第22話 幕間①
「お疲れ様でございます!!」
「お疲れ様です!!」
ギルドへの報告を終えて外に出たアマテラス一行を二人の強面の男が迎える。もちろんこの二人はアディル達に完全に無理矢理仕える事になった殺し屋である。強面であるが完全にアディル達に恐れおののき完全に服従しているようであった。
「おい、お前らは先に宿を取っておけ。“アゴルド”という宿屋だ」
「部屋数は一つよ。四人泊まれる部屋を押さえなさい」
エリスの言葉にアディルが驚いた表情を浮かべる。流石に別の部屋をとるものと思っていたからだ。
「仕方ないわよ。うちの財政事情で二部屋借りるなんて事出来るわけ無いわ」
「それはそうだが……いいのか?」
「良い、悪いじゃなくてそれ以外に選択肢は無いのよ。それともアディルは私達と一緒の部屋だと嫌なの?」
エリスの言葉にアディルはうっと言葉に詰まる。正直な話、この三人のような美少女と一緒の部屋に泊まる事が嬉しくないはずは無い。
「そんなわけないだろう。お前達が男と一緒の部屋に泊まるのは抵抗あるんじゃないかと思ったわけだよ」
アディルの言葉に三人は“今更何を言ってるの”という表情を浮かべる。実は昨日は同じテントで四人寝ていたのだ。同じテントですでに寝た以上、そこにこだわる理由はないのだ。
「何言ってるのよ。昨日も私達同じテントで寝たじゃない」
『そうそう、最初は私達を襲うかなとか思ってたけど横になってすぐに寝ちゃって逆に私のプライドはズタズタよ』
「エスティル、それちょっと違うわ」
『え?』
エスティルの言葉にヴェルが即座に突っ込む。この表現だとエスティルはアディルをいつでも迎え入れるつもりであるとなってしまうのだ。ヴェルはエスティルの元に駆け寄るとゴニョゴニョと何やら呟くと慌ててアディルに向かって両手を突き出すと手を激しく動かす。
『ち、違うのよ。アディル誤解しないで私はそんなふしだらな女じゃないわ!!』
エスティルのあまりの慌てように全員の顔が綻ぶ。
「エスティルそう慌てるな。お前の言いたいことは分かってるからな」
『むき~~元はと言えばアディルが小さいこと気にするからこんな事になったんだからね!!』
笑いを堪えながらアディルが言うとエスティルは抗議を行う。兜の中の顔はふくれっ面をしている事は三人には容易に想像できる。皇女という高貴な身分でありながらエスティルは気さくで人間で平民だからと見下したりすることは一切無い。
その辺の事情の方はまだ聞いていないが今後、エスティルがタイミングを選んで話すものであると三人は思っていた。
「さ、それじゃあ。行きましょう」
エリスの言葉に男達は駆け出す。アディルから命令を受けた事を思い出したのだろう。
それを見てから四人は宿に向かって歩き出すのであった。
* * *
「ねぇアディル、お願いがあるんだけど」
安宿“アゴルド”の一室でヴェルがアディルに唐突に切り出した。すでに食事も済み、四人が部屋でくつろいでいる時の事である。ちなみに男二人も部屋にいるのだが、アマテラスのメンバーではないために相手にされていない。
「どうした?」
「うん、アディルが今回の魔族との戦いで使った武器の事なんだけど」
「薙刀の事か?」
「ナギナタっていうの? そうその薙刀なんだけど私に教えてくれないかなと思って」
「それは構わんがいきなりどうしてだ?」
「うん、私は基本投擲で戦っているんだけど当然それでは通じない相手もいるわ。その時にこのショートソードだけでは自分の身を守ることが出来ないんじゃないかと思ってね」
ヴェルの言葉にアディルは納得の表情を浮かべる。ハンター試験での“戦闘”部門において実際にアディルの投擲を防いだ試験相手にヴェルは事実上敗れていた。あれは試合だったから命は助かったがもし実際の戦闘であれば命を失っていた可能性が高いのだ。
「なるほど……確かに薙刀はかつては戦場の主役だったと父から聞いている。だが、集団戦が発達した事で廃れたと聞いたんだ。だが、使いこなせば相当なものになるのは間違いない」
アディルの言葉にヴェルは喜色を浮かべる。アディルの言葉から自分の希望が叶えられそうであることを察したのだ。
「よし、それじゃあ。ヴェルに薙刀を教えるよ。と言っても俺が教えられることは基本だけだ。それから先は実践して洗練されたものにしていってほしい」
「うん、ありがとう!!」
アディルの言葉にヴェルは顔を綻ばせる。元々、レムリス侯爵家にいたときから他人の技を見て、技術を習得してきたヴェルデある。基本だけ教えてくれるだけでヴェルとすれば十分すぎるのだ。
「あ、そうだ。それなら並行して私にも符ふを使った術を教えてもらえる?」
そこにエリスがアディルに頼む。
「ああ、もちろんだ。エリスは魔術が使えるからな。符術の習得もそんなに時間がかからないと思う」
「よし!! あのモフモフを……自分で……」
エリスもまたアディルの言葉に顔を綻ばせる。
「それからエスティルは俺の剣の練習相手になってくれないか?」
「私が?」
「ああ、エスティルの剣の腕前は素晴らしいからな。お前ほどの使い手が練習相手になってくれればこんなに嬉しい事はない」
「もちろんよ。私もあなたの使う剣に興味があるからちょうど良いわ」
アディルの言葉にエスティルも快諾する。
「よし、それじゃあ明日は次の依頼を受けてから、その準備をして、それから始めようか」
「そうね。早く習得するためには修練あるのみね♪」
「よし!! あ、アディルあなたって無手術むてじゅつは得意?」
そこにエリスが無手術について尋ねる。無手術とはその名の通り素手での格闘術の事だ。ヴェルの言葉を聞いて自分も強くなるために何か出来ることはないかと考えた結果である。
もちろん、治癒術士のエリスは積極的に前線で戦う事はないという事は自分自身も理解しているのだが“出来ない”と“やらない”には大きな隔たりがある。出来ないはいざとなったときに余裕がなくなるがやらないは余裕が生じるものなのだ。
「ああ、無手術もある程度は教えられるから一緒に教えるよ」
「やった~♪」
アディルの快諾にエリスは拳を握りしめて喜びを表現する。その様子を見て三人は顔を綻ばせる。
「それじゃあ、今夜はもう休もうか。明日一番でギルドに行ってそこから準備に入る事にしようじゃないか」
「「「うん」」」
アディルの言葉に全員が頷くとそのままベッドに入り込む。とった部屋にはベッドが二つしか無いのだがアディル達は二つのベットをくっつけて一つの大きなベッドにするとそこに四人が入る事になったのだ。ただし布団は三つ頼み、アディルは一つの布団にくるまる。流石に同じ布団に潜り込むのは不味いと考えた故の事である。
「それじゃあ、お休み」
「うん、お休み」
「お休みなさい」
「お休み」
四人はそれぞれ挨拶をするとすぐさま深い眠りに落ちたのであった。
次の日の朝、四人はハンターギルドで一つの依頼を受ける。その依頼はエイサンから三日程の距離にあるクレルドム山に住む魔女から魔法薬である“ポーション”を仕入れることである。
アマテラスの二回目の任務が始まる。
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