反撃⑥

 茶番は終わりというアルトとベアトリスの言葉にレメトスとイザベラは顔を強張らせた。


「殿下……一体どういうことですか?」


 レメトスの声には戸惑いだけでなく恐怖が含まれ始めていた。今までの話の流れからただ事で済むとはとても思えなかったからである。


「もちろん、決まっているだろう。お前たちレムリス侯爵家が私達を殺害しようとしたことに対してその罪をこれから問うということだ。先程アディルが侯に言っただろう?」


 アルトの言葉にレメトスの顔が凍った。


「先程も言った通り、我々の宿泊先に毒龍ラステマが襲撃してきた。そして領軍もそれに関わっている」

「な……」

「すでに領軍の指揮官であるスタンレーとやらは捕らえている」


 スタンレーの名にレメトス、イザベラは顔を青くする。それは領軍の関与の動かぬ証拠でしかない。


毒龍ラステマも襲撃、そして領軍による包囲ここまで揃ってまさかレムリス家が一切関わっていないとは言わぬよな?」

「あ、あぁ……」


 レメトスはアルトの言葉に絶望の表情を浮かべた。この段階で言い逃れなど不可能であることは明白であったからだ。


「お、お待ちください!! 誤解でございます!!」


 そこにイザベラが叫ぶ。このままの流れ、いや、現時点でレムリス家の取り潰しは決定したようなものだ。しかし、それでもイザベラは足掻くことを選択したのだ。


「ほう、夫人は何やらまだ意見があると?」


 アルトはやや皮肉げにイザベラを見やる。本来であればイザベラは怯んだだろうが、この状況では怯んでしまえば露頭に迷うという結果が待っている以上、引くわけにはいかないのだ。


「たしかに我々は領軍に命令を出しました。しかしそれは犯罪者を捕らえるように命令を下したのです」


 イザベラの言葉にアルトが一瞬であるが楽しそうな視線をイザベラに向ける。イザベラはその事に気づくことななく言葉を続けていく。


「我らが捕えようとしたのはその者達なのです!!」


 イザベラは叫びながらアディルとヴェルを指差した。


「ほう?」


 アルトは片眉をあげてイザベラの意見を聞いている。


「恥ずかしながらそのヴェルティオーネは当家に名を連ねる者でした」

「ふむ」

「そしてそのアディルという男と恋仲となり駆け落ちした次第でございます。当然、我らとしてはそのような事を許すわけにはいきませんので追っ手を差し向けましたが捕えることはかないませんでした」

「なるほどな」

「万策尽きた我々は闇ギルドではございますが毒龍ラステマに二人を捕えるように依頼したのでございます」


 イザベラの言葉は一応筋の通ったものである。


「そうか、それではアディルとヴェルに尋ねよう。今の夫人の言葉に反論できるか?」


 アルトはアディルとヴェルに視線を向けた。


「そんなわけないでしょうが、アホらしい」

「そうよ!!そんなわけないじゃない!!」

「アディルとヴェルが駆け落ちなんてするわけないじゃない!!」

「そんなあからさまな嘘をついて助かろうなんてレムリス家ってどこまでも腐った家なのね!!」


 アディルは即座に否定の言葉を発する。そして、エリス、エスティル、アリスもそれに同調するように大声で反論した。三人にしてみればアディルとヴェルが恋仲などというのを認める事は出来ないからだ。


「ちょっと、みんなどうしてそこまで力強く否定するのよ!!」


ヴェルがエリス達三人に抗議を行う。ヴェルもまた三人がイザベラの言葉のどこに引っかかっているのか理解していたのだ。すなわちアディルとヴェルが駆け落ちしたという項目が気に入らないのだ。だが、そこはヴェルとすれば喜ばしい事なのでそこを否定しなくてはならないことは実は結構複雑であったのだ。


「ヴェル、どんな小さな嘘であってもこの場では許すわけにはいかないのよ。頭の悪い侯爵夫人が頭を絞って考え出した最後の足掻きを軽く見てはダメよ」


 エスティルが最もらしく言う。言っていることは正しいのだが今一釈然としないものをヴェルは感じていた。


「ねぇ……侯爵夫人、あなたはなぜよりにもよってアディルとヴェルが駆け落ちなんて嘘をこの場で述べたのかしら?」


 エスティルは妙にニコニコしながらイザベラに告げると明らかに殺気をイザベラに叩きつけた。いや、エスティルだけでなくアリス、エリスも殺気をイザベラに叩きつけていた。

 イザベラは少女達の逆鱗に触れた事を何となくだが確信する事になったのであった。


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