各陣営模様②

「まさか全滅とは……」


 ラウゼルの呻くような声にジーツィルは沈黙する。


破局の騎士ダーツォルがあっさりとやられるとは思わなかった」

「うむ……あの小僧共を舐めたつもりはなかったが認識が甘かったと思わざるをえんな」


 ジーツォルとラウゼルの間には一つの鏡があり、そこにはアディル達の姿が映し出されていた。周囲には闇の竜人イベルドラグールの死体と自分達の配下である破局の騎士ダーツォルの死体が転がっていた。

 破局の騎士ダーツォルは、ジーツォル達、十二魔将ギルバルスの頭領であるジルベイル直属の騎士達であり、その実力は決して侮って良いものでは無い。

 しかし、結果はアディル達に完全敗北してしまったのだ。確かに闇の竜人イベルドラグールという想定外の存在がいたとは言え、結果だけ見れば蹂躙されたのだ。


破局の騎士ダーツォルは全滅……新たな戦力を借りることは出来ないな」

「ああ、この状況では同じ事だ。やはり我々が出るしかない」

「そうだな……ん?」


 ジーツィルは鏡に映った映像を見て訝しんだ。


「どうした?」

「竜騎士だ」

「何?」


 ジーツィルの言葉にラウゼルもまた鏡の映像に目をやると白い鎧を着込んだ竜騎士達がアディル達の元に姿を現したのが目に入った。


「音を拾えるか?」

「やってみる」


 ジーツィルがそう言うとしばらくして音声が聞こえ始めるがその声は非常に小さくか細い物である。

 現在使われている魔術は対象者に察せられないように超々高度の上空から撮っているために音声を拾うのは難しいのだ。


『それとも白………団…………の常……も………のかしら?』

「なんとか拾えるがまだ何を喋っているかわからんな」

「もう少し待ってくれ……」


 ラウゼルの言葉にジーツィルは魔法陣を展開させて少しずつ書き換えていく。


『なるほどね。それではイルメス卿もここに来るのかしら?』


 そして波長が合ったのかかなり小さい音であるが何とか拾う事に成功した。


「「よし」」


 ジーツィルとラウゼルは同時に小さく声を出した。小さく声を出したのは音声が聞き取れないことを避けるためである。


『この大陸ではない人間達の王国であるヴァトラス王国よ』

『何故、そのような所に?』

『簡単に言えば叔父が私の両親を殺して身の危険を感じたからよ』

『なっ』


 アリスと竜騎士リトスの会話を聞きながらジーツィルは思う。


(話の流れからしてあの娘は復讐のためにこの国に舞い戻ったと言う事か)


『簡単よ。私は竜神探闘ザーズウォルで叔父上を討つつもりよ。そしてレグノール一族も同様ね』


 そしてアリスの言葉の中にあった竜神探闘ザーズヴォルという言葉にジーツィルもラウゼルも互いに視線を交わした。

 それからイルメスがやって来てからのアリス達の会話を聞いていく内に竜神探闘ザーズヴォルについてある程度理解してきた。


『君達、アリスティアを頼む。この子は我が友の忘れ形見なのだ』

『もちろんです。俺達は必ず勝ちます』


 アディルとイルメスの会話を聞いた所でジーツィルとラウゼルは視線を再び交わし合うとジーツィルがラウゼルに告げた。


竜神探闘ザーズヴォルか……どうやらこの国の仇討ちの制度のようだな」

「ああ、中々面白い制度だと思う」

「確かにな。この仇討ち制度の面白いところは一対一ではなく、多対多を想定しているところだ」


 ジーツィルの言葉にラウゼルもまた頷く。


「この際、あの娘の仇側についてあいつらを始末するか?」


 ラウゼルはおどけたように言い、その言葉にジーツィルは考え込んだ。


(ラウゼル卿の意見は考慮に値するな)


「どうした?」


 ジーツィルが沈黙した事でラウゼルは訝しんだ。


「今のラウゼル卿の言葉、アリだな」

「何?」

「だから、あの娘の仇の側につくという話だ。もし断られた時であってもあの少年達と仇との戦いで疲弊した所を襲うというのが出来るかもしれない」

「正気か? この世界の者達と手を組むつもりか?」

「我ら二人だけであの者達を戦うのは危険ではないか?」

「……」


 ジーツィルの言葉にラウゼルは沈黙する。その沈黙こそがジーツィルの質問を肯定するものであるのは間違いない。


「ならば十二魔将ギルバルス全員で――」

「我らの主目的は?」


 ジーツィルの言葉にラウゼルは言葉に詰まらせると数秒おいてからラウゼルは言う。


「……イグリアス様の復活」

「その通りだ。そのために我ら十二魔将ギルバルスは動いている。我らが敗れることは無いと思うがそれだけイグリアス様の復活に時間がかかる事になるかも知れない。それは避けるべきではないのか?」

「正論だ……」


 ラウゼルの返答にジーツィルは頷く。


「それでは娘の仇を探すとしようか」

「そうだな」


 ジーツィルとラウゼルは互いに頷き合った。


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