聞き込みという名の蹂躙①
王都に戻ったアディル達はヘルケン達と別れるとハンターギルドへ向かい任務達成を報告し報酬を受け取った。報酬はヘルケン達を護衛した分と合わせて金貨六枚、銀貨六枚となり資金面での当面の危機はまず脱したと言って良かった。
アディル達は報酬を受け取り近くの定食屋で食事を摂りつつ今後の話し合いを行う事にした。
議題はもちろん“ジルド”と“ゴーディン商会”のどちらの言い分を信じるかと言うことである。アディル達はゴーディン商会に対しかなり悪い印象を持っていたのだが、それが必ずしも正しくない事をすでに察している。そしてジルドの話に見つかった矛盾はアディル達にジルドに対する疑念を芽生えさせたのだ。
「それじゃあ、まとめようか」
全員の食事が出そろった所でアディルはアマテラスのメンバーに対して議題を提示する。アディルの言葉に全員が頷き、それを見たアディルが話を始める。
「まず第一にジルドさんが俺達に話した事情の信憑性がヘルケンさん達からの話で揺らいだ。ここまではいいな?」
アディルの言葉に全員が頷く。
「確かに今まではジルドさんって被害者と思ってたけど冷静になってみるとちょっとおかしいわね」
「ヴェルの言う通りね。今にして思えばジルドさん
「確かにそうね。恐れていないのは私達がハンターだったから助けてくれると思ったというような事を言ってたけど、
ヴェルとエスティルの言葉に他の三人は頷く。
「第二にゴーディン商会の人達がジルドさんの事をさん付けしてた。しかも気の良いお爺さんという表現……しかもその声に忌ま忌ましさは一切感じなかった」
アディルの言葉にアリスが返答する。
「私はジルドさんとゴーディン商会の方々は良い関係を続けてきたんだと思うわ……みんなもそうでしょう?」
アリスの言葉に全員が頷く。全員が頷いたのを見てアリスはさらに続ける。
「そんな良い関係を築いてきた相手に疑いを向ける……。私達は王都に来たばかりだからその辺の事情はまったく知らない……演技?」
アリスの演技という言葉に全員の視線が交わる。演技という言葉はかなり信憑性が高いようにアディル達には思われた。
「でもみんなジルドさんから私達に対する悪意を感じる?」
エリスの意見に全員が即座に首を振る。アディル達はジルドから悪意というのを一切感じない。もちろんアディル達が感じないだけでジルドが悪意を持っていない証明にはならない。だが、アディル達はそれぞれ人の悪意というものにかなり鋭いのは事実である。
「もちろん私達が気付いていないだけの可能性もあるわ。でも、ジルドさんが演技をしているとして何を目的にしているかどうかを考えた方が良いかもしれないわ」
「ああ、そしてもう一つあるんだが、ジルドさんとゴーディン商会が演技を始めたのはこの一ヶ月未満の事だ」
「そうね王都を離れていた時期から考えれば当然そうなるわよね」
「だな。この一ヶ月の間にジルドさんは演技をする必要があり、それを実行してるわけだろ?」
「うん」
「ジルドさん、ゴーディン商会、
「「「「王族?」」」」
アディルの王族という言葉に四人の声が揃う。いくらなんでも話が大きすぎるという印象だったのだ。
「まぁ俺も話が大きくなりすぎるとは思うのだけどそこまで想定しておけば流石に大物が出てきても驚かなくてすむかなと思ってね」
「ま、まぁそうよね。どう考えてもそこまで大物は出てこないわよね」
「うん」
「一応、私も王族なんだけど?」
「まぁ、エスティルはそうだけど普通王族とは関わり合いにならないわよ」
全員がそこで笑う。自分達がそこまで大物で無いという思いからアディルの王族云々の話は冗談という事になったのであった。
「まぁとりあえず。ジルドさんに聞いても証拠が無い以上、惚けられて終わりだろうな。となると外堀から埋めて行くに限る」
「外堀か……具体的には?」
「ゴーディン商会、ジルドさんはまず尻尾を掴ませるようなヘマはしないだろうな……」
アディルの言葉を聞いて四人はすぐに外堀が何かを察した。
「蒼ね」
「ああ、蒼ならいけると思う」
「それじゃあ、早速蒼の連中を締め上げるとしようか」
「そうね」
「うん」
アディルの好戦的な提案に全員が賛同する。ヘルケン達からゴーディン商会へアディル達の話が伝わっており、そこからジルドへ話が行く可能性がある以上アディル達とすれば即座に動く必要があるのだ。
「でも蒼の連中がどこにいるか知ってるの?」
ヴェルの言葉にアディルはニヤリと笑う。
「知るわけないさ。だから知っている連中に教えてもらう事にしよう」
「?」
「蒼の連中は闇ギルドに入るだけの覚悟がなく、かといって真面目に働く事も出来ないといういわゆる半端者なんだ。そんなやつらを釣り上げるのは簡単だ」
「どうやるの?」
「幸いにして四人とも凄い美少女揃いだからな。ちょっと街を歩けばすぐに向こうから近付いてくるさ」
アディルの言葉に四人に納得と嬉しそうな表情が浮かんだ。アディルは四人をエサに蒼の連中を釣り上げるつもりなのだ。これは倫理的に首を傾げる者がいるだろうが、アディルにしてみれば当然、四人だけに任せるつもりはないし、自分が守れば大丈夫と思っていた。まぁアディルの助けが無くても四人ならば何の問題も無いのは間違いない。また、四人はアディルに“美少女”と言われた事に対して正直な所、ものすごく嬉しかったのだ。
「えへへへ♪」
「きゅふふふふふふ~♪」
「ぐっへへへっへ♪」
「ふふふ~♪」
四人の嬉しそうな笑い声にアディルは少しばかり引いている。見目麗しい四人の美少女が艶やかに笑う顔は眼福ものなのだが、笑い声に少しばかり残念なものが含まれているのだ。
「と、とりあえず。王都の貧困街にいけば質の悪い連中に絡まれる可能性が高くなるだろうからそこから蒼まで辿り着く事にしよう」
「「「「うん♪ ぐへへへへ♪」」」」
アディルの言葉に四人は即答するがその後にまたも残念な笑い声をあげアディルは先行きを心配するのであった。
そして……それから一時間後、王都で最も治安の悪い場所の入り口にアディル達は立っていた。
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