侯爵領へ⑦
アディル達一行の前に立ちふさがった男達に対して護衛の騎士達は殺気をとばす。この状況で戦闘モードにならないような気の抜けた者が王族の護衛になれるわけはないのだ。
「妙だな……」
アディルはその様子を少し離れた所から見ながらそう独りごちる。
「そうね」
アディルの言葉にエリスも訝しがりながら返答する。
「王都から出てすぐに野盗が現れる事もそうだが、これだけの護衛のいる一行を襲うという事自体があり得ない」
「うん。ただの野盗ではないと考えた方が良いわね」
「そういうことだ。みんな何があるか分からないから周囲を警戒してくれ。それからベアトリスは馬車に戻った方が護衛の方々が守りやすいのじゃないか?」
アディルの言葉にベアトリスは静かに首を振ると言った。
「う~ん……それはちょっと止めておいた方が良さそうね」
「どうして?」
「ここで私が馬車に戻ったら馬車に攻撃が集中する可能性があるわ」
「それはそうだが馬車の中の方が安全じゃないか?」
「ううん、もしあいつらの目的が王族だった場合に私とアルトのどちらを狙っているかを確かめる必要があるわ」
ベアトリスの返答にアディル達は驚いた表情を浮かべる。その驚きの表情を受けてもベアトリスの心には一切の揺らぎも見られない。
「私を狙っているのなら私を殺して利益のある者、アルトを狙えばアルトを殺して利益のある者が背後にいる可能性が高いわ」
「なるほどな……だがもう一つやつらの背後にいる者の可能性がある」
「あいつらがあなた達を狙っているという可能性でしょ?」
「ああ、この状況ならヴェルを狙っている可能性も考慮すべきだろうな」
アディルの意見にベアトリスは頷く。
「と言う事はレムリス侯爵家か……と言う事は侯爵家は私達がいることを知らないと言うべきね」
「それならあいつらを捕らえて背後に誰がいるか吐かせることにしましょう」
エスティルの言葉には野盗達に対して一切の情を排除したものであるのは間違いない。
「そうね。敵に容赦は無用よ」
エスティルの言葉に即座にアリスも同意を示す。加えてエリス、ヴェルも同意とばかりに頷いた。もちろんアディルとしてもエスティルの意見に賛成だ。どのような理由があろうとも敵対者に情けをかけるような事は自分達の身の危険を増すだけのことである以上、そもそも選択肢の中に入っていないのだ。
「そうだな。俺達の行動原理は“敵対者には容赦しない”だ。王族が近くにいてもそれは変わらないさ」
「決まりね」
アディルがそう言うと全員が頷く。アディル達の会話が一段落ついた所で護衛の騎士達が立ちふさがる男達に怒鳴りつける。
「お前達は何者だ。道を開けろ!!」
護衛の騎士の言葉は確実に男達への威嚇である。これで少しでも相手が怯んでくれれば戦いを有利に進めることが出来ると言う考えからだろう。しかし、男達は一切引こうともせずに威嚇を行った騎士を睨みつけている。
「俺達の目的はお前らじゃねぇ!! 俺達の目的はアマテラスとかいうハンター共だ!!」
男の一人がそう叫ぶと周囲の男達も同意するように頷いた。
「お前らは見逃してやる!! さっさとアマテラスとやらを出せ!!」
「そうだ!!」
「俺達の邪魔をするってんならお前らごとぶっ殺してやる!!」
男達はそう言うと一斉に武器を抜き放った。
(ふ~ん……あいつらが俺達の目を引きつけて……という事か……)
アディルは男達の狙いを看破するとさりげなく周囲の護衛の騎士達を見ると男達の狙いを看破したのは自分だけでなく周囲の騎士達もそうであることを察する。
「しかし、なかなかの手際だな。どうやら最初からここで網を張っていたというわけだな」
アディルの言葉にヴェル達も気付いたのか感心したように頷く。
「一体いつからここに詰めていたのかしら?」
「う~ん……結構前なのは間違いないんじゃない?」
「先手打って良いのかしら?」
「そうよね。わざわざここで待ち構えてやっているのも人が良すぎるわよね」
「よね」
エスティルとアリスの会話にアディル達も頷く。相手の狙いが分かっている以上、付き合うのもアホらしいと言うものである。
「お前達はたったそれだけで我らに勝てるとでも思っているのか!?」
護衛の騎士がそう言うと男達はニヤリと嗤うと片手をあげようとした。だがそれよりも早くヴェルが
「な……」
片手をあげようとした男は半分ほどあげた所で凍り付いている。自分達の罠が看破されていた事をこの段階で気付いたのだ。
「さっさと出てきたらどうなの!!」
ベアトリスが立ち上がって叫ぶ。ベアトリスの言葉に反応したのか、若しくは観念したのかはわからないが周囲の草むらから男達が一斉に立ち上がった。
周囲を取り囲む男達の数はざっと見た所、五十人前後である。
「ぶっ殺せ!!」
凍り付いていた男が片手をあげて叫びながら振り下ろすと男達が一斉にアディル達一行に襲いかかった。
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