各陣営模様③

 竜神探闘ザーズヴォルの申請が無事終わったアディル達はそのまま皇城にある離れにおいて竜神探闘ザーズヴォルの日まで過ごすことになった。


 この皇城にいる間、アディル達を傷付ける者がいないように近衛騎士団の護衛がつくようになっている。

 しかし、相手がレグノール選帝公と言う事でいつ手の者がちょっかいを出してくるか分からないと言う事で一切気を抜くような事はしていない。それでも野宿やどこかの宿屋などで宿泊するよりかは安全なのは確かである。


 食事の方は皇城の方から差し入れが入る事になっている。ここでもアディル達はそれを警戒無く食べるような事はせずに、駒にまず食べさせて安全を確認させて食べるようにしていた。

 現在のところ食事に毒が盛られた事は無いために大丈夫であるが少なくとも竜神探闘ザーズヴォルが終わるまではこのスタンスを崩すつもりはアディル達には一切無かった。


「さて、今日も始めるか」


 アディルがそう言うとアマテラスの面々は基礎訓練を始める事にする。アディル達は任務以外では基本的に基礎訓練を欠かすことはない。しかも、今回は皇城の一角でそれなりのスペースがあるため基礎訓練を行うにはもってこいなのだ。


 基礎訓練と言ってもアディル達のそれは決められたメニューがあるわけではない。各々が自分に必要だと言う事をやるだけのことだ。その際に他のメンバーに助力を頼むことはあっても“あれやれ、これやれ”と指示することはない。全員がプロ意識を持って取り組んでいる以上、余計な詮索はないのだ。


「エスティル、ヴェル。今日は練習に付き合ってくれないか」

「もちろんいいわよ」

「まかせて」


 アディルの言葉にエスティルとヴェルは快く了承するとそれぞれ武器を構える。もちろん本身ではなく訓練用の木剣である。

 ただヴェルだけは伸縮のイメージを掴むために薙刀ではなく棒を形成して基礎練習に臨んでいた。


「兄さん、今日は私とやりましょう。あ、もちろん徒手空拳ですよ。くんずほぐれつで行きましょう……ぐへへへ」


 アンジェリナがシュレイに徒手空拳の訓練を申し込んでいる。多少手つきがいやらしいのだがそこは誰も突っ込まないようにしている。邪魔したらアンジェリナの極低温の視線が突き刺さるからだ。


「あのなアンジェリナ。お前と練習するのは良いんだが……その手とぐへへは何とかならんのか?」


 シュレイのため息交じりの言葉にアンジェリナはさらに嬉しそうな顔をシュレイに向ける。


「ぐへへへ、兄さんが私と練習するのが良いって幸せ~♪」


 アンジェリナの言葉にシュレイはため息をつきつつアディル達に助けを求めるように視線を向けるがアディル達はシュレイの方を見ない。仲間とは言え火中の栗を拾おうというのはよほど追い詰められている場合にしかやらない行為である。


「さ、アリスとベアトリスは私の練習に付き合ってもらうわよ」

「うん」

「任せて」


 エリスがベアトリスとアリスに言うと二人は即座に返答する。


「あなた達用意しなさい」

「「「「「はっ!!」」」」」


 エリスが言うと駒の男達がエリスの周囲に陣形を構築し始めた。エリスは駒の男達を指揮する練習を行っていたのだ。少しずつだが指揮能力も上がってきていた。


「今回はアリスと毒竜ラステマの混合部隊ね。ベアトリスはアリスをお願いね。第一分隊はベアトリスの護衛よ」

「はっ!!」

「第二、第三分隊は毒竜ラステマのうち二人を食い止めなさい。第四分隊は私を護衛しつつ、毒竜ラステマを迎え撃つわよ」

「了解しました!!」


 エリスはそう配下・・の者達に告げると駒の男達は一斉に平伏した。もはやこの段階でエリスに逆らおうと言う者は駒の中にはいない。

 一度エリスを侮った態度をとった駒の一人がエリスの操る式神に半殺しにされて以来、エリスに対して絶対服従をするようになっていたのだ。

 ちなみにエリスとすれば駒の連中に心を全く許した訳ではない。大人しくしていた所で彼らは闇ギルドの人間である以上油断すれば寝首をかかれる危険性を考慮に入れていたのだ。


 アディル達は基礎訓練を行い来たるべき竜神探闘ザーズヴォルに備えていたのだ。


 特にアディルにとっては生活の心配なく修練できる生活は最上のものであろう。


 しかし、この楽しい気分に水を刺す者もいたのである。



 *  *  *


 その日、皇城に一人の来訪者が現れた。目的は“アリスに会いたい”というものであった。

 アリスに面会を希望したのは“セルゲオム=ルード=レグノール”である。セルゲオムはアリスの祖父の弟であり、アリスから見れば大叔父にあたる人物だ。爵位は侯爵であり、レグノール一族において長老的な立場である。

 

「アリスはどうするつもりだ?」

「まぁ用件は分かっているけど、一応会ってみても良いかな」


 アディルの言葉にアリスはニヤリと嗤って会うことを了承する。

 竜神探闘ザーズヴォルに参加する者は面会者について自分の意思で会うか会わないかを選択する事が出来るのだ。ただし訴えた者の許可がいるようになっている。訴えた者の許可がいるのは買収を避けるためである。


「ねぇアディル、あなたも一緒に会ってもらって良い?」


 アリスの言葉にアディルは少し考える。アディルが考えたのは自分がいて何か役に立つかという事を考えた結果であった。


(どうする? 問題は俺が動く事によってアリスの立場がまずい事になるのではないか?)


 アディルはそう考えていた所にアリスがあっけらかんとした口調でアディルに言った。


「大丈夫よ。どうせレグノール家の連中と私の中は修復なんか不可能なんだから私の立場が悪くなるなんてあり得ないわ」


 アリスはそう言って笑うとアディルも顔を綻ばせた。


「そうだな。アリスの言う通りだ。これ以上関係が悪くなるなんてあり得ないからな。俺も好きにやらせてもらうという事で参加させてもらうよ」

「そういう事♪ 悪いけどみんなアディルを借りるわよ♪」


 アリスはそう言うとアディルの手を取って他のメンバーに向けて言うと他のメンバーはぐぬぬという表情を浮かべた。


「さ、行きましょう♪」


 アリスはアディルを伴ってレグノール家の重鎮に会いに出かけるのであった。

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