聞き込みという名の蹂躙②

「それじゃあ行こうか」

「「「「うん」」」」


 アディルの言葉に四人のメンバー達は明るく答える。王都でも治安の悪い事で有名なこの区画に入るというのにその声にはまったく緊張感はなかった。

 

「あ、人と話している最中が最も危険だから十分に背後に注意をしてくれ。俺が犯罪者なら話しているときには話し相手に注意が向くからその隙を狙う」

「なるほどね。確かに人と話してる時はその人に注意がむくもんね」

「そういう事だ」


 アディルの言葉に全員が頷くとアリスが何か含むところがあるような表情を浮かべてアディルに尋ねる。


「アディルは私が浚われそうになったら助けてくれる?」


 アリスの言葉にアディルは頷く。


「ああ、もちろんだ。まぁアリスを浚えるような強者がいたら是非とも戦ってみたい」

「はぁ……そういう事じゃないんだけどな」


 アリスはやや心外だという表情を浮かべている。アリスとすれば後半部分はまったく必要ない。絶大な戦闘力を有しているアリスとは言え、守られたいという欲求がゼロというわけでは無いのだ。

 ただ前半部分が即答された事によりアリスの頬には少しばかり赤みが差していた。


「あれ~アリス~どうしたの~顔が赤いわよ~」

「そうそう、大胆な事を聞いておいて~」

「やるわね~」


 それを見ていた他の女性陣からアリスをからかう声が発せられる。アリスもこの段階で自分があざとい行動に出たという意識が生じたのだろう一気に顔を赤くする。


「しょ、しょんなことないわよ」


 アリスは気恥ずかしさからか、やや上ずった声を出している。動揺が丸わかりであり女性陣三人は顔を綻ばせた。


「もう、さっさと行くわよ!!」


 顔を赤くしてアリスはそう言うとずんずんと歩き出した。その様子を見ながらアディル達はまたも顔を綻ばせるとアリスの後を追ったのであった。




 *  *  *


 貧民街に入ったアディル達を街の住人達が遠巻きに見ている。何しろアマテラスのメンバーの女性陣はまず全員が美少女と称されるに相応しい容貌をしているため、“なぜここに?”と警戒しているのだ。それでも何人かの者達がアディル達を見て慌ててどこかに走っていく姿があったところから、遠からず何らかのアクションがある事は容易に想像できる。


(仲間を呼びに行ったかな?)


 アディルは心の中でそう推測する。アディル達は素人目に見てもハンターである事は推測出来るだけの格好をしているために警戒して仲間を集めていると考えたのだ。


「みんな、気付いていると思うがそろそろ何らかのアクションが起きるぞ。何人かが仲間を呼びに行った」

「でも、逃げただけという可能性も否定できないわよ」


 アディルの言葉にエスティルが逆の解釈を提示する。ところがアディルはエスティルの言葉に首を横に振る。


「いや、みんなを見た時に慌てて走って行った奴の表情はニヤついていたから仲間を呼びに行った可能性の方が高い。もし、逃げたのなら顔が引きつるか、無表情になると思う」

「なるほどね。表情までは考えなかったわ」

「まぁエスティルの位置では表情の確認までは出来ないからな、それから見ろよ」


 アディルが視線を向けた方向を見ると十人ほどのガラの悪い連中がアディル達に向かってきてるのが見えた。


「みんな勢い余って殺すなよ。下手したら官憲に追われることになるし、この街の連中をまとめて敵に回すことになる」


 アディルの言葉に四人は頷く。アディルの言葉の意図を全員は察している。アディルはもし殺してしまえばこの街の連中を敵にして欲しい情報を得ることが出来なくなるのを避けたかったのだ。


「さて始めるぞ」


 アディルが言うと全員が自分達に向かってくる連中に視線を移す。このまま歩けばぶつかってしまうためにアディル達は道を譲るが、一人の男がわざとらしくアディルに肩をぶつけてきた。余りにも稚拙なやり方であるが因縁をふっかけるには一番手っ取り早い方法だと言える。


「いてて、おいどこ見て歩いてるんだ!!」


 ぶつかった男がわざとらしくぶつかった肩をさすりながらアディルに因縁をふっかけてきた。だが彼らは知らないのだ。因縁をふっかけられるのをアディル達は別に困った事と考えていない。それどころか手間が省けると望んでいたのだ。男達は自分達が狩られる立場である事をこの段階でまだ気付いていなかったのだ。


あおの連中に会いたい。案内しろ」

「はぁ?」

「だから俺達は蒼に属している連中に会いに来たんだ。お前達暇だろ?案内しろ」


 アディルの単刀直入の言葉にぶつかってきた男は呆けた表情を浮かべる。いつもならば“お前からぶつかってきたんだろう”という類の言葉が返ってくるというのにアディルの反応はまったく関係の無い“蒼”の事を言ってきたのだ。


「お前、自分の立場がわかってるのか?」


 男が訝しげにアディルに尋ねるがアディルはまったく気にした様子を見せること無く先程の言葉をくり返した。


「お前こそ俺が何を言ってるか理解できないのか? その程度の知能しか無いのならお前に聞いても無駄だな。おい、お前」


 アディルはそう言うとぶつかってきた男の隣の男を指差した。


「え?」

「お前で良い。蒼の連中の所に案内しろ」


 アディルに指差された男は戸惑いの表情を浮かべている。いきなり自分が指名されるとは思っていなかったのだ。もちろんアディルは明確な意図があってこの男を指差したのではない。誰でも良かったのだ。


「おい、舐めてるんじゃねえぞ!!」


 無視される格好になった男はアディルに掴みかかろうと不用意にアディルの間合いに踏み込んできた。その瞬間にアディルは男の脛に前蹴りを放つと男は足を払われる形となりそのまま地面に転がった。地面に転がった男の頭をアディルは踏みつけると男達を睨みつけて言う。


「もう一度言うぞ。俺は蒼の連中に確かめたいことがあるからここに来た。知ってるのか知らないのかどっちだ?」


 アディルの不遜な言い方に男達の顔が怒りを前面に押し出した表情に変化した。劇的な変化であったがアディルは先手を打ち、最も近くにいた男の顔面に容赦なく拳を叩き込んだ。顔面に拳を受けた男は血を撒き散らしながら三メートルほどの距離を飛び地面を転がった。


「話したくなるようにしておくか」


 アディルの言葉に男達は自分達が絡んだ相手が危険な相手である事を思い知らされる事になったのであった。



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