ」
アリスのあっさりとした返答にリトスだけでなく他の竜騎士達も驚きの表情を浮かべた。
「私としては叔父がどうしてるかが気になってるのよ。リーゼルガルド卿、叔父の統治の評判はどう?」
アリスはそう言ってリトスの反応を待つ。それを察したリトスはアリスに語り出した。
「レグノール領で大きな問題は聞いておりません。現選帝公は堅実な統治を行っているとの話です」
「そう。叔父上は優秀な為政者であるのは間違いないからその評価は納得ね」
アリスは淡々と言う。そこにはまったくの感情の揺れが感じられない。それが逆にリトスには恐ろしかった。普通、両親の仇の話をすれば感情は揺れ動くものであるのにまったく変化しないことはその精神力、いや決意の強さが伺い知れるというものだ。
「リーゼルガルド卿の言葉からすれば一族も叔父の味方に
アリスは小さく嗤う。アリスの
(アリスは一族の連中を事実上見限ったな)
アディルはアリスの言葉と
「ふふ……嗤えるわね。あそこまで偉そうに正義と一族の利益のためというのを私達に強いておきながら、自分達は保身のために……良い度胸ね」
アリスの淡々とした声にアディル達はアリスの怒りの深さが表れている事を察した。
「考えようによっては遠慮しなくて良いと言う事よね」
ヴェルの言葉にアリスはニヤリと嗤った。ヴェルの言葉はアリスの心情を代弁したものであるのは間違いないだろう。
「公女様、今連絡が入りました。これより団長が出るとのことです」
リトスとは別の竜騎士がアリスにおずおずと報告する。アリスの態度と放たれる雰囲気に歴戦の竜騎士ですら及び腰になってしまっているのだ。
「そう。どれぐらいでここに来るの?」
「はっ、おそらく十分程かと思われます」
「楽しみだわ」
アリスの言葉に竜騎士はゴクリと喉をならした。
「レグノール嬢は何をなさるおつもりなのですか?」
リトスは意を決したようにアリスに尋ねるとアリスは傲然と言い放った。
「簡単よ。私は
「
「白竜騎士団には私達を皇都アルドネアまで送ってもらうわ」
アリスの言葉にリトスは承認したかのように一礼する。予想通りの返答であったために驚く事はなかったのだ。
「ふふふ、それじゃあイルメス卿を待つとしましょう」
アリスはニッコリと笑って言う
十分ほどして魔法陣が空中に数十個浮かび、そこから
「アリスティア!!」
その中の一際大きな竜騎士がアリスを見て嬉しそうに叫んだ。今までの話から推測するとあれがアリスの言っていた白竜騎士団の団長のイルメス卿であろうとアディル達は即座に察する。
「イルメス卿、お久しぶりでございます」
アリスの言葉はアディル達の推測が正しかった事を証明するものである。アリスの言葉を受けてイルメスは憮然とした表情を浮かべた。
「アリスティアよ。何故そのような他人行儀な口調なのだ?」
「申し訳ありませんが、イルメス卿にご迷惑をかけるわけにはいきません」
「迷惑?」
「はい。私は両親の敵である現選帝公のイルジードを
「アリスティア、お前何と言った? イルジードがエランを殺しただと!?」
アリスの言葉にイルメスだけでなく周囲の竜騎士達も動揺したような雰囲気を見せた。
「はい、私はイルジードが父を手にかけたのをこの目で見ました。そして、
「まさか……イルジードが本当にそのような……噂は真実であったのか」
「イルメス卿、私の言葉が正しいかどうかは
「確かにそうだが……それがどうして私への迷惑と言う事になるのだ?」
「私の敵は叔父であり、現選帝公です。その私に肩入れすればイルメス卿だけでなく白竜騎士団にも迷惑がかかることでしょう。ですが、任務の範囲内であれば少なくとも迷惑がかかることはないかと」
アリスの言葉にイルメスは渋い表情を浮かべた。アリスの言葉は正論であるがだからといって感情が納得しないのだろう。
「それに叔父の手の者が白竜騎士団の中にいないとは限りません。少なくとも竜神帝国の方々を
きっぱりと言い切るアリスにイルメスは目を細めて厳しい視線を向けた。
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