第26話 竜姫④

 翌日になり、アマテラスの面々は昨晩話し合ったように吸血鬼ヴァンパイアの対策に乗り出す。

 アディルが早速符を取り出して地面に放るとカラスと黒い兎が現れる。ヴェル達は兎を見て抱きつきたいような表情を浮かべるたのだがさすがに実行しない。ヴェル達は何だかんだ言ってTPOを弁えているのだ。


「とりあえず……竜姫というぐらいだから女なのだろうな……」

「そうよね。やっぱり竜を捕らえて差し出せなんてのは吸血鬼ヴァンパイアもそんな事を言うわけないわよね」

「そうだな。となると竜姫は人間と変わらない姿で意思の疎通も可能と見た方がいいな」

「なるほど……村の人達に情に訴えさせようとしたわけね」

「ああ、普通に考えればそうなるな。となるととりあえずは山の方から探すか」


 アディルはそういうと兎とカラス達は一斉に山に向かって行く。


「それじゃあ、私達は防備を固めることにするわ」

「ああ、頼むな」

「「「うん」」」


 ヴェル達三人はアディルと別れ村の中心地に向かって歩き出した。まずは避難所となる集会所に結界を張りに行ったのだろう。


「さて……それじゃあ、俺も始めるか」


 アディルは呟くと山に向かって歩き出した。今回は空と陸から探しているが、吸血鬼ヴァンパイアの追跡を逃れるような相手である以上、自分の目でも探すべきだと考えての行動である。

 アディルは山に入って二時間ほどすると式神のカラスがアディルの元に飛んでくる。アディルは人差し指を伸ばしカラスが人差し指にとまった。


「あっちか……」


 アディルはカラスから得た情報から進路を変える。同時に他の式神達もカラスが見つけた場所の周囲に向かって一気に向かって行く。


「……ん?」


 走るアディルの首筋に突然ゾワリとした感覚があった。その感覚を感じた瞬間にアディルは前に跳ぶ。アディルが振り返った先には一人の少女が立っている。

 その少女は身長一六〇㎝程度、長い銀髪を後ろで束ねている。容姿も整っており、彼女を見た者が抱く第一印象は「美しい」というものだ。あまりにも人並み外れた美貌は時として冷たい印象を与えるものであるが、彼女の場合は目に愛嬌がありそれが可愛らしいという印象を見る者に与えている。

 白を基調とした服装であり、スカートの長さは太股の真ん中程度でありその脚線美を存分に晒している。


「竜姫か?」


 アディルの言葉に少女はニヤリと笑う。アディルが一目で竜姫と推測した理由は頭に長さ10㎝程の角が生えているからであった。


「この角見れば人間でない事は一目瞭然でしょう。それなのにそんなわかりきった事をきくなんてね」


 少女は口元を歪めてアディルを嘲弄する。


「いや、普通確認するだろ。それに俺はお前が人間でない事はわかっても竜姫かどうかは分かるわけないだろ。その程度の事もわからないと愚か者の分際で人を見下せるなんて頭が悪いにも程があるぜ」


 アディルは挑発にのるのは愚かであるという事はわかっているのだが、やられっぱなしと言うのは性に合わないために挑発し返す事にする。やられたらやり返すのはアディルにとって当然すぎる事なのだ。


「あいつの眷属のくせに言ってくれるわね」

「あいつ?」

「惚けないでよ。ローゴン=レジックとかいう吸血鬼ヴァンパイアよ」

「なるほど、ローゴンとかいう奴が吸血鬼ヴァンパイアの名前か」

「あら……下手な芝居は止めてもらえるかしら」

「芝居じゃないんだがな。俺はハンターでありそのローゴンとやらと敵対する側のものだ」

「信用できないわね。あなたがローゴンと敵対してる物的証拠なんて一切無いもの」


 少女の言葉にアディルは言葉に詰まる。いきなり初対面の人間を信じろと言われたからと言ってはいそうですかとなるわけないのだ。


「そりゃそうだな。それじゃあ、俺にローゴンの弱点を教えてくれないか?」

「弱点?」

「俺がそのローゴンを斬る。どうやらそうしないとあんたは話を聞いてくれそうに無いからな」


 アディルの言葉に少女はクスリと笑う。


「良いわね。言葉じゃなくて行動で示す。そういうの好きよ」

「そいつは良かった。それで吸血鬼ヴァンパイアはあんたよりも強いのか?」


 アディルの質問に少女はどうやら気分を害したようである。少しばかり語気を荒くしてアディルに言い放った。


「そんなわけないでしょう。あいつなんか簡単に斃せるわよ」

「じゃあ、どうしてやらない?」

「あいつは分身体だもん。斃したからってまた新しい分身体を送り込んでくるだけよ。面倒くさい」

「分身体か……つまり本体を斃さないと際限ない……」

「そういう事よ」


 アディルの言葉に少女はうんざりしたような声で返す。


「そうか……じゃあ、あんたは吸血鬼ヴァンパイアをどうやって斃した?」

「簡単よ。ヴァンパイアは心臓を破壊すると死ぬわ」

「それだけか?」

「それだけよ。簡単でしょう?」

「ああ、それじゃあ簡単ついでに吸血鬼ヴァンパイアの能力の方も教えてくれるか?」

「そうね。私の知ってるのはまずあいつは体を霧に変化させることができる」

「霧?」

「ええ、霧となっている間は物理攻撃は効果はないわ」

「厄介だな……」

「ええ、私が教えるのはここまでね」

「そうだな礼を言うよ。それではローゴンとやらを斬ったら話を聞かせてもらうというという事でいいな?」

「ええ、約束は守るわ」


 少女はニコリと笑う。アディルはそれを見てクルリと背中を向ける。


「ねぇ……」

「なんだ?」


 アディルは立ち止まるが振り返ることなく少女の言葉に返答する。


「私を信じるの?」

「ウソをついているのか?」

「そんなわけないじゃない!!」

「なら、良いじゃないか。ここで情報提供主を疑うなんて野暮なことはしない」

「……ふん」


 アディルの言葉に少女は鼻を鳴らす。だが、アディルは不快な気分にはならない。少女の態度が照れ隠しであるという事がわかっていたからだ。


「じゃあ、またな」


 アディルがそう言うと少女は黙って頷き、アディルを見送った。


「人間にもあんなやつがいるんだ」


 少女の声は小さくアディルの耳には届く事なく消えていった。


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